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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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『威圧感』の敗北

「ほほぅ。ここが例の湖ですか。なるほどなるほど……」


 等と意味深な感じで呟いてみるが、当然周囲には誰もいないし、特に何てことの無い湖だ。いや、日本にいたときは公園の池くらいしか見たこと無いから、何か特別なことがあってもわからないけど。


 ギルドを出た後、釣り道具の調達は簡単だった。回復薬とかナイフとか、そう言う小物を入れる鞄なんかを取り扱ってるお店で、普通に売っていたからね。というか、その手の「冒険者基本セット」みたいなのすら今まで持ってなかったことに、今更気づかされた。まあ、戦わないから解体もしないし、遠出もしないから野営とかもしなかったわけで、そもそも「冒険」してなかったしね……これを機に解体用のナイフと着火剤、それらを入れるポーチに、水筒なんかも購入した。

 着火剤は丸くて平べったい缶に入ったクリームみたいな奴で、それを塗って強く擦ると、火がつくらしい。要は即席のマッチみたいな感じなのかな? 火打ち石の方が安かったけど、そっちで火がつけられる自身がなかったので、少し高かったけどこっちにしておいた。

 ナイフは、まあ必要だしね。魚を釣ったらさばくつもりだけど、流石にショートソードの長さの『威圧の剣』じゃ使いづらいことこの上ない。自分の手は絶対に切れないし、重さを感じないから刃の部分を手に持って長さを調整したうえで使うことは一応できるけど、どう考えても魚をさばくには向かないだろう。なら、今後を考えてもナイフはあって困らないから、少しいい物を買った。


 それと、本命の釣り竿と餌だけど、これも微妙に高かった。というのも、大抵の冒険者は釣り竿なんてその辺の木の枝で適当に作るし、餌も石をひっくり返したり土を掘ったりして、出てきた虫をそのまま使うから、「お金を出して買う」人がほとんどいないため、需要が少なくて割高だということだった。僕もそれでも良かったけど、ファンタジー世界の植物や虫の知識が全く無いなかで釣り竿に適した枝や蔓草、魚が好む虫なんかをいちいち調べていくのは面倒なので、今回は購入で済ませた。知らずに下手な草を触ってかぶれたり、虫から毒を貰ったりしたら大変だしね。


 そうして準備を済ませ、僕は次の日の朝から意気揚々と森へと行った。途中ゴブリンとかが襲ってきたけど、大抵の奴は3メートルくらいまで近づくと足を止め、そのまま反転してダッシュで逃げていったし、犬? 狼? そんな感じの奴が突っ込んできた時も、1メートルくらいまで近づくと完全に戦意喪失して、伏せの状態でクゥンクゥンと鳴かれた。犬も普通に好きなので、これにとどめを刺すとかどう考えても無理だったので、頭を撫でてからその場を立ち去ったら、5メートルくらい離れたところで、やっぱりダッシュで去って行った。

 一瞬「あ、これ懐いて仲間になるフラグかな?」とか思ったけど、そんなことは無いらしい。餌付けでも出来たら違ったかも知れないけど、流石に魚の餌をあげるのは嫌がらせだしね。怖い人に脅されて虫をすり潰した団子を食わされるとか、僕なら絶対トラウマになって二度と近づかないよ。


 そんなわけで、心配していた脅威も何も無く、僕は普通に湖にたどり着いていた。目算だからかなりいい加減だけど、縦100メートル、横50メートルくらいの、楕円形が軽くひょうたんっぽくゆがんだ感じの湖だ。いや、この大きさだと池なのかな? 日本語自動翻訳がどんな感じで働いているのかわからないけど、とりあえずミャルレントさんには湖だって言われたから、湖ってことにしておく。


 ここで釣りをしろと言わんばかりのいい具合の岩が畔にあったので、そこに登って水面を見渡すと、ちらちらと魚影っぽいものが見えたので、これなら釣りはできそうだ。僕はさっそく釣り糸を垂らす……前に、まずは岩を降りて湖の畔に立つと、一番近い魚影に向かって右手を突き出し、掴むような感じで『収束威圧』を放つ。ポーズには全く意味は無い。単に気分だけだ。「視線が通らないと威圧の威力が激減する」というのが水中にどの程度影響するのかわからなかったけど、それでも1分もしないうちに、目標の魚がプカリと水面に浮いてきた。これにより、威圧は一定量を超えれば生き物を気絶されるくらいまでいけることが判明した。手を触れずに意識を奪うことができるなら、今後「冒険」をしていくなら、大きな力になるだろう。


 『威圧感』の力に改めて手応えを感じつつ、僕は水面に浮かんでいた魚を、釣り竿で必死にたぐり寄せて、何とかつかみ取る……うわ、プニプニしてるし、ピクピクしてる。まあ、まだ生きてるしなぁ……これをさばくのか……


 近くにあった手頃な石の上に魚を載せて、ナイフを取り出して、道具屋のおっちゃんの話を思い出す。


 まずは確認。ツルッとした銀色のボディは、まず間違いなくシルバーフィッシュと呼ばれている魚だ。そもそもこの湖にはこれ以外の魚はいないと言ってたけど、確認することは大切だ。毒とかあったら普通に死ぬしね。


 次は、鱗を取る。といっても、布で軽く擦る程度で落ちるし、焼いて食べるならそのままでも問題ないということだったので、持ってきたぼろ布でサッと撫でる程度にしておいた。


 で、次はいよいよお腹を切ってはらわたを取り出すわけだけど……ナイフを当てると、プニッとする。うぅぅ、気が進まない……とはいえ、ここですら頑張れなかったら、この先出来ることがあまりにも狭まってしまう。僕は意を決して……ううぅぅぅ……えいっ!


 ほんの少し力を強くしただけで、プスッとナイフの刃が刺さる。刺さってしまえばどうということもなく、それなりの切れ味のナイフは、スーッとお腹を切り裂いていく。尻尾の近くまで切れ目を入れたら、指を……指を突っ込んで、内臓を……うぁぁ、グロいよぅ……ヌルヌルヌチャヌチャするよぅ……平常心、平常心だ……ぐふぅぅぅ……


 気の遠くなるような長い時間をかけて……実際の経過時間は多分5分くらいだったけど……僕は何とか内臓を取り去った。あとは湖の水で洗って、持ってきた塩を振って焼くだけ。ここまで来てしまうと、もう普通に知っている「魚」なので、別に何とも思わなくなる。森に落ちていた木を拾い集め、着火剤を塗って火をつける。特に問題なく燃えてくれたので、木の棒に刺した魚を近くに立て、焼けるのを待つ。遠火でじっくり火を通し、香ばしい匂いが辺りに漂ったところで、焼きたてを一口……


「微妙だな……」


 不味いとまでは言わないけど、正直美味しくは無かった。期待が大きかったことを鑑みても、他に何かあるときにこれを食べたいとは思わない。身が凄く固いし、血の生臭さが強く残ってる。まるで強い力で全身をぎゅーっと締め付けられたような……てことは、これ『威圧感』のせいか!?


 ああ、そうだよね。どんな物でも威圧すれば美味しくなるとか、そういう力じゃないもんね……


 美味しくないからって残すのは行儀が悪いので、とりあえず僕は1匹食べ終えてから、今度は岩に登って、普通に釣り糸を垂らす。すると、するすると3匹ほどが簡単に釣れてしまった。正直高速で移動する魚を必死で目で追いながら威圧するより、釣る方が簡単ですらあった。

 これだけ警戒心が無いなら、ここで釣りをする人は滅多にいないということだろうが、何でだろう……と思ったところで、ここが森の中だと思い出した。『威圧感』が無ければ、普通に魔物が襲ってくる場所なのだ。そりゃ暢気に釣りなんてする人は、そうそういないだろう。


 よし、それじゃ次は、この釣れた魚を美味しく威圧する方法考えよう。

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