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彩色の魔女  作者: 唄海
3章 第零種永久機関
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真の事

「ごめんね。急にこんなこと言って。どうしても、さっちゃんには聞かれたくない事があって」

「大丈夫。真はきっと、分かってくれてるわ」

「だといいんだけど⋯⋯」

「それで、話っていうのは?」

「⋯⋯⋯⋯お願いがあるの」


 海千流は大きなため息をついて俯く。


「私も、魔法使いに入れて欲しい。さっちゃんと一緒に」

「それは⋯⋯真がきっと許さないわ」

「だろうなぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」


 ガックリと肩を落として項垂れる海千流。


「海千流が傷つくと知ったら、真は絶対に反対するわ。真はそう言う人よ」

「そういう無駄にお人好しな所は、昔っから何一つ変わってないのになぁ⋯⋯どうして、遠くに行っちゃったのかな、さっちゃん」

「遠くに? 真、どこかへ行っちゃうの?」

「うん。私の手の届かない場所に。たった一つの自分の大切なものの為に」

「⋯⋯⋯⋯海千流、それって」

「そ。私は振られちゃったの。そして、他の誰かが選ばれた。それだけ」


 寂しそうに、海千流は窓の外を見る。愛しの人は今、適当にそのへんをほっつき歩いてるのだろう。それが何故か、たまらなく切ない。


「さっちゃんはずっと、誰かの為になりたいと生きてきたの。困った人が助けてと叫べば、絶対に見捨てずに手を差し伸ばして助ける。そのくせ自分が辛い時は黙ってどっかに行っちゃって、勝手に一人で傷ついて。誰よりも天然の女たらしで、行く先々で友達が出来て」

「⋯⋯そんな真が、海千流は好きだったの?」

「そ。物心ついた時からずっと、ね。気づかなかったけど、さっちゃんがいなくなっちゃうと思うといてもたってもいられなくて。そこで初めて、さっちゃんが好きだったって気づいたの」


 幼い時から追ってきた背中。ずっと見えていたその背中が見えなくなった時、海千流は初めて黒峯真という人間を失いたくないと思った。

 失う事なんて考えてなかった。いつも、いつまでも一緒に居てくれると思っていた。好きだとか嫌いだとかなんて考えず、当たり前に居てくれると思っていた。


「さっちゃんは変わった。誰かの為にでは無く、ただ一人の為にと世界を見ている。その世界にもう、私はいないの」

「そんな事は無いわ。真はずっと、海千流と一緒にいるわ。だって二人とも、誰よりも仲がいいもの」

「そういう問題じゃないんだけどね⋯⋯うん、でもまぁ周りからはそう見えちゃうのか。んふふふ」


 確かに仲はいい。ゲロったって躊躇なく助け合えるくらいの仲だ。でもそれは友情であって、好意じゃない。友情と好意が似ているが絶対に交わらない物であるのが歯がゆい。


「私じゃダメなのかな。どうしてさっちゃんは、私を好きになってくれないのかな。何が悪かったの?」

「それは⋯⋯」


 理由なんて無い。ただ、黒峯真という男が海千流を選ばなかった。それだけ、ただそれだけの話だ。


「それは私にも分からない。でも海千流、真はきっと海千流の事は大好きよ」

「うん。私も、さっちゃんの事大好き。自分の物にしたいし、ずっと隣にいて欲しい」

「その思いはちゃんと言うべきよ。魔法使いになるのは反対だけど、真の為に海千流がどうしたいかは伝えるべきよ」

「でも⋯⋯なんて言うのかな。はっきり言っちゃったら、それこそ真が遠くへ行ってしまいそうで」


 叶わないのは承知の上だ。でも、それ以上に彼が日常から変わって消えてしまいそうな気がする。

 だから海千流は、同じ非日常である魔法の世界に一緒に行こうとしていた。


「もしかしたら真、私の事嫌いなのかな。だから、連れて行ってくれないのかな⋯⋯私はもしかしたら足でまといなのかもしれないけど、一緒にいて支えてあげる事も出来ないのかな⋯⋯」

「真は⋯⋯⋯⋯」


 そんな事は思っていない。そんな事は小夜でも分かっている。でも、それを海千流の前で口にはできない。誰よりも一緒にいた海千流の前で、そんな分かりきったような事は言えない。


「私は、真とたまたま出会っただけだから。海千流より真の事は知らない。真が昔どんなふうな人だったかも、真の変わらないところも。でも、そんな私でも真の優しさは沢山知ってる。誰にでも真剣に向き合う真の強さは、良くわかる」


 小夜は言い切ってから、真のいれてくれた紅茶に口をつける。勉強するって言うのに、眠くなりそうな優しい味の紅茶だ。彼らしい。


「⋯⋯私も、真には助けられた。無関係な大事な人を巻き込んで、自己嫌悪と罪悪感で押し潰されそうになった。でも、真はそんな私を怒らず許してくれた。一番辛くて痛かったのは、きっと真のはずだったのに」


 あの夜、真が普段からは想像出来ないほど怒った。あの時の怒りは、自分の為ではなく他人の為にだ。

 あんなふうに他人を自分の事のように思ってくれる人間は、本当の意味ではいない。


「さっちゃんは、他人の痛みが自分の事のように思えてしまうからね。友達でも、下手すると一度喋っただけの人でも。あ、そうだ⋯⋯そう言えば昔⋯⋯」


 海千流もカップに口をつけて、昔を思い出す目でゆっくりと語る。


「小学校の頃だったかな。友達が上級生にいじめられたの。そしたらさっちゃん、一人で教室に飛び込んでって。さっちゃん、思ってから行動するまでは早いから」

「大丈夫だったのそれ⋯⋯?」

「それが、帰ってくる時には上級生と肩組んで笑って帰ってきたの。どっちも顔はボコボコだったけど。なんかその後は、流行ってたゲーム一緒にするくらい仲良くなった」

「えぇ⋯⋯」


 一体どんな会話を繰り広げたのだろう。真は見た感じ腕っ節は強くなさそうだけれど、大丈夫だったんだろうか。


「自分が正しいんじゃない。自分が信じる人達を自分の意思で守るのが正しいんだって、ちょっと痛い時期のさっちゃんが言ってた。言い回しはアレだったけど、まぁさっちゃんらしいかなって」

「痛い時期⋯⋯?」

「いやー、中学生の時のさっちゃんは一番暴れていたかもしれないね。桐山と倉﨑と組んだのも中学生なんだけど、教師のセクハラ問題があってね。あん時は『全面戦争だっ!』って言って学校中巻き込んで大波乱だったよ」

「て、停学とかはならなかったの?」

「なりかけた。でも、何とかなる前に教師のセクハラが公表されて勝った。それに、学校中の人間がさっちゃんの事は知ってたからね。停学になったらむしろ、もっと反発が起きてたんじゃないかな」

「信頼されていたのね。真は」

「そ。多分あの時のさっちゃんは、停学ごときじゃ止まらない勢いだった。猪みたいにね」


 くすくすと思い出し笑いをする海千流。聞いてて微笑ましくも、今の真と変わりない姿を容易に想像出来る。そうか、真はそうやって他人の為に昔から戦ってきたんだ。


「だから。だからね、小夜。私は、真の為に戦いたい。ずっと私の前に出ていた真を、今度は隣で一緒に」

「海千流⋯⋯」


 どう答えたらいいのだろう。ここまで言われて否定するのも海千流に悪い。でも、良いとも言えない。海千流の気持ちは痛いほど分かる。けど、やっぱり真の気持ちも分かる。大切な人を傷つけたくない、巻き込みたくないという気持ちが。


「やっぱり、海千流とお兄ちゃんに話し合って決めてもらうしかないんじゃないですかねぇ。あのチキンがキッパリと判断を下せるのかは別として」

「サリィ?! 真について行ったんじゃなかったの?」

「お兄ちゃんが出てったのと入れ替わりでいましたよ」

「海千流は気づいてた?」

「全然。でもまぁ、妹だしいんじゃない?」

「妹⋯⋯あ、妹か。うん、そう言えばそうだったわね」

「はい、立派な兄ラブ勢の妹です」


 危ない。危うくサリィの正体が露見してしまう所だった。


「海千流がお兄ちゃんに理由もちゃんと話して頼んで、その上でちゃんとお兄ちゃんが理由も話して断れたなら諦めましょう。お兄ちゃんの頑固さなら、海千流が一番分かってるはずですから。もしそうじゃない時は、小夜。あなたは一人の魔法使いとして、海千流と改めて同盟を交わしましょう」

「分かった。じゃあ私は、先に2階で大人しくしてるわ。海千流、答えが出たら教えて」

「うん⋯⋯ありがとう、小夜」


 小夜とサリィは、2階へと上がる。その背中を見送った後、海千流はスマホを起動してお気に入り登録した真の連絡先にメッセージを送る。


「さて、なんて伝えたらいいかね⋯⋯まぁ、さっちゃんの事だから⋯⋯」


 ストレートに伝えるか! と、意気込んでみた海千流だった。

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