異世界転生の後始末
『先日、道路に飛び出した子供を救い、トラックに跳ねられて亡くなった、西條ハヤト君16歳──』
ピッというリモコンの音と共に、アナウンサーの声が途切れ、テレビが暗転する。
このニュースを何回聞いたことだろう? 俺がハヤト君を轢き殺して、今日で4日が経った。
俺の名前は田中立、明日で34歳になる。身長は180近く、体重は60キロ程で、顔は下の上くらいだろうか。仕事は……、仕事『だった』トラック運送業は、事件のせいで周りの視線がきつく、昨日辞めた。今は無職、今日コンビニのバイトを受けに行くつもりだ。
「すいませーん、宅配便でーすぅ」
タバコでも吸おうかと、ベットの前にある木製の机から箱を手に取り立ち上がると、不意にピンポーンと、インターホンの音が聞こえ、数秒置いて、人の声が聞こえた。
俺は楽しみであったタバコが吸えず、溜息をつくと、机の上にタバコを戻し、「はーい」とだるいが返事をしつつ、玄関へ向かう。
ガチャ、とチェーン越しにドアを開けると、緑の制服に、緑の帽子を被ったバイトっぽい青年が四方20センチくらいの一つの箱を持って立っていた。大方配達だろう。ポストには『人殺し』などと書かれた紙が入っていた時もあったが、今は少し減った。
印鑑を押して、荷物を受け取ると、俺は青年に向かって「ありがとうね」と、一言声を掛けると、
「あざーしたーっ!」
と脱帽し、元気に挨拶をすると、再び帽子を被り、青年は次の仕事があるのか、走って去っていった。
部屋に入り、荷物を確認しよとするが、一つ疑問があった。
(ここ最近配達などは何も頼んでなかった気がするんだが……何かの景品でも当たったのか?)
違和感はあるが、荷物を調べる。差出人は異国語? 見たこともない字だ。少し怖いが、すぐさま中を開け、開封すると手触りの良い手紙、そして謎の幾何学模様の入った丸い玉、透明で、先が見通せるくらいだ。
取り合えず出てきた手紙を取り出し、三つ折りにしてあった手紙を読む。
『拝啓、拝啓? えーと、こんにちは。私は異国の召喚士と呼ばれている者です。この度あなたが轢き殺したハヤト君は、召喚の方法として、こちらの魔法であなたを操り、殺させてもらいました。そのお詫びとして、そちらの世界の人々の事故の記憶の消去。それとなんでも願いを3つ叶えることの出来る宝玉を渡しましたので、満足いただければ幸いです。
ps ハヤト君は異世界へ転生しました。』
「なんだこりゃ?」
俺はいたずらかと思い、すぐさま手紙を破りそうになったが、ふと手を止める。きらきらと光る玉が、俺の目に映ったからである。
机に手紙を置くと、荷物の中から光る玉を取り出し、触ってみる。なんとも言えない触り心地が手のひらを刺激し、触っているだけでも気持ちよい。
「と、取り合えず、物は試しだ……。」
ゴクリッと唾を飲み込むと、目の前まで玉、いや、宝玉を移動させる。宝玉に反射する光が、幾何学模様となって浮かび上がる、本当にこの世界の物では無いようだ。
「じゃ、じゃあ……1兆円……くれっ。」
ドッキリかもしれないと疑い始め、小声で宝玉に願いを伝えると、部屋中に閃光が走り出し、焦った俺は、宝玉を握ったまま急いで窓のカーテンを閉める。
20秒ほど光ると、何事もなかったかのように光が消え、周りを見回すが、特に何も変化は無く、無駄に期待していた俺は、大きく溜息をつくと、宝玉を机の上に、コトっと置く。
「はぁ、ま、なんもないわな……。バイトバイトっと。」
そして荷物を退け、携帯電話でバイト先でも探そうとポケットから携帯電話を取り出すと、瞬きした一瞬、ほんの一瞬で、俺の部屋に何億枚もの札束が、ドサッと降ってきたように現れたのだ。
「う!? うぉぁおぉぉおぉおっ!?!!?!?」
俺は軽いパニックになり、急いで札束を確認する。専門家ではないが、間違いなく本物だと分かる。そう、俺は一瞬で億万長者になってしまったのだ。
『この後立は、二つ目の願いとして若返りを選択、そして数か月後、金持ちを満喫した立は、手紙を思い出し、異世界は存在しているのだと知り、最後の願いとして異世界転生を望んだのだった。どうやって異世界へ行ったかは、分かりますよね?』