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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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起爆

 一つ目の話。それは、先程メイドさんから聞いた話だ。

 何故俺は守られているのか。何故、対等な立場での決着を望むのか。


「俺はアンタの敵だ。決闘前に消耗させた方がアンタ達にとって好都合だろう。なんでそうしないで、むしろ俺を守るような真似をしている?」

「⋯⋯あぁ、そう言えばまだだったな。これは失礼した」

「あ?」

「娘を、小夜を救ってもらった事にだ」


 そう言うと小夜の父親──アルクリアは、俺に向かって深々と頭を下げる。


「魔女狩りに襲われていた小夜を救ってくれた恩人に手出しはしない」

「そいつが、俺を優遇してる理由?」

「そうだ。黒峯君、少し長くなるが聞いて欲しい。いいか?」

「そいつがこの話に必要ならな」

「ありがとう。では、話すとしよう」


 アルクリアは、窓の外を眺めながらポツポツと語り始めた。


「私は⋯⋯いや、いい。俺は、娘と嫁を世界で一番愛してる。魔女狩りの奴らになど、手出しさせるものか。だから、少しでも魔女狩りの手が届かぬよう、力のあるウィリディス家と結婚して守ってもらおうと考えた。実際ベル君は、思った以上に優秀な人物だ。だから例え小夜に恨まれようとも、俺は小夜には彼と一緒になって、彼と彼の一族に守って欲しいと思ったのだ」

「⋯⋯⋯⋯」

「だが小夜は、君といるととても幸せそうに見える。俺は出来れば小夜には、笑っていて欲しい。しかしそれでは、小夜を危険から遠ざける事は難しい。だから」

「だから決闘をさせて、実力を計ろうとしたって訳か」

「⋯⋯試すような真似をしてすまない」

「別に。そもそも存在しないはずの黒色がこんな奴なら、疑うのは当然だ」

「そうだな。だが、君はどうやら本物の黒色らしい」

「本物も何も、本物の黒色がいないんじゃあ俺が偽物なのか本物なのかも分かりはしない」


 この力が偽物だろうが本物だろうが、俺のやるべき事は変わらない。


「アルクリア。俺は、小夜の為に戦いたい。小夜が望むなら、その通りになる様にしたい。例えそれが、彼女のワガママだとしても」

「黒峯君⋯⋯」

「アンタは親なんだ、どこまで行っても。子供のワガママは叶えてやりたいけど、それで幸せにならないのならそれを我慢させなきゃならない」


 単純な事だ。子供には、美味しい物を好きなだけ食べさせてやりたい。けどそれでは、いつか体が壊れてしまう。

 それと同じだ。子供の身を案じて、時には辛い思いをさせなければならない。きっとそれは正しい事だし、褒められていい事だ。


「けど俺は、小夜のワガママを全部聞いた上で小夜を幸せにしてやりたい。俺はその為なら、魔女狩りだろうが魔法使いだろうが敵に回したって戦ってやる」


 例えそれが間違いだとしても、正しく無いとしても。

 狂っていると言われるなら、それでもいい。


「だから俺は、アンタとは相容れない。もしベルやアンタ達が正しくても、それでも俺はアンタ達の考えには賛同出来ない」

「どうしてそこまでする? 元々君にとってそれは、何一つ無関係な事のはずだ。君は魔法使いでも無かったし、例え決闘に勝ったとしても何も得られるものは無い」

「さあな。けど、小夜を見てると思うんだ。彼女の力になりたいと」


 思えば、初めて会った時からそうだ。魔法使いになりたいと思ったのも、魔女狩りと戦おうとしたのも、全ては彼女の為にしようと思ったからした事。理由など、それで十分だ。


「まぁつまりだ。俺は負けない。小夜の為に、俺は死んでも負けない」

「⋯⋯そうか」

「話を逸らして悪かった。とりあえず、一つ目の話は解決した」


 最愛の娘を救った恩人に対しての礼儀として、対等な立場での決闘を望む。

 小夜に似て、優しい父親だと思った。


「いや、小夜の方が似てるのか」

「ん?」

「何でもない。それより、二つ目の話に移っていいか?」

「あぁ」


 二つ目の話。一つ目の話で予想以上に時間を食ってしまったが、元々俺はこの話をするべくしてここへ来た。

 もう一つ、友達の願いを叶えるために。


「俺がベルとの決闘に勝ったら、ライヴ達と⋯⋯」


 その時、俺の言葉を遮り扉が勢い良く開かれる。扉の向から、血相を変えたガルとベルが飛び込んできた。その異様な光景に俺は、思わず言葉を失って呆然とする。

 

「青原さん、大変だ。テセネの魔法使い達が、魔女狩りにあっている。こちらからも援軍を出してるが、どうやら『聖人』が出てきてるらしい!」

「──すまない黒峯君、この話はまた後でだ!」


 アルクリアは弾かれたように、ベルと共に部屋を飛び出す。


「俺達も行くぞ! 急げ!」

「あ、あぁ⋯⋯」


 突然の出来事に戸惑いながらも、俺は言われるがままにガルと共にベル達の後を追って部屋を後にする。

 屋敷の中は、いつの間にか異様なまで張り詰めた空気で満たされていた。


「一体何があったんだ?」

「魔女狩りだ。それも、かなり大規模な。このままだと、街一つが丸々戦場になっちまう!」

「助けに行かないと!」

「とにかく研究室に行くぞ! そこで他の魔法使い達と合流する!」

「分かった!」


 全速力で螺旋階段を駆け下り、図書館を抜けて研究室へと急ぐ。途中何人か魔法使い達を見かけたが、どの魔法使いにも焦りと緊張の表情が浮んでいる。


「真!」

「小夜、無事か?!」

「ちょっとアンタ、少し落ち着きなさい。小夜はここにいるんだから襲われてないでしょ」

「あ、そうか」


 研究室に入ると、小夜とライヴが先に集まっていた。どうやら周りに他の魔法使い達もいる辺り、屋敷内の魔法使い達全員が集合らしい。遠くの方に、蒼夜とカレトの姿も見えた。


「んで、何があってこれから何をする?」

「とりあえず、テセネの魔法使い達を助けに行く。その後状況に応じて撤収するか、もしかしたら反撃に移るかも」

「とにかく、他の魔法使い達を助ければいいんだな」

「そう。ただ、聖人が出てる。戦況はかなり厳しめね」


 ライヴの話の中に、聞き慣れない単語が出た。


「なぁライヴ、聖人って何だ?」


 本来の意味の聖人ならば、どう間違っても戦場でなどその名前は聞かないハズだ。ましてやそれが龍相手などではなく、人間同士なら尚更。


「聖人とは、魔女狩りの中でも特筆して強力な者の持つ称号だ。現在、教会には十二人の聖人がいると言われている。十二人全員が、魔女を殺す事に特化した者達だと聞く」

「⋯⋯アルクリア」


 振り返ると、何やら重厚なローブに身を包みいかにも魔法使いと言った風貌のアルクリアがいた。

 それにしても、十二人で聖人とはまた随分と面白い構成だ。面白すぎて軽く吐き気がする。


「つまりその聖人を倒せば、残りはどうとでもなると」

「そうだ。奴らは実質的な指揮官であると同時に、魔女狩りの象徴でもある」

「じゃあそいつさえ倒せば⋯⋯」

「無理だ」


 きっぱりと言い切られた。


「そんなに強いのか?」

「それもある。だがもっと厄介なのは、私達が魔法使いであると言う事だ」

「⋯⋯やべぇ、なんかスゲェ察した」


 全身からサーッと血の気が引いてくるのが分かる。魔法使いであると言うことは、即ち魔法を使うという事。それが厄介と言う事ならば、考えられる事は一つ。


「魔法が効かないと」

「そうだ」

「物理は?」

「効く」

「なら問題ねぇ」


 その場にいた、小夜以外の全員が驚きの声を上げた。


「えーと、よく聞いてくれ。黒色には身体能力強化の魔法がある。それなら、魔法は俺にかかるから無効化はされないだろ」

「アンタ、一体何個の属性が有るのよ」

「知らん」


 とにかくだ。俺がそいつを倒しさえすれば、魔法使い達を助けることが出来るはずだ。


「例え倒せなくても、他の魔法使い達の救出の時間を稼げば上等だろ? 要は囮だ」

「⋯⋯本当ならば君のような新入りが囮になるなど危険すぎる。しかし、今は状況が状況だ。今は君に頼ろう」

「おっけ。じゃあなるべく早くやろう」

「あぁ、わかった」


 短い返事を残して、アルクリアは俺達の輪から離れて言った。恐らくは、他の魔法使い達にもこの作戦を伝えて回るためだろう。


「⋯⋯真」

「小夜、そんな心配そうな顔すんなって」


 今にも崩れそうな顔で、小夜は俺の顔をじっと見つめてくる。


「アナタが強いのは、私が一番知ってる。けど、やっぱり心配」

「大丈夫だ。理由は無いけど」

「余計に心配だわ」

「なんならサリィを置いてく。随時状況が知れたら大丈夫だろ?」


 今は出てきてないが、どうせこの状況も俺を通して聞いているだろう。もし何かあったら、サリィを介して連絡を取ればいざという時に素早く動ける。まるで使い魔みたいな役割だ。と言うか、使い魔だった。


「心配するな、小夜。俺は負けない」

「本当に?」

「本当だ。必ず聖人を倒して、テセネの人達を助ける」

「約束よ」

「あぁ、約束だ」


 それから俺は、ガルとライヴの方へと向き直る。


「ライヴ、ガル。サリィを頼んだ」

「任せとけ」

「負けたら許さないからね」


 二人とも、頼もしい返事を返してくれた。


「皆、準備はいいな。これより、テセネの救出を開始する。総員、魔力切れに注意しながら全力で戦ってくれ!」


 アルクリアの声が響き、それに呼応するかのように空間が歪み始める。

 恐らくは魔法陣のバックアップを受け、転移魔法をこの部屋全体に発動させているのだろう。


「サリィ、聞いての通りだ。小夜達を頼む」


 転移が終わるまでの数秒。俺は頭の中でサリィを呼び出して話しかける。


「全く、酷いご主人様ですよ。少しは話しかけてくださってもいいじゃないですか。まあ全部聞こえるんですけど」

「悪い。帰ったら気の済むまでお前に付き合うから許せ」

「はーい。じゃあワタクシは、あの可憐な美少女様の護衛兼連絡係をすればいいんですね」

「頼むぞ」

「えぇ、ご武運を」


 俺の横を、何かが駆け抜けて行く。振り返る必要も無い、今はただ前を見て進めばいい。後ろには、頼れる仲間達がいるのだから。

 転移が完了する。視界が開け、石組の建物が連なる街の風景が俺の目に映し出された。


「火の手が上がってるな⋯⋯」

「真、聖人はここから7時方向に2キロの所にいるらしいわ」

「了解」

「気を付けてね」

「大丈夫だって」


 全身を魔力で満たし、一気に駆け抜ける。周りの風景が、一瞬で後ろに消えていくのが見えた。

 強化の度合いも、前より上がっているのが分かる。今は一歩踏み出すだけで、どこまでも駆け抜けられる気がする。風を追い越し、2キロの距離をわずか数秒で走破した先に、目的の人物が佇んでいた。魔法使い達とは対象的な、白い薄手のローブに身を包んだ人間だった。

 奴はまだ、俺に気づいていない。チャンスだ。


「先手、必勝!!」


 音速を超えた蹴りが炸裂する。勢いを殺すことなく、足を突き出して突っ込む。

 ぐにゃり、と肉が歪む感触がした。


「なっ⋯⋯!」

「────遅せぇ」


 今更気づいても遅い。聖人と呼ばれるであろうソイツは、笑ってしまうほど面白い勢いで向こうの家の壁に吹き飛んだ。


「貴様ッ!」

「あ?」


 いつの間にやら、同じような格好をした奴らが俺の周りをぐるりと取り囲んでいた。それぞれの手には、細身の剣のようなエモノが携えられている。

 だが、奴らは聖人じゃない。魔法が効く、ただの人間だ。


「真槍」


 魔法陣八つ。それぞれを周囲に展開し、一斉に真槍を放つ。攻撃を受けた魔女狩り達は、バタバタとだらしなく地に伏せていゆく。

 あまりにも呆気ない、勝利だ。


「⋯⋯いや、まだか」

「ご名答。丈夫なのが私の取り柄なのでな」


 壁から立ち込める土煙の中から、見覚えのある人物が表れた。


「驚いた、アンタが聖人だったとはな。ロシア旅行は楽しかったか?」

「フン、たった数日間の間に随分な変わりようだ。一体お前に何があった?」

「⋯⋯チッ、質問を質問で返すな」


 見上げる程の大男。間違えるはずもない。小夜と初めて会った時に、小夜と戦っていたあの大男だ。


「日本には、男子三日会わざれば刮目して見よってことわざがある。男にゃ、サクッと成長できるような力があるのさ」

「なるほど。日本男児様々といった訳か」

「俺は別に日本男児的教育を受けたわけじゃ無いけどな」


 心臓が、今にも爆発しそうになる。頭の中の声が、ゴーサインを連呼して止まない。


「一つだけ聞かせろ。もしかしてお前、あん時は手を抜いていたか?」

「答える必要は無いが、仕方が無いので答えてやろう。そのとおり、あの時は全力では無かった」


 どくん、と更に鼓動が跳ね上がる。まだだ。コイツを見て思い出した事が、まだ残っている。


「じゃあ、あの時は見逃してもらった訳か。礼を言う。だがな────」


 いい加減、我慢の限界だ。いっその事、もう一度コイツをぶっ飛ばさないと気が済まない。

 だって。


「小夜を殴った時、お前は全力だったか?」


 憎しみの視線を投げつけて、俺は大男を睨みつける。

 コイツは小夜に手を出し、あまつさえ捕らえようとしていた。もし俺が助けられなかったと思うと、気が狂いそうになる。


「そうだな。まだ一般人であったお前ならともかく、あの青色は生粋の魔女だ。ならば、手加減をする必要はあるまい」

「そうか」


 鼓動が、血流が、思考が止まる。その答えが本音なのか、はたまた聖人としての建前なのかは本人にしか分からない。けれど俺としては、十分に我慢した。もういいだろう。


「────死ね、ゴミ」


 止めていた分の衝動が纏めて爆発する。先程よりも更に早く、俺は奴の喉元に襲いかかった。

 殺してやる。そう、強く心に願って。

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