表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
PR
77/115

逃走の果て

「逃げるぞ!」


 サリィの手を引き、全力でその場から走り去る。何かが追ってくる気配を感じるが、それ以上に振り返ったら死ぬと全身が直感している。


「これが逃避行の果てのラブ・ロマンス⋯⋯ていうかご主人様速い速い速い!」

「うるせぇちょっと我慢してろ!」

「ひえぇー!」


 ピッチャーの投げるボールの如く、サリィを遥か前方にぶん投げる。そのまま空中のサリィをジャンプして抱えると、再び走り始める。


「お姫様だっこ、お姫様だっこ!」

「騒ぐ暇があったらちょっと後ろの奴見てくんない?」


 相変わらず、後ろから何か巨大なものが迫ってくるのが分かる。先程の一撃から推測すると、恐らくは大質量で叩きすぶす攻撃をしてくるパターンだ。だというのに俺の全速力と並走できる程の早さとなれば、追いつかれた瞬間にハンバーグにされるだろう。

 全く、パワーキャラのクセにスピードも有るなんてのは格ゲーなら絶対嫌われる奴だ。


「幼女です! 幼女がデカいハンマー持って追いかけてきます!」

「てめぇふざけてると置いてくぞ!」

「ホントなんですって!」

「クソが!」


 ちらりと、脳裏にサリィの見た風景が映る。どうやら、アニマとは視覚すら共有出来るらしい。

 サリィの見た風景には、自分の何倍もあるハンマーを引きずりながら追ってくる可愛らしい幼女がいた。


「魔女狩りの奴ら狩った方がいいんじゃないすかね」

「てかご主人様、このまま逃げたら皆さんとあいつが鉢合わせに」

「それはダメだ!」


 あの場所には小夜達がいる。そこにこいつを連れていくわけにはいかない。

 かと言って、方向を変えればその瞬間に叩き潰されかねない。転移魔法を使おうと試みるが、いかんせん逃げる事に意識を割かれて集中が出来ない。


「⋯⋯⋯⋯」


 何時までも迷ってはいられない。ぐずぐずしていると、すぐに小夜達の場所に到達してしまう。


「サリィ、頼みがある。戻ったらアルクリアにすぐに撤退しろと伝えろ」

「え⋯⋯ご主人様は?」

「転移魔法がある、一人でも帰れるさ。悪いがもう一回ぶん投げるぞ」

「待って────」


 答えを待たずに、サリィを再び遥か前方へと投げる。先程よりも若干優しく。


「ご主人様の、馬鹿!」

「はいはい」


 頭に心底恨めしそうな声が響く。あぁ、あいつの罵倒する声も悪くは無い。


「さてと」


 これで、失うものは何も無い。もしここで俺が死んでも、サリィや小夜達は逃げられるだろう。

 足を止め、速度を急激に落として行く。背後から、大質量に速度を乗せた一撃が放たれる。恐ろしいが、やるしかない。


「うおおぉぉ!!」


 その一撃に向かって、真っ向から真槍を使って受け止める。しかし、受けた衝撃はあまりにも大きかった。


「が、は⋯⋯」


 殺しきれない勢いが体をゴム毬のように吹き飛ばし、俺は何度も地面を跳ねながら転がり回る。


「冗談じゃねえ!」


 何とか体制を立て直すと、すかさず幼女に向き直る。幼女は俺に向かって、二撃目を放っていた。

 確実に胴体を吹き飛ばす、横薙ぎの一振り。かろうじて横へ飛んで威力を殺そうとしたが、どうやら無駄な努力の様だった。


「あ⋯⋯ぅ」


 吹き飛ばされた俺は、空中を錐揉み二回転捻り程してから叩き落ちる。

 一瞬意識が落ちかけたが、何とか遠のく意識を手繰り寄せる。


「⋯⋯⋯⋯」


 ふらふらと立ち上がると、左腕が動かない事が分かった。無理矢理動かそうとすると激痛が走る。


「折れたか、クソ⋯⋯」


 本格的にマズイ。右目の出血と、左腕の骨折。動く右手で、何とか奴の一撃を弾く。


「⋯⋯⋯⋯」


 幼女は無言のまま、苛立たしげに俺を殺そうとハンマーを何度も何度も振り下ろす。

 その目には、何の感情もこもってない。人形の様だ。


「はっ、はぁ」


 開いた体に、鋭い蹴りが突き刺さる。とても幼女とは思えない一撃に、思わず俺は膝を着く。


「ぁ⋯⋯」


 切れた。致命傷を受けたわけでも、意識が落ちたわけでもない。けれども、体を支えていた何かが切れた。───俺の負けだ。


「クソが⋯⋯」


 サリィはちゃんと報告してくれただろうか。小夜達はもう行っただろうか。時間を稼げたなら、それでいい。どうせ人は死ぬんだ、ここで死ぬならそれまで。

 あぁ、でもこれじゃあ決闘が出来ないじゃないか。


「ッ!」


 何を諦めているんだ俺は。誓ったはずだ。小夜の為に戦うと、小夜を守ると。

 ここで死んだら、それが果たせない。


「死ぬかよ!」


 脳天に振り下ろされた致命的な一撃を、全力で受け止める。もう右手も軋みをあげて今にも折れそうだったが、お陰でまだ生きている。


「なんで⋯⋯」


 初めて幼女が口を開いた。機械のような無機質な声だが、その声色には明らかに困惑の色が見える。

 その一瞬が、俺にとっては何十秒に感じられる。何秒でも構わない。少しでも集中出来るなら、俺はまだ動ける。


「喰らえ──」


 ゆっくりと、手を伸ばす。何か出来るはずだ。まだ俺は動ける。まだ、生きている。


「────馬鹿!」

「へぇ?!」


 突然襟首を掴まれると、ズルズルと物凄い勢いで引きずられる。幼女も俺も、困惑して動けないでいた。

 この場で動いているのは、いるはずのない彼女だけだ。


「ライヴ⋯⋯?」

「黙って! じゃなきゃぶっ殺す!」


 周りの景色が歪み始める。幼女がやっと動き出すが、もう遅い。俺はその場から、ライヴのおかげで何とか離脱した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ