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彩色の魔女  作者: 唄海
序章
16/115

喧嘩

16話目です!

多分そろそろ本格的なバトルが始まるかと……

「ちくしょう! なんでみっちゃんが魔法について知ってんだよ!」

「なんでさっちゃんこそ知ってるのかな? 魔法」


俺は海千流と正面から対峙している。

周りには木や背の高い草しかない。完全に森の中へ入ってしまった。


「わかった、小夜ちゃんかぁ……あの子も魔法使いだったんだね……」

「どうしてだ! どうしてみっちゃんが魔法使いなんだ!」

「そんなの教える必要ないよ。 さっちゃんはここで私に殺されるの」


そう言って海千流は足元に魔法陣を展開、周囲から腕のような物が無数に伸びてくる。


「クソッ!」


俺はそれを後ろへ飛んで避ける。

一瞬遅れて今まで俺がいた場所へと無数の腕が殺到する。


「黄色は束縛と追跡……あの手、俺を捕まえる気か」

「へぇ、よく知ってるね。 私はこんな力なんて本当は使いたくなかったんだよ。 でも、さっちゃんがあまりにも鈍感で嘘つきだから……」


海千流は最早正気ではなかった。


「こんなのはわがままだってわかるよ。 でも、私はそれでもいい。 さっちゃんが私を見てくれないならその目は要らない。 さっちゃんが私よりあの子の話を聞くならその耳は要らない。 さっちゃんが私よりあの子と楽しく話すならその口は要らない」

「ッ!」


再び腕が殺到する。マズイ!さっきよりも数が多い!


「うらああぁ!」


俺は思い切り跳躍する。

体が遥か上空へと飛び上がり、眼下に森を映し出す。


「さっちゃん……まさか……魔法使いに」


海千流は虚ろな目で上空の真を見る。


「とりあえず……小夜に話さないと!」


俺はそのまま重力に従い落下、先程から離れた場所に着地する。

そのまま木々の間に身を隠す。


「繋がれ……頼む」


俺は携帯から小夜へと連絡をする。


「真? どうかした?」


すぐに小夜は出てくれた。助かった。


「小夜、聞いてくれ。 みっちゃんが……この街にいる魔法使いだった」

「海千流が?! どうしてそれが?」

「それは……」


俺は言葉に詰まる。

なんと説明したらいいか。

一から説明したら時間がかかってしまう。

それに───

「私、さっちゃんがずっと大好きだったのに!!」


先程の言葉が脳裏をよぎる。

そんな気持ちも考えずに俺は……


「悪い、時間がないから説明できない」

「時間がない? 真、何があったの?」

「みっちゃんから襲われてる」

「どこで?!」

「この前の廃墟の近くだ。 でも来ない方が……」

「みーつけた」


突然背後から声がかけられる。

気づいた時には無数の腕が四方八方から押し寄せていた。


「ちくしょう……俺の馬鹿野郎……」


そんな言葉を残して俺の意識は途切れた。



─────────────────────────────




「真───真!」

「?!」


突然誰かから呼ばれる。

しかし、目の前には暗闇が広がっているだけだった。


「真、君は悪くない」


声は俺を慰めているようだった。


「真はただこの街に来たばかりの女の子に優しくしていただけ」

「違う」

「ただ海千流さんがそれを勘違いして君は襲われたんだ。君は何も悪くないよ」

「違う」

「君は被害者なんだよ」

「違う!」

「君は何も悪くない」

「違う!! 俺はみっちゃんの事なんか考えてなかったんだ! 小夜は確かにこの街に来たばかりだ! でもそんなの関係ない! みっちゃんは俺を恨んだし憎んだ。俺がもっとちゃんとしてれば! 」


俺はそこにいる人物に言葉を吐き出す。


「俺はバカだ! 女の子を傷つけてそれに気づきもしねぇ! どうしようもねぇクズだ!」

「それじゃあもし、真が海千流の思いを知っていたら?」

「もっと上手くやれたかもしれないのに! もっとちゃんとできたかもしれないのに!」

「本当にそれでいいのかい?」

「誰も傷つかないじゃないか!」

「嘘つき」


また「嘘つき」か……

俺はわけのわからないイライラが湧いてくる。


「なんだよ嘘つきって! 何が嘘なんだよ!」

「君自身が傷つくだろ。 君は海千流さんとは仲がいい。 でも、それだけだろ。 君は───」

「俺は?」

「いや、これは言っちゃダメだね。 自分自身で見つけるんだ」

「ちくしょう! なんだよテメェ! いきなり現れてなんやかんや言いやがって!」

「おや、オレの事は忘れているのか。仕方ないね」


声の主はさして問題でもない、と言った感じだった。

忘れてる?

俺はこの声の主と会ったことがあるのだろうか。


「まぁいい。 真、君は海千流さんと話をするといい」

「どうやって? みっちゃんは話を聞いてくれるどころか俺を殺そうとしてるんだぜ」


意識を失う前に見た海千流の瞳。それは正気の人間の物ではなかった。


「何、簡単だよ。 真、君が勝てばいい」

「どうやってだよ。 あんな多くの腕、身体能力上げたところで対処できないぞ」

「海千流さんができたんだ。真もできるさ」

「クソ……ムチャクチャ言いやがって……」

「オレは何も出来ないからね。 真がやるしかないさ」


それと、と声の主は付け足す。

その言葉は俺の悩みを粉砕した。


「それからの展開はただの何でもない恋愛話だよ。 一途だった女の子がふられてしまう悲しいお話。 でも、それでいいんだよ。 海千流さんはこれからもずっと君と幼なじみで友達には変わらないんだからさ」


─────そこで真っ黒な暗闇は再び晴れていった。



─────────────────────────────


「うぅ……」

「起きた? 起きたね、さっちゃん」

「あぁ?」


俺は周りを見渡す。

見覚えがある。ここはあの廃墟の中だった。


「みっちゃん……つッ!?」


体が動かない。

ふと腕を見ると黄色い光を発するロープのような物で壁に貼り付けられていた。足も同様に床に貼り付いている。

俺は今壁によりかかっている状態で手足を固定している状態だった。


「はははっ、イイ格好だよさっちゃん」

「やったのはみっちゃんだろ」

「そうだったね。あっはっは!」

「ははは……」


外は暗い。

どうやら結構長く気を失っていたらしい。


「ねぇさっちゃん、取引しようよ」

「ん?取引?」

「私だけを見てくれるなら殺すのを許してあげるよ。 私だけと遊んで、私だけどお昼食べて、私だけと話して、私だけを家に泊めて、私だけとお風呂に入って、私だけを好きになって、私だけと寝て、私だけと過ごして、私だけと生きて、私だけと死ぬの」


海千流は相変わらず濁りきった目をしていた。


「なぁ、みっちゃん。謝りたいことがある」

「なにかな? 取引の答えを聞きたいんだけど」

「待ってくれ、その後聞きたいこともある。その答えでその取引の答えを決める」

「わかった。いいよ」

「まずはごめん。 本当にごめん、みっちゃん。 言い訳かもしれないけれど、みっちゃんが俺の事を好きなんて気づかなかったんだ。 そのせいでみっちゃんに辛い思いをさせてごめん」

「まぁ……気づかれたら恥ずかしいから気づかれないようにしていたんだけどね。それで?」

「これは完全に俺が悪かった。本当にごめん」

「しょうがないから許してあげる。で、質問は?」

「あぁ……」


俺は心の中で決める。

海千流を止める。そして今度は海千流も入れてみんなで遊ぶと。

そこには俺はいなくてもいいと。

でも────


「もし俺がここで断って死んで。その後はちゃんと小夜と仲良くやってくれるか?」

「嫌だよ」


海千流は即答する。

俺は心を、腹を決める。


「そうか、なら────断る!!」


「そう、なら───死ね!」


海千流が俺の首に手をかける。

息が止まる。

脳の血流が止まり頭がぼーっとしてくる。


「──真もできるさ」


そんな言葉が脳裏をよぎる。


「ガッ……アァッ!」


イメージする。力を込める。

海千流を止める。みんなで遊ぶ。

この拘束を外す。海千流を止める。

大好き。幼なじみ。

考えろ。もう後悔するな。

黒色。深淵。青色。黄色。

薄れゆく意識の中で様々な言葉が聞こえる。

最後に、青色のリボンを付けた少女の姿が思い浮かぶ。


「───!」


意識がハッキリする。

頭の中でエンジンに火がつく感覚がある。


「え?」


海千流の驚いた顔が見える。


「……へっ」


笑う。

その瞬間黒い魔法陣が周囲に展開する──


「俺もできる、か」


そう心の中でつぶやく。

魔法陣は黒い光を放つ。

すると中から黒い槍とも剣とも取れる黒い刃物が出てくる。

その黒い物は手足を貼り付ける黄色いロープ目掛けて飛翔、あっという間に拘束を解く。

俺はその自由になった手で首についた手を引き剥がすとそのまま海千流を放り投げる。


「ゲッホゲッホ! あぁ……死ぬかと思った」

「そのまま……死ねばよかったのに」


海千流は憎しみの目で見てくる。

ここでは動きにくい、外に出なければ。

ふと、積んである袋を見つける。


「喰らえ!」


俺は袋に向かって手を突き出す。

と、浮遊している黒い物が袋を刺突、周囲が真っ白になる。


「さすが石灰!」


俺はそう叫ぶと窓を蹴破って外に飛び出す。


「待て!」


海千流も飛び出してくる。

俺達は広場で対峙する形になる。


「そういえばみっちゃん、俺達喧嘩したことなかったよな」

「そういえばそうだね」

「してみるか、喧嘩!」

「あっはっは! 馬鹿じゃないの!」

「今更何を! 俺は馬鹿だぜ!」


海千流が魔法陣を展開、更に先程より多くの手をこちらへ飛ばしてくる。


「行けぇぇー!」


俺も負けじと手を突き出す。

黒い刃物が飛んでいく。手に突き刺さると手と刃物が同時に消失する。


「死ねええぇぇぇ!」

「うらあぁぁぁ!」


四方八方から手が押し寄せる。

それを目視、把握して迎撃する。

どうやらこの黒い刃物のような物は俺の足元の魔法陣から飛び出して来るようだ。


「いい加減に死ね!」


海千流はそう叫ぶと視界を埋め尽くすほどの手を展開、全方位から俺を潰そうと急襲する。

俺は先程のように上空へ跳躍、そのまま空中へ魔法陣を複数展開する。


「見せてやるぜ! 黒色の力を!」


そのまま刃物を掃射、下方の手を消し飛ばし着地する。


「みっちゃん、俺はみっちゃんは一番の友達だと思ってる!」

「そう! でも私はさっちゃんの事大好きなの!」

「俺は幼なじみのままがいい!」

「私だけを見てよ!」

「そいつは荷が重いぜ!」

「ふざけんなぁ!」


そのまま俺と海千流は距離を詰めて殴り合う。

殴り合う喧嘩どころか口喧嘩すらしなかった仲だ。


「いってぇ!」

「私だって痛いよ!」

「うゴッ!」

「ガはッ!」


男も女も関係なかった。

ただ友達と殴り合って喧嘩。

本当にただの喧嘩だった。


「俺が勝ったらみっちゃんは小夜と仲良くしてもらうからな!」

「私が勝ったらさっちゃんは殺すから!」

「死んでたまるかよ!」

「死ね!」


殴り合う。殴り続ける。


「はぁっ! はぁっ!」

「あははははは!」

「何笑ってやがる!」

「だってさっちゃん喧嘩弱いんだもん!」

「まだ本気じゃねえぜ!」

「私だって!」


肩で息をしながら殴り合う。

もう魔法陣は消えていた。

二人とも気持ちだけで殴り合っている。


「このクソがァ! いい加減倒れやがれぇ!」

「さっちゃんこそ! フラフラだよ!」

「みっちゃんだって!」

「うるさい!」

「スキあり!」

「この!」


いつしか二人は笑顔になっていた。

海千流の目もいつもに戻っている。


「っあぁ! あぁ! ぁあ!」

「はぁっ! はぁ! っは!」



「─行くぜみっちゃん!」


「─行くよさっちゃん!」



───そうして笑う二人は最後の拳を繰り出した。






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