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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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アニマの異常な愛情 または黒峯真は如何にして心配するのを止めて巫女服を愛するようになったか

「おーいガル、起きろー」


 前のめりに倒れたガルを仰向けに起こし、ぺしぺし顔を叩いてみる。が、一向に反応がない。どうやら魔力が完全に切れてる様だ。


「ご主人様ぁー、終わりましたー?」


 後ろから呼び掛けられる。この呑気で元気な声はアニマの物で間違いない。


「あぁ、終わった。お前も──」


 アニマの方へと振り返ると、目を疑うような光景が広がっていた。

 まず真っ先に目に入ったのがアニマの背中から生えた大きな翼。ズタズタの布の様な翼は、そこだけが夜を切り貼りしたかの如く真っ暗だ。そしてもう一つが、


「お前ー! グルフは鴨じゃなーい!!」


 アニマの手には、仕留められた鴨の様になったグルフがいた。首をがっしり掴まれ、ピクリとも動かない。


「ご主人様、そっちですか。ワタクシの羽よりそっちですか」

「お前はもうなんでもアリっぽいから⋯⋯ってか、何があった。どうしたらそんな状況に?!」


 鴨、もといグルフを指差す。


「ご主人様が言ったんじゃないですか。抑えておけって」

「あぁ、言ったな」

「それで空を飛んで捕まえたまでは良かったのですが、それからはあっちこっちに大暴れで。それでガッチリとやったらイイ感じになったので」

「ははぁ⋯⋯」


 つまりは面倒だったから眠らせたという訳だ。


「心配ないですよご主人様、アニマはこんな事では死にませんよ。内蔵が吹き飛ぼうが、首が切れようが魔力がある限り消えません」

「怖。お前ら怖」


 もし自分がそんな体だったらと思うとゾッとする。死ぬのは確かに恐ろしいが、生き地獄と言うのも救われない。


「なのでご主人様。もしそんな事が起きたら、ワタクシに魔力をありったけ下さい」

「そんな事が起きなきゃいいんだがな⋯⋯って、それヤバイじゃん!」


 グルフの主であるガルが魔力切れの今、これ以上グルフを傷つけると消えかねない。


「えぇ?! ご主人様どんだけ本気で戦ったんですか?!」

「仕方ないだろ! それよりもとにかくグルフを離せ!」

「イエッサー!」


 ぽいっとその辺りにグルフを放り投げるアニマ。


「雑! 非常に雑!」

「まあまあ、いいじゃないですか。それよりもご主人様は怪我とかして無いですか?」

「あ、あぁ⋯⋯とりあえずは。ガルの方も魔力切れは起こしてるけど多分大丈夫だ」


 ちらり、とガルの方を見る。真槍のお陰か、ガルにも目立った外傷は無いようだ。このまま休ませておけば自然と回復するだろう。


「では、とりあえず緑さんを部屋まで運びましょう。ご主人様もお疲れでしょうし」

「そうだな。茶でも飲んで休むか」


 倒れているガルを肩に担ぎ、屋敷へと戻る。


「だからグルフの首を絞めるな!」

「ふぇ?」


 俺がガルを運ぶという事は必然的にアニマがグルフという事になるのだが、もしかすると間違いだったのかもしれないと俺はアニマを見て思った。


「これが一番楽じゃないですか」

「グルフも楽になるからやめてお願い! もっと優しくしてあげて!」

「はぁーい⋯⋯」


 仕方ないと言った表情で、グルフを腕に抱えるアニマだった。


「なぁ、アニマ」


 ふと、湧いて出た質問を投げかけてみる。


「やっぱりお前は、消えるのは怖かったりするのか?」

「んー? どうゆう事です?」


 アニマがぽかんとした表情でこちらへ顔を向けてきた。その仕草が不覚にも可愛いと思ってしまったが、そんな事はどうでもいい。


「いやさ、人間は死ぬのは怖いと思うんだよ。もしかしたら怖くないって人もいるかもしれないけど、少なくとも俺は死ぬのは怖い。死にたくないって思う」


 自分という存在。アニマの、死神の言葉を借りるなら魂。それが消失するのは、何よりも恐ろしい。


「こう、自分が消えるのは死ぬのと同じみたいなもんだろ? だったらやっぱり、お前も消えたくないって思うのか?」

「難しいですねぇ⋯⋯」


 むむむ、と頭を捻らせて何かを考えるアニマ。眉間にシワを寄せてる顔が何とも言えない。


「そもそも人はなんで消えるのが怖いんでしょうか」

「それは⋯⋯考えた事も無いや。でも、怖いとしか言いようがないんだ。幽霊とかだって怖いだろ?」

「目の前に幽霊と大差ない存在が居るというのに怖がられましても」

「⋯⋯そう言えばそうだな!」

「と言うかご主人様、幽霊怖いんですか? その歳で」

「うっ⋯⋯いや⋯⋯その⋯⋯」


 しまったと心の中で叫ぶ。何を隠そう、俺は幽霊が苦手だ。と言うか、俗に言うホラーな物は全て苦手だ。それをコイツに教えるのは少し癪な気がする。


「ははぁーん? ほほぉーう?」

「なんだよニヤニヤ気持ち悪い」

「いえいえ別にぃー?」


 うわ。すっげえムカつく顔してる。


「ライヴにでも教えちゃおっかなぁー」

「それは別の意味で怖いからマジで止めてお願いします」


 敵に弱点を晒すなど、倒して下さいと言ってる様な物。ましてライヴの場合、それをネタにされるだけで面倒だ。


「じゃあ血で」

「魔力切れ起こすかもしんないから決闘が終わったらな。それまで待て」

「よっしゃー!」

「はぁ⋯⋯」


 大きく溜め息を吐く。こうなったら、アニマにはとことん働いてもらうとしよう。


「それにしてもベルのアニマ何だろうな。やっぱりアニマも兄弟だと似たりするのかなぁ」

「きっと触手だらけのヌメヌメした生物ですよ。それできっとワタクシにあんな事やこんな事をするんです! そう、エロ同人みたいに!」

「誰得だよ」


 そもそもどうやったらあんなイケメンの使い魔がグロ生物になると言う発想が出るのか不思議で仕方ない。仮にそうだったとしても、そんな事は多分起こり得ない。人外と人外とか誰得過ぎる。


「ダメですよご主人様。自分の守備範囲じゃないからと言って全てを否定しては」


 アニマの言葉にはっとさせられる。確かにそれを好きな人に対しては失礼だと思う。これは少し考えを改めなければならないようだ。


「ご主人様だって黒髪ロングのクーデレ巫女服美少女が好きでしょう。それを否定されたらどう思いますか?」

「確かにそうだな。じゃなくて!!」


 あまりにもアニマが正論すぎて流れで認めてしまった。


「なんで知ってるのお前?!」

「前にも言ったでしょう。ワタクシにはご主人様の知識がある程度あると」

「それと何の関係が⋯⋯」


 アニマとの会話を必死に思い出す。確かコイツには俺の知識がある程度流れ込んでいて、それはいわゆる俺の趣味の割合が大半を占めていると言った。もしかしてその中のでも、黒髪ロングのクーデレ巫女服美少女の割合が多かったのだろうか。


「まさかお前の知識には、その⋯⋯黒髪ロングクーデレ巫女さんの知識がいっぱいあったと」

「どちらかと言うと知識と言うよりイメージがいっぱいあった感じです」

「忘れろ、今すぐ忘れろ!」


 ガルを背負ってる事も忘れて、アニマの頭にアイアンクローをお見舞いする。ぎりぎりと、指がアニマの頭を締め付ける。


「あぁご主人様⋯⋯なんて荒々しい⋯⋯痛いけど、それ以上にご主人様にこんな乱暴に扱われるのが気持ちいいです⋯⋯もっとぉ⋯⋯」


 逆効果だった。アニマは恍惚の表情を浮かべ、頬をほんのりと赤く染めていた。俺も俺だが、コイツも結構な趣味をお持ちのようだ。


「どうして手を離すんですご主人様、焦らしプレイですか。えっちぃ」

「⋯⋯⋯⋯」


 諦めて、無言で歩くスピードを早める。


「ちょ、ご主人様待って下さいよ!」

「どうして俺はこんな使い魔をひいちまったんだ⋯⋯」

「ご主人様待って! 分かりました、ワタクシが巫女服を着ますから!」

「違うそうじゃない!」


 ようやく部屋へ辿り着いた頃、俺はガルとの戦い以上に疲れていたのであった。

 そして、アニマは消える事に対して恐怖を感じるのかも聞けないままだった。

真はミニスカ巫女服とかじゃなくてあの普通のシンプルな巫女服が好きだと思う。

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