旋風
元の部屋に戻り、俺とガルは椅子に腰掛け向き合っていた。
「俺たちウィリディス家は、代々緑色の魔法使いを出してきた。兄貴と俺も例外無くな」
ガルの話をこくこくと頷きながら傾聴する。どうやら予想通り、ガルとベルの魔法は大体一緒らしい。
「緑色は自然を操る魔法でな。俺みたいに電気を操る奴もいれば、天気を操ったり水を操る奴らもいる」
「水って⋯⋯」
小夜の話を思い出す。確か青色も水を操る魔法だったような気が⋯⋯
「あぁ、大体言いたいことはわかる。それだと、そいつらを使う他の魔法と一緒じゃないかって話だろ?」
俺の表情を読んだのか、ガルは俺の言いたいことをピタリと当てた。
「確かに操る点では同じなんだが、緑色は組み合わせて使うことも出来る。例えば小夜は水単体だが、俺達は水と一緒に風を操れる」
「でもお前、電気しか使ってなかったじゃないか」
「得意不得意がある。緑色は根本に自然と言う定義があるから、大なり小なり全ての適正はあるんだ」
「なるほどな。具体的に、自然ってのはどこまで自然なんだ?」
「難しいな⋯⋯」
腕組みをし、元々悪い目付きを更に悪くさせて考え込むガル。
「四大元素って知ってるか?」
「あぁ、知ってる。土、火、水、風だろ」
ここぞとばかりに、ラノベで得た知識を引き出す。どうやら、本当の魔法と共通する物もある様だ。
「これに関連するものは全て自然と考えてもらって構わねぇ。土は植物や地面、風は天候と言った感じだな」
「天候、つまり雷か。じゃあガルは風系統が得意ってワケだな」
「そうだな」
段々と分かってきた。つまり、その辺りにあるものなら大体は操れるという事だった。
「他の魔法に比べてめちゃくちゃ便利じゃん」
「そうでもねぇぞ。傷も治せねぇし、身体能力も強化出来ねぇ。本体は弱いまんまって事だ」
「つまりそこに勝機があると」
「まぁそうなんだがよ⋯⋯」
「?」
ガルの表情が曇る。
「ここからが本題だ。操れる物にも得意不得意があるってのはさっき言ったよな」
「あぁ、言った」
「不得意な部分を攻めれば、普通の魔法使いと何ら変わりなく戦えるんだがよ⋯⋯」
「⋯⋯まさか」
最悪の状況を思いつく。そんな状況になれば、それこそ勝ち目が見えない。
「なぁガル⋯⋯まさかと思うんだが⋯⋯」
恐る恐る、口を開く。
「そのまさかだ。兄貴には、不得意な部分がねぇ。それどころか、どの系統もトップクラスの力を持ってる」
「う、うわぁ⋯⋯ヤベェ⋯⋯」
冗談だと言って欲しかったが、ガルの真面目な表情からするに本当なのだろう。
「つまりあれか、自然全てを相手するって事か」
「あぁ」
はぁ、と小さく息を吐いた。なんだよ全部って最強キャラかよ、と思わず心の中でぼやく。
それでも、少しも怖くはなかった。
「なんだ、割と平気そうな顔だな」
「いやいや全然、全くどうやっても勝てるビジョンが見当たらねーよ。でも、負ける気はもっとねーよ」
戦意は十二分にある。足りないのは、己の魔法についてと対策。大丈夫だ、まだ時間はある。
「話せるのはこのぐらいだ。あとはテメェ次第になる」
「やるさ、やってやるさ。四大元素使いが何だ、んなもんぶっ飛ばしてやる」
己を奮い立たせ、拳を握りしめる。
「ワタクシも忘れてもらっては困ります!」
ヌッと魔法陣からアニマが飛び出してきた。どうやらこちらの話は既に伝わってる様で、やる気満々という感じで腕をぐるぐる回したりしている。
「ガル、こうなりゃ手加減は無しだ。俺の練習に付き合って貰うぞ。全力でな」
「ったく、怪我だけはしてくれるなよ?」
「お前の方こそ」
早足で外へと向かう。天気は快晴、外での運動にはぴったりだった。
体慣らしに伸脚をし、魔法陣から真槍を引き抜く。ふと、隣のアニマが何か大きな物を担いでいるのに気がついた。
「何だそれ?」
「鎌です。死神の武器と言ったら鎌じゃないですか」
「はぁ⋯⋯」
確かに、言われてみれば鎌だ。長い棒の先に湾曲した刃が付いている、どこからどう見ても鎌だ。
「真槍も頑張って二本ぐらいまでしか同時に出せませんし、それだけじゃ心もとないと思いまして作ってみました」
「へぇ⋯⋯」
「ですが何故か刃がトンデモななまくらでして、切るというよりは鈍器として使った方が武器になると思います」
「ほぉ⋯⋯」
武器まで適当な奴だな⋯⋯と思った。しかし、あの長さから繰り出されるフルスイングを食らえば、下手をしたら切られるより痛いかもしれない。テコの原理こそ最強デース。
「準備はいいか?」
少し離れた位置から、ガルが話しかけてくる。あちらは既に足元と空中に魔法陣を展開し、準備万端と言った様子だ。
「俺は大丈夫だ。アニマ、お前は?」
並んで立つアニマ。彼女は俺の方へと顔を向けると、コックリと頷く。
「じゃあガル、頼むぜ」
真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐにガルを見つめる。自然と口元が釣り上がり、俺の顔は獲物を捉え、牙をむいた獣のようになっていた。
「よっしゃ、来やがれ!」
ガルが叫ぶ。その叫びを合図に、俺は全力で駆け出した。




