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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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力の影響

「うーん。結局実用的と言えそうなのは、ひまわりと薬草くらいかな?」


 結局その日だけでは全部を試すことはできず、次の日の昼までかかってみんなが持ち寄った野菜の種や苗木なんかを順番に試していった結果、『輪唱威圧』を使うことで飛躍的に品質の向上が望めるのはその2つくらいだった。ひまわりは花の大きさが2周りくらい大きくなって種から取れる油の品質もちょっとだけあがってる気がするし、薬草もほんのちょっとだけど効果があがっている。


 ただ、4倍の威圧でこの程度の上昇量なら、おそらくこれが『威圧感』の上限なんだと思う。そりゃまあ威圧すればするだけ際限なく品質があがるとかだったら、とんでもないチートスキルだしね。あくまでも潜在的な味とか栄養とかを最大限に凝縮させられるだけで、それを直接増やすような効果は無いんだと思う。


 それと『輪唱威圧』の方だけど、基点2つの発動でも、5回か6回くらいが限界だということがわかった。6回目を使った時にちょっとふらっとしたから、これは間違いない。無理をすれば倒れる寸前までの「本当の限界」を調べることもできるだろうけど、それは今じゃなくていい。


 今日になって改めて使った分には特に問題がなかったから、おそらく寝たら回復するんじゃないだろうか? 少なくとも3回使った分には特に疲れたりしていない。もう試すべき野菜とかはないから、後は空打ちを3回やって一晩で全快するかどうかを試してみるのもありだけど……


「あっ!? 師匠!」


 と、そこで遠くからリリンの声が聞こえてきた。立ち上がってそっちに歩いて行けば、慌ててリリンがこっちに駆け寄ってくる。


「何でここにいるんですか? 冒険者ギルドの救護室に行ったらもう帰ったって言われて、ビックリしたんですよ!?」


「あ、ああ。悪いな。何というか、僕があそこにいると周りの人が落ち着かないとかで……」


 僕がそう言うと、リリンが胸の前で拳を握って僕に詰め寄ってくる。多分初めて見る怒り顔だ。


「何ですかそれ!? そんな訳のわからない理由で大怪我してる師匠を追い出すなんて……」


「いや、まあそれは……ん? というか、リリンは平気なのか?」


 今僕の目の前に立っているリリンは、特に怯えたりする様子が無い。全力状態ならジェイクさんすら一瞬足を止めるほどなのに、3割とは言え『威圧感◎』の影響を受けて何の変化も無いというのはちょっと考えられない。


「? 何がですか?」


 なのに、当のリリンは何のことか解らないという顔をしている。これは……あっ!?


「そうか。リリンは眷属ともだちだから……」


「へ? あ、はい。ボクと師匠は友達ですよね。えへへ……」


 当然だけど、えっちゃん達は僕の『威圧感』の影響を受けない。いや、正確には負の影響を受けないと言うべきだろうか? それは僕の眷属で、僕の固有技能(スキル)と繋がっているからだ。そしてそれはリリンにも言える。つまり彼は、今現在この世界で唯一僕の『威圧感』を受けても怖がらない人間なのだ!


 その事実が、たまらなく嬉しい。えっちゃん達の存在を蔑ろにするつもりなんて全く無いけど、それでも人間でそういう人が居てくれるというのは格別だ。ましてやその相手が僕に好意的であるとくれば、何だかリリンがとても可愛く見えてくる。


「リリンはいい奴だなぁ。これからも仲良くしてくれよな」


「ひゃっ!? し、ししょ、トールさん!? 何を!?」


 僕は思わずリリンを抱きしめて、頭をナデナデしてしまった。異性なら大問題だろうけど、男同士なら問題無い。僕に直接触れても大丈夫な人なんてほとんど居ないから、人同士のスキンシップに飢えていたというのもあるかも知れない。何故だか顔を真っ赤にするリリンを、僕は思うさまに撫で回す。


「ふぅ……あ、ごめん! 苦しかったか? 大丈夫?」


「……ぁぃ……大丈夫でしゅ……」


 衝動に任せて思わず抱きしめちゃったけど、ぽーっとした顔を見ると思ったよりも強く抱きしめてしまったのかも知れない。苦しかったなら言ってくれればいいのに……いや、年上には言いづらいか。悪いことしちゃったかな。反省しよう。


「それで、どうしたんだ? 何か僕に用事があったとか?」


「あ、いえ、そうじゃないです。単純にお見舞いに行ったら居ないって言われたから来ただけで……腕の調子はどうですか?」


「ああ、大丈夫だよ。だいぶ痒みも治まってきたし、もう1日か2日でほぼ完治だと思う。違和感無く動かせるようにするには多少のリハビ……訓練も必要だろうけど、そもそもこうなってから1週間もたってないから、そこも心配ないだろうしな」


「そうですか。良かったです……」


 そう言って安心した様に笑うリリンの顔に、僕の胸にも温かい物がこみ上げてくる。このところ仕方ないとはいえ拒絶から会話が始まることが多かったから、こうして純粋に心配してもらえるのは凄く嬉しい。


 ちなみに、この時「他の人達も眷属ともだちにしちゃえば怖がられないようになるかな?」とちょっとだけ思ったけど、すぐにその考えを振り払った。威圧しても大丈夫そうなジェイクさんとかだとそもそも僕の実力では完全威圧は無理そうだし、逆にミャルレントさんとかミャリアちゃんみたいに完全威圧出来そうな相手は、そんなことをしたら僕の良心が耐えられない。というかリリンが特殊だっただけで、普通は白目をむいて気絶させられたりしたらその相手と仲良くなりたいとは思わないだろうしね。


「あ、そうだ! それなら、腕が良くなった頃にみんなでパーティをしませんか? 大人の人はまだ忙しいみたいですから、あんまり大規模なのは無理だと思いますけど」


「パーティか……それもいいかも知れないな」


 今までの経験から、同じ空間に居続けるとそれだけ『威圧感』に慣れるのが早くなる。最初に怯えられるのを血を吐く思いで我慢すれば、そこに参加してくれる人達ならその後は今まで通りに話したりできるようになるかも知れない。


「うん、良いアイディアだ。やるか、パーティ」


「はい! そうしたらボク、色んな人に声をかけてみますね!」


「ああ。僕の方でも声をかけてみることにするよ。お見舞いに来てくれた人達にお礼もしたいし」


「わかりました。じゃあ、場所はどうしましょう?」


「うーん。そうだな……」


 その後はリリンと大まかな流れを話し合う。会場に関しては、結局僕の家を使うことにした。ちょっと手狭だけど、だからといって酒場を貸し切るほどの予算は無かった。オークの収入が丸々治療費に消えてるからね。それに関してはさらに裏話も聞いたし……いつかお返しできるように頑張りたい。


 となれば、料理も僕が用意しないといけないわけだけど、材料の野菜は当然僕が用意するとして、料理そのものは参加者の中で手伝ってくれる人がいれば手伝って貰おうと思っている。こう言うのって、みんなでワイワイ言いながら準備するのも楽しいからね。多少の苦労と引き換えに楽しい思い出と美味しい料理が増えるなら、手伝ってくれる人はいると思う。まあその辺は参加者次第だ。


 日程は1週間後を目処に、参加する人の都合のいい日を調整。開催時間とかもみんなの意見を聞いて調整するってところまで決めて、今日の所は解散した。流石に腕が治ってないので、ジェイクさんの特訓ももうしばらくはお休みだ。リリンを見送り、僕は家の中へと入る。


「パーティか……みんな来てくれるかな? というか、お見舞いのお返しはどうしよう? 何がいいかな? ミャルレントさんには干物? いや、凄く喜んでくれそうではあるけど、でも干物っていうのもなぁ……」


 頭の中でみんなの喜びそうな物を次々と思い浮かべる。ただそれだけで嬉しくて楽しくて、最近の憂鬱な気分はもうすっかり何処かに飛んで行ってしまった。我ながら単純だと思うけど、沈んだ気持ちが続くより何百倍もいい。


「楽しみだね、えっちゃん」


ぷるるーん!


 夕食を食べに出かける前の一休み。ベッドで横になった僕の枕元にやってきたえっちゃんの体を撫でて、僕たちはしばし幸せな検討会を続けるのだった。

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