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彩色の魔女  作者: 唄海
序章
19/115

始まりの終わりと新たな始まりの始まり

最初に見たのは青い空だった。

次に海。

そして最後に見たのは岬のような場所。


「なんだ……ここ……ってうわあぁぁ!」


俺はそのまま海へと落ちる。

海は深く、流れも強かった。

そのまま流れに巻き込まれ俺はもがく。


「何だ何だよ何ですか?!」


水が入り咳き込む。

塩水が目に染みる。

呼吸が苦しく、脳の処理が追いつかなくなる。

段々と意識が遠のいてくるのが分かる。


「あぁ……小夜、泣き止んだかな」


走馬灯の様に浮かぶ小夜との思い出。

数日しか過ごしていないのに懐かしく感じるし、先程出会ったばかりのようにも感じる。

俺が最後に見た彼女は泣いていた。


「泣く顔は……似合わねぇな……」


俺の意識はそこで水底に吸い込まれていった。



───────────────────────────


「………………ん?」


意識が戻る。

どうやら俺はまだ生きてるらしい。

目が回って良く見えない。

ふと、後頭部に柔らかい物を感じる。


「……あぁ、なんだ夢か」

「夢じゃないわよ……バカ言わないで……」


目の焦点が合ってくる。

目の前にはとても綺麗な顔があった。


「あれ、小夜? なんでまた泣いてんだよ……」

「本当に……ごめんなさい……!」


小夜はまた泣いていた。


「……そうだ! あのクソ緑は!?」

「クソ緑言うなテメェ!」

「え、えぇ?! なんでぇ?!」


怒られた。

あれ、小夜の声じゃない。

ていうかなんで俺倒れてるんだろう。


「……まだ寝てて。 真、痛い所は無い?」

「いや、特には。 てかまさかこの後頭部に感じる柔らかい感触はまさかとは思うが……」


俺は寝返りをうつ。

すると濡れた布の感触が顔につく。

これは……制服のスカート?


「あまり動かないで貰うと有難いわ。 くすぐったい」

「………………ぁ」


体が硬直する。

これは!

俺の推理が正しければ、小夜が俺を膝枕してる状態だ!

そう思った瞬間、全身(特に顔)が熱くなってくる。

まさか……いやまさか……

今度は逆に寝返りをうつ。

目の前に来たのは見慣れた制服だった。

ブレザースタイルのその制服は濡れていて、シャツの部分がうっすら透けていた。


「ぁ…………あぁ…………」

「大丈夫、真? やっぱりどこか痛む?」


いいえ、違うんです小夜さん。

非常に言いにくいんですけどシャツが透けてるのでその……見えてしまってるのですよ。


「なぁ、小夜。聞きたいことがあるけどそれは後にしてとりあえず起きていい?」

「ダメよ、まだ寝ていた方がいいわ。」

「いや大丈夫だから起きていい?」

「ダメ、寝てなさい」

「いや大丈夫─」

「ダメ!」

「だから─」

「ダメって言ったらダメよ。 何かあったら嫌なの……お願いよ」

「ハイ」


どうやら無理だったようだ。

仕方ない、気づいてないようだし少し拝んでおこう。


「なるほど、黒か」

「何をいきなり言い出すのよ。やっぱりどこか痛いの?」

「いえ! なんでもないですよ!」


俺はそのまま上を向く。

太陽は上にあり、とても綺麗に晴れていた。そろそろお昼だろうか。

……上?


「なんで?! さっき夕方だったじゃん?!」

「そりゃあ時差があるからだろうが」


小夜とは別の声が聞こえる。

この声は?


「ガル……だっけか?」

「チッ、馴れ馴れしいなテメェ」

「はぁ、荒々しいなんテメェ」


どうやら第一印象は悪いみたいだ。

それより時差だと? なんで時差?

俺は寝転がったまま周りを見渡す。

どうやらここは浜辺のようだ。

だがなんで時差が発生するかわからない。


「なんで時差? まさか海外にでも流れ着いたのか?」


俺は冗談半分で聞いてみる。

するとガルから思わぬ答えが帰ってきた。


「流れ着いてはいねぇが、ここは日本じゃねぇ。イギリスだ」

「…………は?」

「だからイギリスだから時差があるんだよ」

「…………マジ?」

「あぁ、本当だ」

「なんで?! イギリスってなんで?!」

「真、落ち着いて。騒いだって何も変わらないわ」

「あ、あぁ。でも、なんでイギリスに?」

「それは俺が説明する」


そう言うとガルは俺の見える所へ来る。

相変わらず目つきが悪い。


「俺は小夜をイギリスへ連れ戻す命令で日本へ行ったんだ。だがテメェが邪魔したせいで連れ戻すのは難しいと判断されたんだろう。転移魔法で周りの奴ら諸共連れ戻しやがった」

「俺のせいでって……いきなり襲われりゃあ反撃するだろ」

「最初の一撃で気絶する予定だったんだよ! テメェが魔法使いだなんて思わねぇだろ!」

「あぁ、そうだな……ところで気絶した場合は俺はどうなる予定だったんだ?」

「そのまま放置して置く予定だった」

「そんなん嫌だよ!」


気絶しなくてよかった。

そんな事になったら小夜と何も話せないまま別れてしまうだろうし。


「んで、小夜を連れ戻そうとした奴らは誰なんだ?」

「そいつは──」

「それは私が説明するわ。と、その前に小夜、お帰りなさい」


突然また別の声が聞こえた。

透き通るような綺麗な声だ。


「……お母さん?」

「えっ?」


俺は現れた人物を見つめる。


「えぇっ?!」


もう一度驚く。

ガルの隣に現れたその人。

その人は小夜の母、と言うより姉、と言ったほうがいい程に若かく、小夜とよく似ていた。

違うところは眼が黒い所と小夜と違ってスタイルがいい所だ。


「君が真君だね。ようこそ、イギリスへ」


その人は未だに膝枕されている俺に向かってそう言って微笑んだ。

その微笑みはやはりとても小夜と似ていた。


「もう……何が何だか分かんねぇや……」





俺はこの時全く分からなかった。

このイギリスで大変な思いも大切な想いに気付く事も。

そして自分の力について知ることも。



特に何もないですがとりあえず序章は終わりです。

次から舞台はイギリスへ!

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