魂
「ワタクシはですね、俗に言う死神と吸血鬼とサキュバスなんですよ」
「うん、さっきも聞いた」
改めて自己紹介をしてもらう。自己紹介も何も、さっき作られたばかりだから自己と呼べるものがあるのか不明だが、とにかく自己紹介をしてもらう。
「んで、その種族だと何が出来るんだ?」
「んー、そうですね。人間相手なら、血や魂や精液と一緒に魔力を『吸収』できる感じですね」
「血や精液ならわかるけど、魂ってなんだよ」
魂。人間にとっては持って無ければいけない物だろうが、見た目も定義もあやふやな物だ。
そんなもの、一体どうやって吸収するんだ。
「ご主人様、人の『命』とはなんだと思いますか?」
「命?」
突然変な事を聞いてくる。
「命は命だろ? 死ねば無くなるし、生きてる人は命を持ってる」
「なるほど、良いお考えですね」
納得したように、ふむふむと頷くアニマ。だが俺は、全く納得出来ない。
一体命が魂とどう関係するんだろう。
「ではご主人様、『存在』とはなんだと思いますか?」
「存在……?」
また不思議な事を聞いてくる。
「……? 存在って……何だ?」
訳が分からない。なんだか、階段を上りながら下っている感じだ。答えが見当たらない。
「存在と言うのはですね、人の証なんですよ。命は死ねば終わりますが、存在と言うのは死んでも残りますよね? 例えばお墓、例えば写真、例えば人々の記憶」
「あぁ、分かるかもしれない」
なんとなくだが分かる。簡単に言うと、その人が『存在た』と言う事だろう。その人が死んでも、他の人や物からその人が存在たと分かる。
「つまり魂と言うのはですね、命を持って存在しているという時間のことなんですよ」
「……うーむ、分かるような分からないような」
感覚的に少し理解出来る。だが、言葉にしろと言われたら説明はできない。
「それを奪うんですよ。もっとも、血や精液と違って色々と手順とかがあるんですけど」
「奪われるとどうなるんだ?」
「周りからも、様々な記録からもその人は消えてしまいます。死ぬならまだしも、死んだことにすらならずに消えてしまうんです」
「死神なのに殺さないのか」
微妙に納得出来ない。死神って言うのは、問答無用で命を刈り取って行く物だと思っていたのに。
「そもそも死と言う概念が間違っているんですよ。人間が一生を終えても、様々な形でこの世に留まり続ける。なら、それはまだ死んでないじゃないですか」
「……よーわからん」
頭が痛くなってきた。魂って言うのはつまり──どういう事なんだっけ?
「アニマ、3行でたのむ」
「魂と言うのはその人の生きてる存在なんです。
これをワタクシが奪うと、その人は『生きてる存在では無くなる』んです。
あー、ご主人様の血が飲みたい」
「律儀に三行にせんでいい。あと、血はやらんぞ」
「じゃあ魂」
「今の話聞いてやると思うか?!」
「じゃあ精液」
「やめろ! というかまず精液言うのやめろ! 倫理的にも精神的にもダメだ!」
「むぅ、難しいお方ですね」
「こんな奴で大丈夫なのかよ……」
先程とは別の頭痛がしてくる。おかげでどこまで話したか分からなくなってきた。
「とりあえず、魂が無くなると存在そのものが無くなってしまうという事だけでも覚えていて下されば大丈夫です」
「最初からそう言えよ」
とても分かりやすい解説だった。要は魂はやるな、という訳だ。
「それじゃあ、自己紹介続けますね」
「まだ続くのか」
「まだしたばっかりじゃないですか」
そういえばそうだった。魂の説明を聞いたせいで長くなったが、まだ俺はコイツの種族の割合くらいしか聞いていない。
「んじゃとっとと終わらしてくれ。えーと……」
そこまで言って気づく。俺のアニマの名前を聞いていなかった。
と言うか、なんでコイツは自己紹介の初めに名乗らないんだ。
「おいアニマ、名前はなんて言うんだ?」
「無いです!」
「……は?」
耳を疑う。この白頭は今なんと言った?
「もう一度聞くぞ、名前は?」
「無いです! なので、ご主人様がつけて下さい!」




