(ア)イスの偉大なる種族
少し遅くなりましたすみません!
私も小夜ちゃんに癒してもらいたい……
俺は結局次の日はフラフラになりながら学校へ通う事になった。
予想以上に喧嘩で体力が消耗していた。
「あぁ……昼休み……最高……グゥ」
「ちょっと真大丈夫?」
「ごめん……少し寝させて」
小夜が心配そうに話しかけてくる。
結局海千流は今日学校を休んだので、同盟についての話はまだ進展していない。
「このまま……同じ学校に居られたらいいのに……」
俺は心の中でつぶやく。
何故か小夜とはもっと一緒にいたいと思った。
彼女のためなら何でもする気でいることが出来る。
それでも、それは彼女の為にはならないだろう。
彼女の本来の目的はこの街の魔法使い──すなわち海千流との同盟関係を結ぶ事なのだから。
小夜がそれを怠れば、小夜自身が色々と大変になってしまう。
それだけは嫌だった。
「まぁ、連絡先は交換したし……一応話すことは出来るのかな? あれ、でも携帯って国際電話できるのかな……国際電話って料金高そう……」
俺は自分の気持ちを少しでも紛らわすためにこれからも小夜と少しでも関係を保つ方法を考える。
国際電話……使ったことないから分かんないな。
「連絡先と言えば、小夜にクラスの奴に連絡先教えていいか聞いてねぇな」
昨日は色々とあって聞けなかった。
と言うか忘れていた。後で謝っとこう。
そんな考えを巡らせるうちにいよいよ眠気は強さを増し、意識を容赦なく乗っ取っていった。
目が覚めると既に昼休みは終わっていた。
「やべっ飯食ってねぇ!」
「真、これあげるわ。あまり無理しないで」
小夜はサンドイッチをくれた。わざわざ俺に買ってきてくれたのだろうか。
だとしたらもう有り難さで泣けてくる。
「ありがとう……助かった」
「いいのよ。それより早く食べた方がいいわ。先生来ちゃうわよ」
「そうだな、んじゃ遠慮なく」
俺は急いでサンドイッチを頬張る。
サンドイッチの具はカツだった。
カツサンドなんて贅沢な物を……
「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ。マジで死ぬとこだった」
「良かったわ。死ななくて」
「そうだな」
「えぇ」
そうやって微笑む小夜はやっぱりとても可愛いかった。
俺はその微笑む顔を見つめ、午後の授業へと臨んだ。
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「そういえば聞いた? 真と戦ったあの大男、なんとロシアまで飛んでたらしいわよ」
帰り道、小夜はそんな事を言ってきた。
ロシア? なんでそんな事が分かるのだろうか。
「なんでも雪男と間違えられてちょっとした騒ぎになったみたい。魔女狩りも言い訳が大変でしょうね」
「そいつは……なんか悪い事しちまったみたいだなぁ……」
俺はちょっと、本当にちょっとだけ反省する。
コントロールできたかは知らないが、せめて飛ばすならもっといい所に飛ばしてやればよかった。
アメリカの街とか。
「あら、敵に情けをかけるなんて……魔法使いらしからぬ思考ね」
「まぁ……な。相手にも色々あるだろうし」
「でも嫌いじゃないわ。そういえば真、『ぶっ飛ばす』とかはよく使うけど『殺す』っては言わないわよね」
「あぁ、そういえばそうかもしれないな。昔からこれはクセみたいなものなんだ。おかげでそこそこ印象はいいぜ」
『殺す』と言うのは本来簡単に使っていいような言葉ではない。
俺はそこは胸を張って言えると思う。
「優しいのね」
「ヘタレなだけかもな」
俺は笑う。
この甘さは命のやり取りでは致命的だ。
だから命のやり取りなんて物が起きないよう祈る。
「うーん、なんかお腹すいたわ。今日の夕飯は何の予定?」
「あ! やべぇそろそろ買い物行かねぇと切れる!」
「なら一緒に買い物に行きましょ?」
「あぁ、わかった。ついでに夜飯何がいいか決めようぜ」
「えぇ」
そう言って俺達はスーパーへ向かう。
このスーパーは家から少し歩いた場所にある、普通のスーパーだ。
街の方程ではないが品揃えはそこそこ良い。
食品はここでも十分揃うだろう。
「お、パン安い。やったぜラッキー」
「真、この前のオムライスでケチャップ沢山使ってなかった? まだのこりある?」
「なんでそんな事覚えてんだ……」
ボケの逆だろうか。
何日も前の飯覚えてるってそれはそれで色々と大変だろ……
「今日の夜飯……微妙な季節だけどうどんにするか」
「うどんなんて久しぶりに食べるわ」
「ならそれでいいか」
「やった!」
……うん、可愛い。
これで美味しそうに食べてくれるから作ったかいがある。
「…………」
「どうした小夜、何かあったか?」
「な、何でもないわ」
「……?」
俺は小夜の視線を追う。
するとそこには────
「……アイスかーい!」
「べ、別に見てるだけよ! この前食べたじゃん!」
「…………」
「…………ぅぅ」
「く、ははっ!」
「馬鹿!」
小夜は涙目になりながら睨んでくる。
俺ははいはいと手をひらひらさせながらアイスをカゴに入れる。
仕方が無いからカップの高いヤツを選んでやった。
「よーし、帰るか」
「……そうね、アイスが溶けちゃうわ」
「やっぱりアイス食いたいんじゃん!」
───アイスはやっぱり偉大だった。
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「そういえば小夜、勉強の方はどうだ?」
買い物の帰り道、俺は小夜に問いかける。
日本語ペラペラとはいえ、外国住みだ。
こちらとは勉強の方法も違うだろう。
「うん、大丈夫よ。日本語なんかはお母さんにも習ったし」
「へー、お母さんがか」
父親がイギリス人、という事は必然的に母親が日本人になる。
「私はお父さんとは色々とあるから……今回の家出も──」
「!? 小夜、下がってろ!!」
家出も、そう小夜が言いかけた時、俺は小夜から意識は離れていた。
「?! どうし……ッ!」
小夜も遅れて気づく。
俺達の目の前には複数の外套を深くかぶった人物が立っていた。
いつの間に?! 驚く俺は小夜の前で一瞬思考を停止してしまう。
その瞬間、その人物達はこちらを狙って『緑色』の光弾を放つ。
「クソッ!!」
俺は瞬時に魔法陣を形成、光弾に向けて刃を放つ。
光弾は刃と共に弾け飛んだ。
「真、大丈夫?!」
「あぁ、なんとか……でも相変わらずヤバそうだな」
どうやら人物は三人。
三人とも顔は良く見えないが、俺が魔法を使った事に驚いてるようだった。
「小夜! 頼む!」
「え、キャッ!?」
俺は小夜に買い物袋を後ろ手で投げると人物達との距離を詰める。
「うらあぁぁ!!」
真ん中の人物に狙いを定め、走る。
速度をそのまま蹴りの力へと移行させる。
人物は腕で防ごうとするが、俺は構わずにそのまま蹴り抜く。
そのまま足を回転させもう一人に蹴った人物を直撃させる。
「テメェ、何者だ?!」
残った一人が叫ぶ。
それはこっちのセリフだ。
「よく言うぜ全く、そっちこそ何モンだ?」
「テメェには教える理由はねぇ!」
「……チッ、めんどくせぇ奴!」
俺は駆け出す。
どうやらあの光弾は指から出るようだ。
人物は手を突き出し、光弾の弾幕を張る。
俺はその光弾に触れた瞬間に弾き飛ばされる。
体に電流が走るような痛みを感じる。いや、実際走っていたのかもしれない。
そのまま地面を転がり、その勢いで立上がる。
当たった肩を見るとなんと焦げていた。
「俺達は小夜に用事があるんだ! テメェみてーなどっから湧いたかも知らねぇ魔法使いなんぞに興味はねぇ!」
その人物は被っていた外套のフードを脱ぐ。
中からは目つきの悪い深緑色の髪をした俺と同年代くらいの青年が顔を出す。
「小夜…に…?」
俺は小夜の方を振り返る。
小夜は沈痛な顔をしてその人物を見つめていた。
俺はそんな表情がたまらなく嫌で───
「はっ!! 小夜と話したいなら俺を倒してから行きやがれ!」
──まさかこんなセリフをいう日が来るとは思わなかった。
俺はそのまま再び駆け出す。
「そんなに痛い目に遭いてぇかぁ!!」
弾幕が形成、それを俺は黒い刃で相殺する。
しかし、数は少ない。 俺はまた光弾に当たる。
「ッッてぇ!」
今度は踏みとどまる。
「真、待って! その人は───」
「何だ?!」
突然小夜から呼びかけられ、何事かと振り返る。
途端、光弾が殺到、今度こそ弾き飛ばされる。
「ッてええぇぇ!!」
「真、大丈夫?!」
小夜が駆け出してくる。
「小夜ァ! そんな奴に構うな!」
「バカ言わないでガル! 突然来てこんな事するなんて! 何しに来たのよ!」
……ガル? それがコイツの名前か。
俺は小夜から火傷を治療してもらう。
どうやらガルは攻撃を止めたようだった。
小夜が近くにいるからか?
「真、大丈夫?」
「あー死ぬかと思った……」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
小夜は思わず泣き出す。
倒れる格好になっていた俺はその涙を浴びる。
「…………」
「私が悪いの……ごめんなさい!」
「悪くなんか……ねぇさ」
「うぅっ………ごめんなさい! ごめんなさい!」
……雨のようだ。
それでも、雨と違って暖かい。
まるで小夜の暖かさが涙と共に流れていってしまう気がして俺は言い難い衝動に駆られる。
「ガル……お前か……小夜を泣かせたのはァ!!」
俺は起き上がると目の前の人物に向かって吠える。
許さねぇ、絶対に許さねぇ!
俺は足下、空中両方に魔法陣を展開。
三度、駆け出す。
「クソがよぉ!!」
弾幕、もうそれは見飽きた!
俺は上空へ跳躍、そのまま弾幕を飛び越える。
そのまま飛来する刃を足場に、空中を駆け回る。
「這いつくばって悔いやがれ緑野郎!」
「何だと!」
俺はガルの視界から外れた瞬間に襲いかかる。
全ての景色がゆっくり流れていくようだった。
───そんな中で俺は声を聞いた。
『待って、ゆっくりお茶でもしながら話し合いましょう?』
お茶?話し合い?何を……
そんな疑問が湧いた瞬間、俺は驚くべき光景を目にした。
───辺り一体が紫色の深い霧のような何かに包まれ、俺達はそのまま浮遊感に襲われ意識を失った。
霧が晴れるとそこには誰もいなくなっていた。
タイトルは無理があったか……




