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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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相棒

 少しだけ熱い陽射しと、小鳥の囀りの代わりに聞こえる海鳥達の鳴き声。そんな朝が、俺の元にやって来た。


「侵喰、か」


 昨日の夢を思い出す。ほとんど霞んで覚えていはいない。けれど確かに、この単語だけはしっかりと脳裏に焼き付いている。


「もう少し何か覚えとけよなぁ⋯⋯」


 苦し紛れにベッドを叩く。ポスンと音を立てて、ベッドは上下にゆらゆらと揺れた。


「ん、ん⋯⋯ふにゃ⋯⋯」

「ん?」


 すぐ隣から声がする。続けざまに、すーすーと寝息の様な音も聞こえた。

 慌てて横を見ると、サリィがシーツに包まってスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。


「ぎゃあああぁぁぁ!!」

「ふぇ?」


 驚いた勢いでそのまま転げ落ちる。目覚めには少々キツい衝撃が後頭部を襲い、軽い目眩を覚える。


「うー⋯⋯くー」

「起きないのかよ」


 無意識に高まる鼓動を抑えるように深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。

 俺は昨日、あの後にすぐさま寝た。そして今まで、一度も起きてはいない。つまり何か間違いが起きたことは万一にも有り得ない。


「危ねぇ⋯⋯寿命が縮んだ」


 もし仮に何か間違いが起きていたら、俺は多分ライヴに存在ごと消し飛ばされていただろう。もしくは、どこか遠い密林の奥地に飛ばされるかだ。


「おい起きろ」


 何はともあれ、まずはコイツを起こしてしまおう。何も起きてないのは確実な事だが、傍から見ればまだ十分に誤解を招く構図だ。

 俺はペシペシとサリィの顔を叩いた。


「ふぇー?」

「おはようサリィ。早速で悪いが、この状況を説明してもら──」


 どうして俺のベッドに寝てたのかを問いただそうと詰め寄って、固まる。

 

「んー、おはようごじゃまーす」

「いいか、動くな。そのままもう一回寝ておけ」


 寝起きドッキリもいい所だ。なにせコイツ、シーツの下に何も着てないのだから。

 半分目覚めてない頭が幸いしたのか、俺はなんとか冷静を保ちつつじりじりとサリィから距離を取る。


「むー、何ですかその目は。ワタクシはちゃんとした貞操観念を持ったアニマなんですよ」

「どの口が言いやがる。いいから動くなあああぁぁ?!」


 はらりとシーツが落ち、サリィの肩が顕になる。血色の良い健康的な肌だ。いや違う。


「いやん、ご主人様のいけずぅ。昨日はあれだけ積極的だったクセにぃ」

「吐きそ」

「なぁ?!」


 涙目のサリィを尻目に、部屋を出ようと扉へと向かう。


「ご主人様、なんで目の前に裸の超絶可愛い美少女がいても正気を保っていられるんです?! ご主人様はあれですか、生物としての本能が欠落してるんですか?!」

「それはお前の中身が超絶可愛い美少女とは逆だからだろうがァ!」

「うわーんご主人様のバカァー!」


 シーツに包まり、ゴロンと寝転がり不貞腐れるサリィ。


「うわ、めんどくせぇ」

「どうせワタクシはめんどくせぇ女ですよ。ご主人様はもっと優しくて中身も可愛い女の子とイチャコラしてればいいんです」

「うわぁ⋯⋯」


 ブツブツとブーたれるサリィ。その様子が少しだけ可哀想に見えてしまう。演技だろうと自分に言い聞かせようとするが、彼女のあまりのいじけっぷりに少しだけ慈悲の心が芽生えてしまった。


「⋯⋯着替えるの待ってやるから、早く着替えて行くぞ」

「全裸ではなく、生着替えの方が興奮するんですか。変態ですね」

「じゃあ俺先行くから」

「待って下さい四十秒で支度しますから!」


 前言撤回。慈悲などない。


「ハイ終わりました」

「早っ!」


 驚いて振り向くと、サリィは全裸から黒いゴシックのワンピースに早着替えしていた。ライブの衣装より早い。


「⋯⋯⋯⋯」

「どうしましたご主人様。やっぱり脱ぎましょうか?」

「脱がんでいい脱がんで」

「やっぱり着た方が興奮するんですかね」

「台無しだよ!」


 思わず少し見とれてしまった自分を戒める。下手に着れば黒歴史になりかねない服も着こなせてしまう程に、彼女は自称する通りの見た目だけならば美少女であった。見た目は。


「ところでご主人様はニーソとタイツとガーター、どれがお好きですか」

「さて、お前も着替えたしさっさと行くか」


 サリィの問いを無視して廊下へと出る。反射的に答えてしまいそうだったが、なんとか堪えることが出来たので良かった。今はこんな事をしている場合では無い。


「悪いがサリィ、こっから先はおふざけナシだ」


 足を一歩踏み出す。何かの境界を超えるかのように、俺の思考は急激に鮮明に研ぎ澄まされてゆく。

 決闘までの残り一日。僅かな時間と、判明した俺の魔法。そして、思いつく限りの計画。一つ一つを噛み締め、心に強く刻みつける。


「了解、ご主人様」


 そんな俺の心境を察してか、サリィの声にも真剣味が増す。普段はふざけてるクセに、ちゃんとした所では俺に合わせてくれる頼れる奴だ。


「いつもコレならいいんだけど」

「ご主人様何か言いました?」

「いや、何も。行くぞ、サリィ」

「えぇ」


 朝日を浴びてなお、頼もしさを見せる吸血鬼。その姿に追い風を感じながら、俺は早足に屋敷を歩き回る。

 さて、凶と出るか吉と出るか。はたまたその両方か。吹き始めた風は、少し勢いを増していた。

 

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