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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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白い黒本

「どういう事だ?」

「さぁ?」


 顔を見合わせて、二人仲良く首を傾げる。二人共、何が起きたか分からないという顔になっていた。

 あ⋯⋯ありのまま今起こった事を話すぜ!俺は読めない文字を読んでいたと思ったら、いつの間にか読める文字を読んでいた。と言った感じだ。


「少し待ってろ」


 そう言ってガルは、本棚の間へと消えていった。そして、戻って来たガルは、何冊かの本があった。


「これ読めるか?」

「どれどれ⋯⋯」


 『黒元』をとりあえず本棚に戻し、ガルの持ってきた本を受け取る。表紙には、奇妙な文字で題名が書かれていた。


「『利き手による魔法のバランス』んでこっちは『藍色の異端』か?」


 文字を見ると、不思議と頭に言葉が浮かんでくる。


「マジかよ⋯⋯」


 俺の解読に、ガルは心底驚かされたと言った表情になる。


「当たりか?」

「『利き手による魔法のバランス』は今の魔法語だ。だが『藍色の異端』は読めなかった文字だ」

「てことはあれか、やっぱり一昔前の魔法語なのか?」

「多分な⋯⋯」

「前の魔法語の奴、中も見ていい?」

「あぁ、頼む」

「頼まれた」


 『利き手による魔法のバランス』をガルに預けて、『藍色の異端』を開く。


「うっわ!」


 開いた途端、ホコリとカビのにおいが辺りに広がり思わずむせる。どうやら、あまり手入れされてない様子だ。


「読める人が少ないからな」

「先に言えよ⋯⋯」


 ホコリを振り払い、改めて開いたページを眺める。相変わらず何の文字かは分からないが、何故か内容は分かってしまう。

 感覚としては、全て漢字で書かれ、当て字で読む文を読んでるようだった。夜露死九みたいな感じ。


「『アイツは全てが異端だった。靡く黒髪は虹色に輝き、藍色の瞳は緋色に燃え、病弱なまでの白き肌は妖しく艶やかに血を通わせ。まるでそれは、この世の全てを失って得た箱の様だった』⋯⋯何これ?」


 まるで意味のわからない文章だ。読んでるだけで頭が痛くなってくる。

 

「七百年も前の奴らの事だ、まともに読もうとするだけ無駄だな。だったら、こっちを読んだ方がまだいい」


 持っていた本を交換する。どうやらこっちの本はそこそこ読まれてるらしく、何事も無く開けた。軽く流し読みをしながら、使えそうな知識を探し出す。


「『魔法においても、利き手による力の強さは存在する。例えば『具現』の魔法を使用する際にも、利き手によって強度や精度に違いが出る』か。でも俺、真槍は魔法陣から出してるしな⋯⋯」


 どうやらこちらの本もあまり役には立たなさそうだ。


「さっぱり分からねぇ⋯⋯」


 一方のガルは、お手上げと言った表情でペラペラとページを見ていた。


「あー、あんまり使えねぇなこの本」


 書いてあった内容は興味深かったが、今必要なものでは無かった。


「もういいか?」

「あぁ」


 ガルに本を返し、本棚に寄りかる。


「少し疲れた⋯⋯」


 天井を眺め、大きく息を吐いた。魔法語を読むのは、普通の文字を読むよりも疲れる。


「そういえばテメェ、何しに来たんだ?」

「あぁそうそう、お前に練習付き合って貰おうとしたんだ。実戦の」

「またかよ⋯⋯」


 露骨に嫌な顔をされた。


「頼む、決闘まで何やればいいか考えてこれしか思いつかなかったんだよ」


 両手を合わせ頼み込む。頼れるのはお前だけだ、と必死に説得を試みた。


「別にいいけどよ⋯⋯お前の方は大丈夫なのか?」

「なにが?」

「魔力とか貯めておいた方がいいだろうし、ヘマやらかして怪我でもしたら大変だろ」

「言われてみれば⋯⋯」


 最もな意見だった。今ここで魔力を使い果たしたりでもしたら、それこそ勝ちが遠のいてしまう。


「じゃあ、ベルの魔法について教えてくれよ。対策立てたりなら大丈夫だろ?」

「問題ないな」

「頼む」

「おう」


 方針が決まり、寄りかかった本棚から背を離す。と、ガルは持っていた本の存在を思い出した。


「戻してくる」

「すまん、頼んだ」


 歩いて行くガルの背中を見つめる。何だかんだ言って協力してくれる奴だった。人間、目つきで人相を判断しちゃいけない。


「そういえば『黒元』の中身読んでなかったな」


 ふと、先程手に取った本を取り出す。

 本は鈍器としても使えそうな程分厚く、黒く重厚な外装には白字で不思議な文字が書かれていた。この文字が昔の魔法語なのだろう。じっと見ると、頭の中には再び『黒元』の文字が流れ込んでくる。


「にしても中二っぽい題名だな⋯⋯」


 苦笑しながら、その表紙をそっと開く。不思議な事に、ホコリは微塵も無かった。そして、中にあるはずの文字も無かった。


「⋯⋯は?」


 呆気にとられ、本を持ったまま立ち尽くす。そんなはずはとページを(めく)るが、いくら捲ろうと白紙だった。


「何シケたツラしてんだ」

「あ、いやなんでもない」


 本を閉じて、ガルの方へ向き直る。色々と疑問はあるが、今は決闘について考えなければ。


「なぁガル、本借りる時はどうしたらいいんだ?」

「テキトーに借りてけばいい。出る時自動でチェックされる」

「そか、じゃあとりあえず借りてくわ。んで、これからどうする?」

「一度上に戻るか。誰かに立てた作戦を聞かれたりしたら色々と面倒だからな」

「わかった」


 ガルはそう言って出口の方へと歩き出した。後を追いかけて、出口へと向かう。


「さて、どんな奇策妙計を立ててやろうか」


 こんな状況だと言うのに、不思議と心は踊っていた。俺は来た時よりも軽い足取りで、螺旋を駆け上がって行った。

 

 手の中にある本は、まだ何も書かれていない。

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