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彩色の魔女  作者: 唄海
序章
17/115

喧嘩の決着

鈍い、しかし悪い響きではない打撃音が鳴り響く。


「…………」

「…………ふふっ」


拳はお互いの顔を捉えていた。

しかし────


「さっちゃん……負けたよ」

「あぁ、みっちゃん。俺の勝ちだ」


俺の拳は海千流より先に届いていた。

体格の差がここに来て出ていたのだ。


「はははっ、はははははははは!」

「あは、はははははははは! 」


海千流は笑いながら仰向けに倒れる。

俺もその場にすとんと座り込む。

二人ともボロボロだった。


「もう……超疲れた。顔いてぇし……」

「私も……疲れた」

「帰るか」

「……動けない」

「しょうがねぇな」


俺はそのまま立ち上がって海千流を背負う。

海千流は全体重を遠慮なく俺にかける。


「重い」

「うっさいバカ」

「ぐえぇ」

「ほら、とっとと歩け」

「クソが……」


俺はそのまま歩き出す。


「ごめんね、さっちゃん」

「ん? 何が?」

「ごめんね。 私、さっちゃんを……」

「……殺されるのはやっぱり勘弁だったな」

「ッ! ごめんね、ごめんね、ごめんね……」


海千流は泣き出した。

背中が涙で濡れてくる。でも、気持ち悪くはなかった。


「俺の方こそ……みっちゃんの気持ちも考えずに」

「さっちゃんは悪くないの! 私が弱かったから悪いの!」

「……」

「大好きだった、なんて言っても私は伝えられなかった臆病者だったの。 それなのにそれをさっちゃんのせいにして逃げて……」

「うん……」

「……でも喧嘩して、初めて喧嘩して思ったんだ。やっぱりさっちゃんは一番の友達だって」

「うん」

「だから……だからこそ言わなきゃいけないの。 …………さっちゃん、私はさっちゃんの事が大好き。 私と付き合ってください」


それは先程とは違い胸に響く淡い音色だった。

だからこそ俺は言わなければならない。

これからも後悔せずに過ごすために。


「ありがとうみっちゃん。 嬉しいよ。 でもごめん、俺はみっちゃんとは今のままでいたい」

「そう……ね。 あはは、振られちゃったなぁ」


海千流の声は晴れ晴れとしていた。


「でもさっちゃん、この気持ちは変わらないから。 たまにそれを思い出してくれるだけでもしてくれる?」

「あぁ……それくらいなら」

「ありがとう」


「……………みっちゃん?」


海千流は俺の背中で寝てしまった。


「ちくしょう、呑気なもんだなぁ」

「んぅ……さっちゃん……お腹減った……」

「お前起きてるだろ」

「んぅ……」


寝ていた。


「しゃーないか」


俺はそのまま帰り道を歩いていった。



─────────────────────────────





「真!」


小夜が道の反対側から物凄い速さで走ってきた。


「あぁ……小夜か」

「あぁ、じゃないわよバカ!」


めちゃくちゃ怒っていた。


「携帯落としてたわよ! 何やってるのよ! バカ!」


小夜はスマホを押し付ける。

どうやら気を失った時に落としていたらしい。

開いてみると小夜からの連絡が物凄い数で来ていた。


「しかもその顔どうしたのよ」

「そ、そんなに変か? 俺の顔」

「違うわよバカ! ボッコボコよ! 何があったのよ!」

「とりあえず落ち着こう?」

「はぁ……」


小夜は呆れたような顔になる。

言われてみれば顔が超痛い。あれだけ殴りあったのだからそりゃ痛いな。


「とりあえず説明してもらえる?」

「みっちゃんと喧嘩した、それだけだ」

「け、喧嘩……?」

「そう、殴り合いの。 ただちょっと魔法を使った」

「そう……」

「あ、あとなんか新技が出た」

「新技?」

「あぁ、なんか魔法陣から武器飛ばせた」

「何よそれ……聞いたこともない魔法ね」


まったくもって不思議な力だった。

聞いたこともない魔法? 俺は何でそれを使えたんだ?


「それにしても酷い顔よ。 ちょっと見せて」


小夜は顔を近づけてくる。

あ、なんかスゲーいい匂いがする。


「いってぇ……」

「少し待ってて」


小夜は俺の顔に手をかざす。

すると淡い青色の光が発せられ、痛みが引いてきた。


「おぉ?! すげぇなこれ!」

「これくらいなら簡単に治せるわ」

「あぁ、そうだそうだ。みっちゃんの方も頼む」


俺は背負っていた海千流を小夜の方へ向ける。

海千流はまだ寝ていた。


「海千流も酷い顔ね……真、女の子を殴っちゃダメよ」

「はい……わかってます……」


小夜は俺を怒った。

あぁ、なんだかお母さんみたいだなと俺は思った。


「終わったわ」

「おう、ありがとう」

「海千流はこれからどうするの?」

「とりあえずみっちゃんの家に送るよ」

「そう」


俺は海千流の家へと歩く。小夜も何も言わずについてきてくれた。


家へ行くと海千流の母親が出てきてくれた。


「あら真君。 こんにちはー」

「こんちわっす。 みっちゃんをお届けに参りました」

「海千流を? あら、ごめんなさいねわざわざ」

「いえ、大丈夫っす」


そう言って俺は海千流をあずける。

相変わらずよく寝ていた。


「海千流ったらこんなぐっすり……恥ずかしいわぁ」

「大丈夫っすよ。 軽かったんで」

「本当? あの子最近太った〜とか言ってるから」

「……太ってもみっちゃんなら背負いますよ」

「そう? ありがとう真君。 あ、夕ご飯食べた? 良かったらご馳走様するわ」

「いえ、じいちゃんもいるんで帰ります」

「そう、それじゃあまたね」

「はい、さよなら」


俺は海千流の母親と別れる。

小夜は家の外で待っていた。


「帰るか」

「えぇ、帰りましょう」


俺達は家に向かって歩き出す。

もう夜も深くなっていた。

時計を確認すると9時前だった。


「うわぁ……じいちゃん腹空かしてるだろうな」

「私も手伝うわ」

「それなら少しは早く作れそうだな。 てか明日も学校か……疲れたぜ」


そこで俺は気づく。

小夜は魔法使いを見つけてしまった。

それは小夜が帰ってしまう事だった。


「なぁ、小夜」

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

「?」


俺は小夜が帰ってしまうのが寂しかった。

だからあえて聞かないでおこう、と決めた。


「小夜が帰っちゃうなんて……」


そんな不思議な喪失感にも似た何かを感じながら俺達は家へと歩くのだった。







小夜ちゃんは天使

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