必然たる偶然
「──侵喰。ありとあらゆる物、果ては概念すら喰らい尽くす大魔法。君の力は、魔女殺しの為の魔法なのさ」
「侵喰⋯⋯ね」
随分と大層な魔法だなと思う。成程、なら魔力を奪えるのも納得が行く。
「分かっただろう。魔法を喰らい尽くす魔法なら、魔女は絶対に勝てやしない。まだ武器で殴った方が勝ち目がある」
「それでも、生命力すら喰らい尽くすから結局は勝てない。そうだろ?」
「その通りだよ」
全てを黒く塗り潰し、一片も残さずに奪い尽くす。強欲で、余りにも強大過ぎる力。
けれどこの力で、大切な人達を救えるなら。
「すまない。この瞬間から、もう君は終わりに向かって歩き始めてしまった」
「いいさ。どうせ人間、いつかは死ぬんだから」
大切なのは、それまでに何が出来るかだ。世界を塗り替え、塗り潰して、俺は皆を救ってみせる。
「それで、何年後だ。俺が死ぬのは」
「オレの予測では、今から約二年後に世界が終わる。だからオレと真は、それまでに世界を救わなければならない」
「二年か⋯⋯」
高校卒業と少し経った頃か。長いようで、きっと短いんだろう。大学に行く奴らもいれば、もう社会人として働いてる奴らもいるんだろう。
そんな世界が終わるなら、俺はそれに全力で抗ってやる。
「これは記憶には残らない。残るのは、君の魔法が侵喰と言う属性であると言う事だ」
繰り返し、声の主はそう忠告する。夢から醒めたれば、俺はまた未来に向けて思いを馳せてるのだろう。
「いずれ思い出して、知ってしまって。絶望する日が来るかもしれない」
「それは無い」
それだけは絶対に無い。いくらこの身が朽ちようと、どれだけ理不尽を押し付けられようと、小夜達の居る世界が消えるのは俺が俺である限り見逃す事は出来ない。
「そろそろお別れだ。今は、目の前の事に集中するといい」
声の主の通り、真っ暗だった周囲がほのかに明るんでくる。
「じゃあ、最後に聞かせてくれ。俺が黒色になったのは必然なのか?」
「偶然だよ。君は偶然にも、滅ぶという必然を押し付けられてしまったんだ。許せないかい?」
「それは⋯⋯」
少しだけ、ほんの少しだけ口をつぐんだ。けれど、俺の言う事は決まっていた。
「礼を言いたいくらいだ。なんせ、大切な人達を守る役割と力を貰えたんだから」
「あぁ⋯⋯そうか」
それが最後の会話だった。急速に広がる光と白。その眩しさの中、俺は誰かに向けて手を伸ばしていた気がした。




