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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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スライムのグルメ

「…………キノコ?」


 でーやんを挟んで僕と反対側に有るのは、茶色いキノコだった。形的には松茸っぽい感じで、僕の腕くらいの太さの幹……茎? 何だっけ? とにかくそのくらいの太さの胴体に、握りこぶしくらいの大きさの先っぽがついている。長さは15センチくらいありそうで、少なくとも僕が日本で知っているキノコとしては規格外の大きさだ。


 そんなキノコの周りには、何故かそれなりの範囲で草が全く生えていない。そんなに深くないとは言え森の中なのに、キノコを中心とした円上に空白地帯が出来ているのは、何とも不思議な感じだ。


「でーやん? このキノコが――」


でゅぷるーん!!!


「うぉっ!?」


 一歩近寄ろうとして、でーやんから「止まるのじゃ!」と空気を震わし音として聞こえそうなほどに強い震えが発せられて、思わず転びそうになった。


「びっくりした……何? でーやん、どういうこと?」


でゅぷるーん!


 体を震わすでーやんが言うには、このキノコはとても美味しいんだけど、近づくとその美味しい中身が全部飛び出してしまうらしい。中身が飛び出す……キノコだから胞子として飛ばしちゃうとかだろうか? 日本にいた頃にそんな動画を見た記憶があるので、きっとそれの敏感な奴なんだろう。


「じゃあどうすれば……あ、そうなんだ? わかった。やってみるね」


 更なるでーやんの指示に従い、僕はキノコの根元の方からゆっくりと威圧をかけていく。少しずつ少しずつ、下から上に染み渡るようにユルユルと威圧を重ね、ある程度浸透したところで今度は笠の部分に対し、キュッと絞り上げる感じで『収束威圧』を発動。そうやって中身が飛び出さないようにしたら、最後はさっちゃんとあーちゃんを基点として、『輪唱威圧』で全体を一気に締め上げる。これは発動するのに直接触れないと駄目なんだけど、そっと触れたら大丈夫だった。ここに至るまでで軽くなら触れても大丈夫な状態に持っていったからだろう。


「ふぅーっ。結構な大仕事だったんだけど、これでいいの?」


でゅぷるーん!


 ガチガチに威圧されまくったキノコはそれなりに強い衝撃を与えない限りは大丈夫だろうと伝えられて、『威圧の剣』で地面からの生え際をスパッと切って収穫すれば、でーやんが年甲斐も無く(?)はしゃいでいる。まだ収穫しただけだというのに、その身をキュウっと捻っているのでかなりの喜びようだ。


「で、美味しいって、これはどうやって食べるの? いや、スライムならそのまま食べるのかな?」


でゅぷるーん!


「切るの? ここ? わかった。じゃあ……おおぉ?」


 指示に従いキノコの先端部分を切り落とすと、その中には黄色くてねっとりした何かが結構な量詰まっている。さっきの話から推測すると、おそらくこれがでーやんの言う「美味しい物」で、その正体はこのキノコの胞子ってところだろう。


「で、これを……塗るの? でーやんに? これ僕が指で触っても平気なの? わかんない? そっか、わかんないか……」


 わからない物は仕方が無い。最弱たるスライムが大丈夫なんだから、多分僕が触っても大丈夫だろう。最悪かぶれるくらいはあるかも知れないけど、流石に猛毒ってことは無いはず……無いと信じたい。


 恐る恐る、まずは指で一掬い。ねっとりとしたクリームみたいな感触で、特に指先がしびれるとかは無い。

 匂いを嗅いでみる。植物なのに、何故かちょっと生臭い。少なくともこの段階では、僕にはこれが美味しいとは思えないんだけど……


「じゃあ塗るよ……っていうか、その土まみれの状態のままでいいの? 一端体を……いいの? うん、じゃあ……」


 どうやら体を土まみれにしたことにも意味があるらしい。であれば僕が言うことは何も無い。指で掬ってでーやんの体に塗り込んでいけば、その度にその体が小刻みに震える。


 ……これ、ヤバい成分とか入ってないよね? 幻覚とかトリップとか、そんな感じのだったら凄く嫌なんだけど……ああ、でも、それだったら「美味しい」とは表現しないか?


 そんな益体も無いことを考えつつもでーやんに胞子を塗り続けていると、えっちゃんたちも興味が湧いてきたらしい。彼らにも軽く塗ってあげたところ、「深みのある味」とか「甘い」などという感想が飛び出し、概ね好評だった。


 そうか。これ美味しいのか…………


 いやいや、勿論僕は食べないよ? 前世でも正体不明のキノコを食べて死んじゃった人なんて幾らでもいたし、スライムが大丈夫だからって僕が大丈夫だとは限らない。それに味覚だってきっと違うだろう。まあ僕が美味しい物は大体スライム達も美味しいみたいだけど……いやいやいやいや……


 迷う。何となく迷う。だが結果として迷っている間にキノコの中にあった胞子は全てスライム達に塗りつけてしまった。僕の手の中に残るのは、笠の中が空洞になったでっかいキノコのみ。


 うん。これで良かったんだ。きっと良かったんだよ……というか、この残ったキノコの部分だって普通に美味しいんじゃないだろうか? 見た目は松茸っぽいし、ひょっとしたら味も松茸みたいかも? これは持って帰ってミャルレントさんに聞いてみよう……


 そんなわけで、残ったキノコは鞄にしまう。ちなみに僕が居ない場合のこのキノコの味わい方は、あえて近づいて胞子を放出させ、それを体で受け止めるということだった。この場合当然食べられる量は減り味も薄くなるので、今日のキノコ胞子の濃厚さはまさに絶品であり、100歳くらい若返ったとでーやんが笑っていた。うーん。やっぱりちょっとだけ味が気になる……あとでーやんが何歳なのかもかなり気になる。でもそっちは聞いても「ふぉっふぉっふぉっ」とか震えるだけなので、多分永遠の謎だ。


 その後はご機嫌になったでーやんの協力もあり……というか、でーやんが目的である赤棘草の形をちゃんと知っていたので無事採取することができた。最初に教えてくれたらと言ったら、「最近耳が遠くてのぉ。ふぉっふぉっふぉっ」と誤魔化された。きっとキノコの存在にテンションがあがってそっちに意識が持っていかれていたんだろう。まあ、これに関しては調べてこなかった僕の方が悪いのででーやんを責めることではないしね。


 ちなみに、この赤棘草というのは肉厚でとげとげした葉っぱを持つ草で、前世で言うところのアロエみたいな形の草なんだけど、冬の寒さで葉のふちが赤く色づかないと薬効が発揮されないらしく、今の段階ではよく似た見た目だけど冬になっても赤くならず薬効も無い別の草との判別がほとんど出来なかった。少なくとも「葉っぱの縁が赤い」という特徴で探したら絶対に見つからないだろう。まだ冬じゃないので赤く無いからね。


 薬効の方も少々特殊で、葉を割ると粘液みたいなのが出てそれを塗るのはアロエと同じだけど、これは触れるとピリピリとしびれる感覚があり、薄めて傷口に塗ることで軽い殺菌作用を生じさせる用途で使われる。要は消毒用アルコールみたいな使い方をするらしい。

 もしくはもの凄く濃縮して麻酔の代わりに使ったりもするらしいけど、そっちの用途は大怪我をした足とか腕をこれを塗って麻痺させてから切り落とすのに使うとか。回復魔法を使って貰うお金のない人が死なないために取る最後の手段だと教えられたけど、うぅ、恐ろしい……オーク戦の後の自分の状態を考えると人ごとじゃ無いので、恐怖もひとしおだ。助けてくれる人に恵まれて、本当に良かった……


「よし、このくらいで十分かな? それじゃ、みんなで帰ろうか」


ぷるぷるぷるぷるーん!


 『威圧の鍬』も用いて綺麗に根ごと数株を回収し終えて、僕たちは帰路につく。腕もある。足もあるし、耳もちゃんと付いている。五体満足であることの幸せを改めて噛みしめつつ、僕たちはゆっくりと来た道を戻っていった。

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