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敗者の栄光
薄れゆく意識の中、ベルはその顔を思い出す。初めは、ただの青年だった。日本人特有の真っ黒な目には、何の決意も灯っていなかった。
次も、その次も。口では決意を語ってはいたが、その目には覚悟が宿っていなかった。
「君は私には勝てない」
いつだか、そんな事を言った。多くの人達の思いを背負った自分と彼では、全てにおいて抱く覚悟が違うと見ていた。だがそれは、間違いだった。
彼があれほど早く、あれほど大きな覚悟を抱いたのは予想外だった。小夜という少女の為に、あの青年は全てを賭ける覚悟で戦いへと乗り出したのだ。それは、並大抵の精神力では不可能と言ってもいいだろう。──あれは、最早呪いだ。あの呪いはきっと、あの青年を生涯縛り続けるのだろう。
「そんな人生を歩むのも⋯⋯悪くないかもな⋯⋯」
大勢の人々ではなく、ただ一人の為に。それは、大勢を背負うよりも辛く険しい道のりになる。それでも、彼ならば決して退く事は無いだろう。
「完敗だ」
恐らくは初めて味わうであろう敗北感を、ベルはそっと噛み締めながら眠るように意識を失った。




