おもてなしご飯
その後暫くみんなで遊んで……もしくは僕だけが弄ばれて……から、改めてみんなで昼食を取ることにした。ひょっとしたら忙しいかと思ったファルさんも、何か予想外のことがあった場合を想定して時間を取ってあるので、ゆっくり昼食を取るくらいなら何の問題も無いということなので、晴れて全員での食事だ。
作るのは、勿論招待した僕。今日のお昼のメニューは……パスタだ。我ながらワンパターンだとは思うんだけど、この世界の主食は基本的にパンかパスタなんだから仕方が無いのだ。一応オートミールもあるけど、あれは正直あんまり美味しくなかったし、流石にこれだけお客さんを招待しておいて茹でたジャガイモを出すつもりもない。ジャガイモは美味しいけど、おもてなしとしては地味だしね。
と言うことで、パスタを茹でつつ各個人に対してソースやらを工夫すべく知恵を絞る。全員同じでも悪くは無いけど、ファルさんは野菜が好きだろうし、逆にパッピー君はおそらく肉が好きなはずだ。えっちゃん達は少量しか食べられないからやや濃いめの味付けにして少しでも満足感の得られる感じに、ミャルレントさんは……流石に魚介類は無いからなぁ。彼女は僕と同じでもいいかな? 最近はミャルレントさんの手料理を食べる機会が増えたから、味付けの傾向はわかってきたしね。大人数での食事だから、チャレンジ精神よりも安定志向の方がいいよね?
「はーい。みんなお待たせ!」
「わふー! …………あれぇ?」
出来上がった料理を、みんなの前に並べていく。が、自らの前に置かれた料理の皿を見て、パッピー君が首を傾げる。
「あの、トールさん? これは罰なのでしょうか? パッピー君は何か悪いことをしてしまったのですぞ?」
みんなの前にあるのは、真っ赤に色のついたパスタだけ。具無しのそれを見て悲しそうな顔をするパッピー君に、僕は笑って答える。
「まさか。みんな好みが違うから、これから上に具を足していくんだよ。パッピー君には、これだよ」
別に持ってきたお鍋から、大きめの肉団子を数個パッピー君のパスタの上に盛り付ける。
「トールさん、これは……?」
「僕特製の肉団子だよ。パッピー君お肉好きそうだったから。あ、ひょっとして嫌いだった?」
「まさかそんな! とんでもないです! パッピー君はお肉大好き! 大好物ですぞ!」
つぶらな瞳をキラキラさせて、フンフンと鼻を鳴らしながら猛烈に尻尾を振る様子から見ても、遠慮して言ってる感じでは無い。なら本当に肉は好きなんだろう。そのまま僕とミャルレントさんのパスタの上にも肉団子を載せると、僕は一端鍋を置いてから、別の小さな金属製の容器を取り出した。
「ファルさんにはこれです。多分肉よりこっちの方がお好きだと思ったので」
「あら、これって悪戯キノコ? え、でも、柄の部分を食べるの?」
「その言い方だと、食べたことあります?」
「ええ。でもこれ、煮ても焼いても味がしなくて美味しくなかったと思うんだけど……」
不安そうな顔のファルさんに、僕はニヤリと笑みを返す。
「ふっふっふ。僕もそう思ったんですけど、胞子を食べて残ったキノコが大量にあったんで、色々とやってみたんです。家から出られないせいで、時間も大量にありましたからね。その結果がこれなんですよ」
「ふーん。自信たっぷりってわけね。いいわ、その挑戦受けて立つわよ!」
「いや、そこまでじゃないですけどね」
やたら気合いを入ったファルさんの口に、僕は苦笑いしつつぽいっとキノコを一切れ放り込む。ファルさんの口がムグムグと動き、その白くて細い喉がコクリの動けば――
「……まあまあね」
「ええ、それが限界です。5本を刻んで鍋で煮て出汁を取って、そこに薄く切ってから干して乾かした1本を投入して旨味を染み込ませることで、6本分の味を凝縮したんです。その結果がそれなんで、手間に見合う味かと言われると……ですけどね」
「そうね。これなら普通に美味しいけど、そこまで大量の悪戯キノコを採取して手間暇かけて……とやってまで食べたいとは思わないわね」
相変わらずのストレートで飾らない物言いだけど、僕も完全同意なので返す言葉も無い。
「まあ、変わった物が食べられたってことで。パッピー君とミャルレントさんもどうぞ」
二人のお皿にもキノコを数切れ載せ、その他にも何かグリーンピースっぽい豆とか、ピーマンなんかもそれぞれ載せていく。そして最後に薄くスライスしたタマネギを、僕とファルさんのお皿にだけ載せる。犬とか猫にタマネギが駄目なことくらいは、僕でもよく知っている。だからこそ、手間がかかっても色んな物を別々に用意したのだ。万が一にでも成分が混じって重篤な状況になったりしたら、きっと死んでも後悔仕切れないだろう。
「えっと、ミャルレントさんとかパッピー君って、タマネギを食べても平気なんでしょうか?」
とは言え、ここは異世界であり、ミャルレントさんは猫では無く猫人族だ。それはパッピー君も同じなので、ひょっとしたら食べても平気かも知れない。そうだったら二人にだけ配らないのはただの嫌がらせになってしまうので、ならば素直に聞いてしまうのが一番だろう。
「タマネギですか? 料理にちょっと使われてるくらいなら平気ですけど、大量に食べるとお腹を壊したりしちゃいますね」
「パッピー君はもうちょっと苦手です。一口食べるとお腹を悪くしてしまうのですぞ」
「そっか。聞いて良かった。じゃ、二人はこれは取らないでね。その他のおかずはここに鍋ごと置くから、足りなかったら各自好きに取って食べて下さい。あと、味が薄いと思ったらこれを使ってね」
でんとテーブルに置かれるのは、自家製のトマトケチャップ……の様な何か。皮をむいたトマトを丁寧に潰して、ほんの少しだけ塩を入れてから鍋で煮込んで作ったそれは、キノコと違って実に良い味に仕上がっている。これを絡めたパスタは、実は最初の具無しの状態でも十分に美味しいのだ。大量の空き時間で作ったもののなかでは、これが一番の成功作だろう。
「それじゃ、食べよっか。いただきます」
「いただきますニャ」
「森と精霊に、今日の糧の感謝を」
「わふぅ!? な、何ですぞ? 何か言わないと駄目でしょうか? えっと、か、感謝ですぞー!」
一際元気なパッピー君の挨拶が終われば、全員が一斉に手を動かし始める。僕も早速一口食べて……うん、我ながら良い出来だ。
「ほら、えっちゃんたちもおいで」
僕が手招きすれば、足下にスライム達が集まってくる。かわりばんこに膝の上にぴょいんと乗ってくるので、その都度たっぷりトマトケチャップ的な……もうケチャップでいいか。それに絡めた肉団子を小さくちぎって食べさせてあげる。うんうん、美味しいようだ。
「わふー! この肉団子は凄く美味しいですぞ! あと、この赤いのも凄く美味しいです! これは何の赤ですぞ?」
「ああ、僕の畑で取れたトマトだよ」
「トマト!? パッピー君は野菜は苦手なのですが、これは凄く美味しいですぞ! 甘くて酸っぱいのがお肉のじゅわっとしたのに合わさって、凄く凄く幸せな味ですぞー!」
「ほんと、これ美味しいわね。特に具を足さなくてもそのままパスタが美味しいのがいいわ。ねえトール、そのトマトソースみたいなのって、分けて……いえ、売って貰ったり出来ないのかしら?」
「うーん。売り物にするほど大量には作れないですし、おそらく日持ちもあんまりしないと思うので無理かと……今ある分をお分けするのはいいんですけど」
僕の家の中にあるなら、『威圧感』の影響でそれなりに持つと思うんだけど、家の外に出してしまえばその限りじゃない。『威圧の楔』を添えれば別だろうけど、フルールさんの時の様に命がかかってるとかならまだしも、ケチャップのために貸し出すわけにはいかない。やり始めたらファルさんにだけってわけにもいかなくなっちゃうし、素で日持ちするんだと勘違いした人が出て食中毒にでもなったら困るからね。
「そう。残念だけど、それじゃ仕方ないわね。いいわ、今目一杯食べておくから!」
そう言って大きなスプーンで山盛りケチャップを掬ったファルさんが、明らかにかけ過ぎた場所を食べて口を酸っぱい感じする。
その顔を見て、みんなで笑う。食事はまだ始まったばかりだ。





