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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)
1/589

プロローグ:薄い人

「あー、あの世って本当にこんな感じなんだなぁ……」


 雲っぽいふわふわした地面に、見渡す限りの青空。目の前に在る唯一の建造物である馬鹿でかい門と、そこに行列を作る人、人、人。男、女、大人、子供。年齢、性別、人種までばらばらな人たちが、粛々と列を成している。流石に乳幼児やそれ以前の存在は見られないので、おそらくここに並ぶのは最低限の自我が確立されている年齢以上の死亡者なんだろう。

 列の左右では、素っ裸で羽の生えた赤ちゃん……テンプレ的な天使っぽい人? たちが色々な指示を出している。泣いたり叫んだりしている人は列から連れ出してどこかへ連れて行かれ、しばらくするとほとんどの人が戻ってくるため、おそらく別室的な場所でカウンセリングみたいなことをされてるんだと思う。

 聞くに堪えないレベルの暴言を吐いたり、暴力を振るおうとした人達は、その足下に穴を開けられ、そこにスポッとボッシュートされていく。


 そんな風に、それぞれの人がそれぞれの対応をされ、一人また一人と門の中へと消えていき、そして遂にそれが僕の番になったとき……目の前で、ギギギッという音を立てて、開いていた門が閉じてしまった。「あー、今日も仕事したなー」などと言いながら天使達がその場から去り、昼間だった場所が一瞬で夜になる。太陽や月があるわけではなさそうだけど、それでも宵闇くらいの暗さだったので、周囲を歩く程度なら不便するほどではない。


 でも、わかる。これはどう考えても業務終了であり、僕のことは完全に忘れらされている。そして、こんなことで僕は慌てない。何故なら、いつものこと(・・・・・・)だからだ。


「すいませーん。誰かいませんかー? すいませーん」


 人の気配もざわめきも無くなり、完全な静寂に包まれた世界で、僕は特に気負うこともなく、ドンドンと門を叩いて声を上げる。自分が悪い訳では無いときは、きちんと主張する。その程度の努力すらせず「みんなが僕を無視するんだ」なんて悲観して泣いて過ごすのは、僕の主義じゃない。というか、普通に嫌だ。僕だってプリンは食べたい。それは休んだ人のじゃなくて、僕のなんだ。


 幸いなことに、門の向こうにはちゃんと門番の人がいたようで、程なくして扉が開き、僕を見つけてギョッとした顔をした。ここに取り残されたと説明したら、何やら大慌てで関係各所に連絡をしてくれたらしく、口の周りに赤いモノをべっちゃりつけた赤ちゃん天使がトルネードスピンをしながら飛んできて、僕を門の中へと招き入れてくれた。

 ちなみに、赤いのはケチャップだった。今夜はナポリタンだったらしい。


「では、この先に神様がいらっしゃいますので、そちらにお進みください。本当に申し訳ありませんでした」


「いえいえ、慣れてますから、もう本当に気にしないでください」


 可哀相なくらいに平謝りされ、正直僕の方が申し訳ない気持ちで一杯になった辺りで、ようやく目的地に着いたらしい。最後にもう一度頭を下げてから、天使さんがその場を去る。その姿を見届けてから、僕は指示された通りに前進すると、そこには、ザ・神様という感じの老人がいた。天使だったから北欧寄りかと思ったら、仙人っぽい感じの、白いローブに白い髭、ツルッと輝くハゲ頭の、人の良さそうなおじいちゃんだ。


「よくぞ来た……って、うっすいのぅ、お主。何かもうスケスケじゃぞ」


「はぁ。いや、まあ死んだ? んだし、幽霊は透けてるものじゃないんですか?」


 物珍しそうな神様の視線に、僕はそう答える。「そう言うのとは違うんじゃが……まあええじゃろ」と呟くと、神様はどこからともなく本を取り出し、そこに視線を落とした。


「ええと、薄井(うすい) (とおる)。享年17歳。死因は交通事故……まあ普通じゃな。普通じゃが……おかしいのぅ。お前さんの寿命は、もっとずっと先だったはずなんじゃが」


「え? それって、最近流行の『神様のミスから始まる異世界転生』みたいなやつですか?」


 ちょっとわくわくしてそう言ったら、「流行になるほど神がミスなどするはずないじゃろ」と、ごく当たり前のツッコミを入れられた。まあ普通に考えたら、そりゃ神様がそんな失敗を繰り返したりしないよね。


「とはいえ、全く失態が無いとも言えんの。お主の本質的な死因は、あまりにも存在感が薄すぎた事じゃ。心当たりがあるじゃろ?」


 問われて、僕はガックリと肩を落とす。心当たりがあるなんてもんじゃない。存在感の薄さは、僕自身が嫌ってほどわかっていることだ。いじめられたりするわけじゃないし、ちゃんと主張すればわかってくれる人がほとんどだけど、それなりに交流のある人ですら「気づいたらいなくなっていた」と言われるほど、僕の存在感は薄い。


「お主の存在感が薄すぎて、お主を轢いた人間には、お主が認識できていなかったのじゃ。故に普通なら事故など起こりえないはずの状況で、お主は轢かれて死んでしまった。じゃが、問題の本質はお主が死んだことではなく、お主の存在感……魂の薄さの方なのじゃ」


 白くて長い髭を扱き上げながら、神様が教えてくれる。曰く、魂というのは生きた時間、積み上げた知識や経験などによって力を得て濃くなり、死ぬとそれを消費して新しい命として転生することになる。故に、一定以上に濃くなると寿命の短い虫や、死亡率の高い地域、世界などに転生し、逆に薄くなった場合は、情勢が安定し、治安が良くて文明が発達した場所に転生させることで、力をつけさせるということをしているらしい。

 故に、僕のように薄まった魂は、力をつけさせるために現代の日本……乳幼児の死亡率が圧倒的に低く、医療も発達して治安も良いという最良の場所に転生させたのだが、予想以上に薄かったのが災いして早死にしてしまい、このままだと魂の消滅の危機だという。


「もう一度日本に転生させても良いんじゃが、そこでまた不測の事態で早死にされてしまうと、取り返しが付かん。となると、むしろ個人の能力の上下幅が大きい世界で、特殊な能力でも与えてやった方が長生きできるかも知れんのぅ」


「え? それって最近流行の『神様からチートを貰って俺ツエー』みたいな奴でしょうか?」


「さっきも似たようなことを言っておったが……そう言うのは、あまりにも魂が濃くなりすぎた奴に対する対処じゃな。一代限りで消える力に大量の魂の力をつぎ込むことで、そやつが死んだときに一気に魂が薄まるように調整するための措置じゃ。お主にそんなことやったら、魂が消えてしまうわ。

 弱った魂を回復させるのは輪廻を廻せば良いが、完全に消えてしまうと新たに生み出すのは大変じゃから、お主の望むようなのは……まあ1000回も転生を繰り返して、その都度100年以上の大往生でもすれば可能かのぅ」


 神様の言葉に、僕は再びガックリと肩を落とす。ああ、夢も希望も無いのか……いや、死んだ後で夢とか希望って言うのもアレだけど……


「とはいえ、特別な措置は必要じゃの。そこまで薄まっては、普通に輪廻を廻すのはかえって怖い。危機感を自覚させるために記憶や肉体は維持したままで、魂の力を回収しやすい世界へと送り出すことにしよう。なに、ちょっとした奇跡(プレゼント)もつけてやるから、何とかなるじゃろ」


 そう言って神様が手を振ると、僕の視界がいきなり真っ白に染まる。「頑張るんじゃぞー」という激励の声を遠くに聞いて、浮いているような落ちているような不思議な感覚の中、僕という存在が、どこか遠くへ飛ばされていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろう界隈では逆に珍しい、しっかりした神様ですね。 ……やっぱなろうってちょっとアレですね。
[一言] マンガが面白くて読みに来ました。
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