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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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上滑りのお年頃

 ミャルレントさんに相談したおかげで、とりあえず冬の収入源の目星くらいはついた。ちなみに普通の薬草でやらないのは、薬草採取のクエストは初心者の救済目的もあってギルドがやや赤字を被るくらいの報酬に設定しているため、僕の畑から定期的かつ大量に納入されると困るという話を聞いているからだ。


 じゃあ以前に使った粉末薬草に加工すればって話になると、こっちは手間がかかるから量産が効かない。かといって手間に見合った値段を付けたらどう考えても売れないので、端からこれを売る気は無い。元々商売用に考えた訳じゃ無いしね。


 と言うことで、僕は久しぶりに町を出て期間限定の薬草を探すことにした。畑で増やすのが目的なら、季節は関係無い。強いて言うなら種が取れるならそれが一番だけど、まずは根ごと採取して畑に植え替え、ここで育つのかどうかを調べるのが先決だ。駄目だったら別の方法を考えないといけないので、時間的な猶予はそれほどあるわけじゃない。


 そんな訳なので、えっちゃんを頭に、さっちゃんとあーちゃんを鞄に入れたうえ、今日はでーやんも肩に乗せたフルメンバーでの出立だ。かなり仲良くなったと思うんだけど、未だに腰の引けているいつもの門番さんに挨拶して、町の外へと足を踏み出す。


 一瞬。ほんの一瞬だけ、足が竦んだ。でも、そんな僕の頭の上ではえっちゃんが元気に震えている。その振動に励まされれば、上げた足を下ろすくらいは何てこと無い。見えない線をあっさりと踏み越えて、僕たちは意気揚々と歩き続けた。まあ、歩いてるのは僕だけだけど。


「うーん。いないな……」


 何も無い平原をテクテクと歩きながら、僕は周囲をキョロキョロと見回して呟く。それは僕が外に出たもう1つの目標……「強くなる」ために魔物を探していたからだ。


 僕は今まで、強くなることに積極的では無かった。正確には、漫然と強くなりたいと思うくらいはしても、最も積極的で効率的な方法……即ち「魔物を殺して魂の力を奪う」という方法に強い忌諱感を感じていた。そしてそれは、今でも変わっていない。


 でも、それでは駄目だと思い知った。えっちゃんを……その、殺された……ことは、僕の中に消すことの出来ない傷を刻んだ。あんな思いは、もう2度としたくない。そしてそのためには、僕が強くなるのが一番いい方法だ。あれだけ格上の相手にほんのちょっと強かったからって結果は変わらなかったかも知れないけど、そう言う強さは、それこそほんのちょっとを積み重ねた先にあるものだ。


 だから、僕は覚悟してきた。目の前で怯える魔物に、剣を振り下ろす覚悟を。まあ実際にそうなったら実行出来るかはまた別の話だけど、少なくとも覚悟だけはしてきた。してきたんだけど……


「……………………いないな」


 どれだけ歩いても、魔物の影も形も無い。そして気づいた……いや、思い出した。オークと戦った時に、僕の『威圧感』が『威圧感◎』にパワーアップしていたことを。


 かつてこの世界に降り立った時、ゴブリンは僕に向かって敵意をむき出しにして向かってきた。それは距離が詰まるごとに勢いが無くなり、最後には足下に蹲って、その姿を見て僕はゴブリンを殺すことが出来なかった。


 それから時が流れ、僕の固有技能(スキル)が『威圧感○』になった頃には、魔物は僕を遠巻きに見るくらいしかしなくなった。正確には、かなり遠くに魔物の姿を見つけると、大体奴らは一目散に逃げていった。


 そして今。僕の固有技能(スキル)は『威圧感◎』になっている。それはつまり――


「もう見る必要すら無いってことかぁ……」


 魔物は、きっと僕の気配を感じるだけで逃げているんだろう。だから僕が魔物の姿を見ることは無いし、魔物もまた僕の姿を見ることは無い。それこそが、それなりに魔物がいるはずの平原を無人の野の如く闊歩する現状に繋がっているんだろう。


「これは……どうしよう……?」


 思わず口に出して呟いてしまう。この状況は、かなり本気で困った。この辺の魔物で僕が勝てそうなのは、ゴブリンと後は狼っぽい魔物……グレイウルフだっけ? くらいだ。そしてそのどちらも、当然だけど『威圧感』を無効化したら普通に負ける。ゴブリンと1対1ならギリギリいけるかも知れないけど、狼の方は完敗必至だ。


 つまり、魔物に会うために楔を3本打ち込んで『威圧感』を無効化してくるとかは無しだ。ではどうすればいいか? わかりやすいところでは、走って追いかけるとかだろう。でもゴブリンの走る速さはおそらく僕とそう変わらないはずで、そのくせ持久力はゴブリンの方が高い。狼の方は言わずもがなだ。


 ならばどうする? 洞窟とかの行き止まりに追い込む? 姿の見えない相手を思い通りの場所に追いやる技術があるならそもそもゴブリンに苦労なんてしないだろう。なら巣を見つけて攻め込む? もっと社会性の高い魔物ならともかく、ゴブリンとかなら普通に巣を捨てて逃げ出すだろう。つまり僕一人ではどうやっても魔物を狩れないことになる。


 こうなると、あとはジェイクさんのような冒険者に依頼してゴブリンが逃げないように追い込んで貰ってからトドメだけ刺すとかだけど、それは流石に情けなさ過ぎるし、そもそもそんな依頼をするお金も無い。


「どうしようえっちゃん……何かいいアイディアとか無い?」


ぷるるーん……


「そっかぁ……まあそうだよね」


 頭の上から返ってきた「スライムの俺に聞かれてもなぁ」という力ない震えに、僕も同意を返すしか無い。何せ脅威度0の最弱モンスターだ。いかに博識なえっちゃんでも、「自分に怯えて姿を現さない魔物を狩る方法」なんて存在の対極にある難題の解決法までは思い浮かばないらしい。


 あ、当然だけどスライムを倒して経験値を稼ぐ、というのは検討の余地すらない。スライム遺跡にはまだまだ沢山いるけど、眷属ともだちにするための試練として戦うのはともかく、完全に殺して魂の力を奪うとか想像だけでも泣きそうになるので、多分「今すぐ魂の力を得ないと死ぬ」とかなってもその選択は選べないと思う。


 そんな事を考えながらも僕たちは歩き続け、結局魔物に出会うことは無く予定の場所へと辿り着いてしまった。一応冬限定の薬草の採取がメインなので辺りを探してみるけれど、どうにもお目当ての物が見つからない。


「あれ? この辺だよね? 冬になると葉っぱが赤くなるってことだから、今の時期でも普通に生えて……あぁ、そうか……」


 またしても気づく。今になって気づく。僕はその薬草の「採取時の特徴」しか聞いてない。つまり特徴の現れてない今の時期にその薬草がどんな姿形なのかがわからないのだ。そしてそれはミャルレントさんに追加で聞いてもわからないと思う。だって採取時期じゃない時の薬草の特徴なんて、少なくとも冒険者は知らないだろうから。


「うわぁ、どうしよう?」


 どうも自分で思っていた以上に、病み上がりの僕の頭はボケボケだったらしい。気づいたって良さそうな事柄ばかりなのに、色んな物が抜けている。


「うーん。とりあえずこの辺の草を適当に集めようか? で、畑で育ててみて……いや、それならここで育てちゃえばいいのか? もうすぐ冬なんだし、威圧しまくればいけるかな……って、でーやん?」


 不意に、僕の肩からでーやんがぴょいんと飛び降り、その場でコロコロと転がり出した。体から粘液を分泌しているらしく、ツルスベボディが見る間に土やら草やらで汚れていく。でも、でーやんにそれを気にした様子は無い。そのまま万遍なく全身に泥を纏うと、今度はぺたんと地面に潰れて、そのままフルフルと震え出す。


 明らかに普通じゃない。でも、別に苦しんでるとかでも無い。ということは、この行動にはでーやんなりの何らかの意図があるってことだろう。ならば真意は後で聞けば言い。僕たちはその場でじっとでーやんが答えてくれるのを待つ。


でゅぷるーん!


 寒空の下、えっちゃんたちと押しくらスライムをしながら待つこと暫し。一際大きく振るえたでーやんが跳ねていくのを追いかけた先にあったのは、雄々しく大地にそそり立つ謎のキノコだった。

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