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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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お嬢様の謎?

 大きく開いた目で僕と鉢植えの芽を交互に見るお嬢様に、僕は心の中でガッツポーズを決めていた。

 日本の病院とかだと、鉢植えの植物は「根が付く」なんて理由で敬遠されるものだった。でも、この世界ではそういうのは無さそうだったし、病気で元気の無いお嬢様には、あっという間に枯れてしまう切り花より、日々少しずつ成長して、やがて綺麗な花を咲かせる鉢植えの方が喜んで貰えると思ったのだ。

 しかも、僕の『威圧感』のおかげで、視認出来るレベルで成長を確認でき、季節外れの花が咲かせられるとなれば、楽しみもひとしおだろう。


「ああ、勿論、毎回こちらに伺うと言うわけではありません。鉢植えだけ調理場の方に持ってきていただければ、その都度少しだけ成長させてお返し致します」


 この一言は忘れない。これを言っておかないと、「だから毎回部屋に入れろ」という要求になっちゃうからね。年頃だと思われるお嬢さんの部屋に、頻繁に見知らぬ農夫……ゲフンゲフン……冒険者・・・を入れるのは、外聞に悪いだろうしね。


「お気遣いありがとうございます。ですが、もし宜しかったら、出来るだけトール様にはこちらにお出でいただきたいですわ。スノウベルが成長する様を直に見たいですし、その……お野菜も美味しかったので……」


 そう言って、お嬢様がほっぺたに手を当てて、はにかみ笑いをする。うわ、可愛い。何だこれ超可愛い。日本にいた頃は芸能人とかアイドルとかには興味無かったんだけど、これを見たらその気持ちがわかった。決して手の届かない高嶺の花だとわかっていても、これは応援したくなるだろう。


「わかりました。リチャード様の許可が得られましたら、できるだけご希望に添えるよう努力致します」


 二つ返事で了承したいところだけど、流石にそれは越権行為だ。こういう時は、一番偉い人に責任を丸投げするに限る。と言うか、正直断っていいかどうかすらわからない。貴族の常識とか、僕には全然無いからね。


 その後は、町の様子とか、外の世界の事とか、たわいの無い話をした。ぶっちゃけ僕も転生したばっかりなので、場合によっては僕の方が知らないことも多かったりして、時々お手伝いさんとか警備の人とかに突っ込まれたりした。うぅ、こんな事ならもうちょっとくらいは冒険しておくべきだったな。17歳にして「はじめてのおつかい」レベルの周辺知識しかないのは、流石に恥ずかしい。


「……そう言えば、フルール様は私のことが怖かったりしないのですか?」


 それなりの時間話をして、もうそろそろお開きというところになって、ふと僕は、お嬢様が『威圧感』の影響を受けていないような気がして、そう聞いてみた。執事さんや警備の人はもう慣れてるだろうし、お手伝いさんは時々身を固くしてたから、確実に影響を受けてる。なのに、お嬢様はそう言う様子が全然見えなかった。

 僕の問いに、お嬢様は不思議そうな顔をして首を傾げてから、すぐに思い直して笑顔を浮かべる。


「はい。お父様やポーツマスから『悪意は無いが、人を怯えさせる気配を発する者だから気をつけなさい』と聞いていたのですけど、そういう感じは全く……それどころか、お会いしたその時から、何故だか体が少し楽になった気さえするのです。なので、私はそういうものだと思っていたのですが……違うのですか?」


 その答えに、今度は僕の方が首を傾げる。今まで、初対面で威圧を影響を受けない人はいなかった。というか、何度会ったとしても、慣れることはあっても影響が無くなった人は一人もいない。なのに、お嬢様にはそれがない……何でだろう? 僕の気の持ちようで威圧が発動しなくなる? それならミャルレントさんにだって威圧が無効になるはずだ。いや、効果がおかしいけど「体が楽になった」というなら、威圧そのものはされてる? うーん。考えてもわからない……


「何とも答えかねるのですが……少なくとも、フルール様がお辛くないのであれば、私としては何の問題もありません」


「でしたら、私は大丈夫です。なので、気にせずまたいらしてください」


 満面の笑みで返されたその言葉を最後に、今日の面会は終わりになった。2時間くらい話していたと思うので、おそらく当初の予定より大分長かったんだろう。部屋を出たら、交代するために待っていたであろう別の警備の人が、もの凄く退屈そうに壁に寄りかかって立っており、僕たちを見たら慌てて直立不動の姿勢になって敬礼をしてきた。今まで一緒だった方の警備の人が苦笑しながら彼の肩を叩いて、その場を去って行く。その後は執事さん、僕、新しい警備の人の並びでお屋敷を出て、門のところで別れたら、僕は一人で自宅へと帰った。


 うーん。今日は色々あったし、1日くらいのんびりしてもいいよね。


 僕は頭に浮かび上がってくるあれやこれやに整理をつけつつ、ぼんやりと時を過ごしてその日は眠りについた。





*関係者の心境:ポーツマスの場合


 本日は、旦那様に報告することが多数ございました。生の野菜に、火を通した物とは違う栄養が含まれていることなど、初めて知りました。これはお嬢様の健康のためにも、是非とも詳しく調べる必要があるでしょう。


 また、お嬢様がトール様を随分と気に入られたことも、報告しなければいけません。旦那様も気に入ってはおられますが、所詮は平民。身分の差を超えた友誼は、お互いに取って良いものとは言えません。誰も不幸にしないために、今後の経過によっては手を打つ必要があるでしょう。幸いにして、トール様は冒険者ギルドの受付嬢と懇意にしているという話がありますので、意図的に事態を動かすならば、概ね平和的に解決できそうなのが救いですが。


 そして、何より問題なのが、トール様が名乗った「ウスイ」という家名です。あれはまさに、ついうっかり口にしてしまった、という感じでした。つまり、貴族を騙ろうという意図があったのではなく、本当にそう名乗っていた時期があったということです。あの世間知らずな様子からも、彼が貴族であったという確かな痕跡がうかがえます。

 ですが、私の知識のなかに「ウスイ」という家名の貴族は存在しません。であれば、そこにどんな意味が隠れているのか……それこそ、ただの平民であるより、よほど厄介なことがある可能性があります。これに関する調査は、最優先でしょう。


 それと、トール様の不思議な力にも気を配らねばなりません。本人は「周囲を威圧する力だ」と仰っておりましたが、威圧で食材の味があがり、植物が成長するというのは、いくら何でも無茶でしょう。他の面では馬鹿がつくほどわかりやすい方なのに、ここにだけ誰が聞いてもわかるような嘘をつくとなれば、これにも大きな理由があると考えられます。あるいは、それがウスイ家という謎の貴族に繋がっているのかも知れません。


 彼を招いたのは旦那様ですので、トール様が意図して当家に近づいてきたとは考えづらいですが、貴族からの接触そのものを待っていたという可能性は否定出来ません。あの商業ギルドのレンデルと親交があるのも気にかかります。冒険者と名乗りながら土をいじって野菜を育て、大きな影響力のある商業ギルドのマスターと繋がり、聞いたことの無い貴族姓と、正体不明の力を持つ謎の人物……そして何より、これだけ怪しい経歴でありながら、善人であることを疑わせない人間性……全てが計算ずくであるなら、今すぐ排除したいくらいですが……非常に困ったことに、私の中にも「彼が何の裏もない、ただの善人であったらいいな」と思う気持ちがございます。


 いやはや、私も耄碌したと言うべきでしょうか……ひとまずは、私もこれからは生野菜を食べることにしましょう。まだまだ当家のために、私も頑張らねば。

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