表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彩色の魔女  作者: 唄海
序章
15/115

大切な人

15話目です。

よろしくお願いします!

「はぁっ! はぁっ! はぁっ……」


俺はひたすら走る。何処にかはわからない。


「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」


悔やむ。ただ悔やむ。

後悔、後悔、後悔。

ただ後悔する。


「クソ! クソ! クソ! クソッ!」


分からない。解らない。判らない。

でも一つだけわかる。


「俺の……俺のバカ野郎がぁ!!!」


俺が悪い。俺が、悪い。

知らなかったでは済まない。済まされない。


「はぁっ!……はぁっ! っ!」


呼吸が止まる。

そこにいたのは人だった。

暗い、暗い光を目に灯した人物。


「ねぇ、さっちゃん……」

「っ! はぁっ! はぁっ……」

「死ね」

「───ッ!」


目の前の人物は暗い瞳で俺を見つめ、そう告げた。

──深く、深く、深淵のような声で。




─────────────────────────────




──時は遡ること数時間前。


「小夜、俺はちょっと用事があるから先帰ってくれ」


俺は放課後、小夜を先に帰らせる。

小夜は来る時祖父に送ってもらったらしい。

俺は祖父に連絡して小夜を送らせる。


「あら……そう……」


なぜか小夜は残念そうな顔になる。


「一緒に帰れると思ったんだけど……」

「あぁ、ごめん。明日は一緒に帰ろう」

「約束よ」

「約束する」


俺達はそうして別れた。


「さっちゃん、準備OK?」

「あぁ、大丈夫」


小夜がいなくなると海千流が晴れやかな笑顔でやって来た。

あれ、もしかして小夜と海千流って仲悪い……?

女子特有の上っ面のお友達とかいう奴だろうか。

いや、海千流に限って……しかも今日会ったばかりなのに。


「んで、どこ行こうか」

「とりあえず街の方行こうよ。 アイスとか服買いに!」

「おう……ん?」


俺はなにか引っかかった。

まぁ、大したことではなかろう。


「ねぇ、さっちゃん」

「ん?」

「服選びとかしてくれる?」

「断る」

「……バカ」


やっぱり今日は罵倒しかされねぇ!

俺は内心で叫びながら歩き出す。

学校から駅までは大した距離じゃない。

俺達はなんでもない会話をしながら歩く。


「それにしてもさっちゃん……なんかあった?」

「んあ? なんかって?」

「いや、なんか少しだけど男っぽくなったと言うか」

「なんじゃそりゃ……」


何か変な事を言い出す海千流だった。

まぁ、この前の休日で少し肝が鍛えられた気もするが。


「男子三日会わざれば刮目して見よ、男は成長するもんだぜ」

「そう……だよね。やっぱり女は置いてかれるのね……」

「なんだよいきなり……みっちゃんはまだ女って歳じゃ」

「あ?」

「いえ、何でもないっす」


海千流から無言の圧力がかかる。

今日はとことんおかしかった。一体何があったんだろうか。


「さて、乗ろう」

「あいよ」


電車は街へ向けて走り出す。


街へ着くと俺達はショッピングモールへと向かう。


「まさかこんな連続でここに来るなんて……」

「……」


海千流は無言だった。


「さっちゃんは……やっぱり小夜ちゃんの事が好きなの?」

「うぇ?! 何でそんな事を?!」

「だって、小夜ちゃんと話してる時凄く楽しそうだから」

「いや、違うぞ……」


俺は否定する。なぜか何とも言えない気持ちになった。


「そう」

「あぁ」


俺達はそのままショッピングモール内をうろうろする。

本当に特に行くあてもなくうろうろした。


「帰ろっか」

「そうだな、帰るか」


外に出ると西の空がすこし赤みがかって来た。

電車はすぐに来た。

俺達は乗り込むと席に座る。


「ねぇ、さっちゃん。私……」

「ん?」

「いや、何でもないよ」

「みっちゃん今日はとことん変だな」

「そう……多分、何も無いよ」

「そうか、何かあるなら相談に乗るから」

「いいよ、別に……」


それっきり海千流は黙ってしまった。


「……降りるか」

「……うん」


電車を降りる。

先程よりも少し暗くなっている。


「んじゃ、また明日」

「もう、帰っちゃうんだ」

「あぁ、小夜も待ってるだろうし」

「ッ……」


海千流は悲痛な顔を浮かべる。

俺は何か引っかかっていた。

──でも、それは後になってみれば見当違いだったんだ。


「あ、ごめん……」

「ううん、いいの」

「もしかしてみっちゃん、小夜と何かあったのか?」

「何も無いわ。 何も無いのよ……本当に……」

「そうか、良かった。 小夜は来たばっかりだから何かあるかもしれないけど仲良くしてやってくれ。いい子だから。」

「知ってるわよ!!」


突然海千流が叫び出す。

彼女はこんな突然叫び出す様な人では無いはずだ。


「!?」

「……ごめん」

「あ、あぁ」

「ねぇ、さっちゃん。やっぱり少し歩かない? もう少しだけ、遊ぼうよ」


海千流は少し暗い瞳で俺を見てくる。

今日の海千流はやっぱりおかしい。

俺はそれが気になった。なぜ彼女はそんなにも俺が小夜の事を話すと嫌がるのだろう。

俺はいつの間にか冷や汗をかいていた。


「わかった。もう少しだけ歩こうか」


俺は海千流を刺激しないようにと彼女の要求を受ける。

それを聞くと海千流は無言で歩き出す。

俺はそれに慌てて付いていく。


「どこいくんだ?」

「……」

「ちょ……」

「……」


俺、本当に何かしたっけ……?

そうやって記憶をたどるが心当たりは何一つ無い。

そうやっているといつの間にか見た事のある場所につく。

それはこの間大男と戦った事のある廃墟だった。

そこを海千流は地面を見つめながら歩いている。


「ここは…… なんでみっちゃんがここを知っているんだ?」

「知らないわよ。 ただ歩いたらここに来た」


海千流はやっと口を聞いてくれた。

そして先程よりも暗くなった目で見つめ────


「ところでさっちゃん。 なんでここを知ってるの?」

「なんでって……前に来たことがあるからだろ」


海千流は俺の廃墟巡りについては知っている。

他の人には俺は秘密にしてある。けれども海千流には教えていた事だった。

中学校時代は何回か付いてきたこともあった。


「そう……まだこういう所に行くのが好きなんだ」

「まぁな……恥ずかしながら」

「別に恥ずかしくなんかないと思うよ。それに、恥ずかしい事を私には教えてくれたじゃない。それは嬉しかったんだよ」

「まぁ、みっちゃんにしか教えてないしな」

「本当に?」

「どうして嘘つく必要がある? 本当にみっちゃんだけに──」


「嘘つき」


海千流は突然低い声で吐き捨てるように言う。

その目はどす黒く濁っていた。


「な……本当に」

「それじゃあなんでここには──足跡が二つあったの?」

「二つ?」

「さっき通った道だよ。 一つはさっちゃんのかもしれない。けれどももう一つは誰? こんな場所、普通の人は来ないはずだよ?」

「そ、それは……」


俺は答えることが出来ない。

この事を話せば海千流は魔法について知ってしまう。


「やっぱり嘘だったんだね」

「違うって、これは」

「もういいよ、もういいんだよ」


そう言って海千流は背を向ける。


「さっちゃんは私よりも大切な人ができたじゃない」

「大切な人?」

「……嘘つき」

「いやだから」

「ならなんで足跡が二つある事は話せないの?」

「知らねぇよ! 誰か来たんだろ!」

「嘘つき!」


海千流は金切り声を上げる。


「嘘つき、嘘つき、嘘つき。 さっちゃんの嘘つき!」

「ッ……」

「どうして私に言えないの?! 私はいつでもさっちゃんの事を考えてたんだよ?! なのにさっちゃんは私なんか気にせずに来たばっかりのあの子を大切にして!」


海千流は振り向いて狂ったように叫び出す。


「わがままだって知っている……でもあんまりだよ! ずっとずっと一緒だったのに……私、さっちゃんがずっと大好きだったのに!!」


それは突然の告白だった。

普通ならここで男はときめくだろう。普通ならば。

でも、目の前の海千流は明らかに普通ではなかった。


「どうせここにもあの子と来たんでしょ?! さっちゃんの秘密を教えて!」

「ち、ちが」

「嘘つき! ならどうして説明できないの!」

「それは……」

「それに私知ってるんだよ? 日曜日さっちゃんがあの子と買い物に行ってたのを! 見たんだよ! あの子とアイス食べたりあの子に服を選んでいたのを!」

「!! まさかみっちゃん……あの時」

「うん、あの時駅にいたのは私だよ。 私は泊めてくれないのにあの子を泊めて、買い物に行って。 しかも私より優しくして!」


俺はあの時の悪寒に襲われる。

ちくしょう、なんで気付けなかったんだ。


「誰を好きになろうとさっちゃんの勝手なのはわかるよ! でも、あんまりだよ! あそこまで大切な人と他の人に態度がちがうなんて!!」


俺は後悔する。海千流とは長い付き合いのせいか、大抵の事は許してもらえるだろうという態度で接していた。

海千流はこれが嬉しくも悲しくもあったのだろう。

それに、好きな人になら尚更だ。


「さっちゃん、あの子と私はどっちが大切なの?」


海千流は突然そんな質問を投げかける。

当然海千流だ、その答えはなぜか出なかった。

出せば海千流を傷つけてしまうから?違う、それは──


「やっぱり……ね。あは、はは、あはははは!」


海千流は笑い出す。

その目はもはや何も映していなかった。

そして─────


「いいよ、さっちゃんが別に誰を好きになろうと。 でも私はさっちゃんが好きなの。 だから──私の秘密を教えてあげる」

「何を……?!」



───俺は目の前の光景に目を疑う。

そしてそれを見た瞬間逃げ出していた。


だって海千流の足元には、『黄色』い魔法陣が浮かび上がっていたのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ