心と電車の行き先は
11話です!
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電車は休日にしては珍しく空いていた。
俺と小夜は空いている席に腰掛ける。
俺はそのまま駅で見た人物について考える。アイツは一体なんなのか。本当に俺達を狙っている奴らなのか。正直恐ろしくて仕方なかった。
そうして黙り込んでいると小夜は心配そうに話しかけてきた。
「真、いきなり黙り込んでどうしたのよ? 何かあった?」
「あぁいや、あの駅にいた奴について考えてたんだ。アイツは本当に俺達を狙っているのかってさ」
「さっきの人ね。まぁ、間違いなく私達を見ていたのは確かね」
「やっぱりかよ……ちくしょう、せっかくの休日だってのになんだってこんなに思いしなきゃならねぇんだ」
オレはふつふつと怒りが湧いてきた。
「そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ。いざとなったら私が真を守ってあげるから」
顔に出てたのだろう、小夜は俺の顔を見つめながらそんなことを言ってきた。
その言葉に俺はキョトンとなり、その後に恥ずかしさが遅れてやってきた。
「べ、別に女の子に守ってもらう程心配してないし! 逆に小夜を守るくらい出来るし!」
俺は慌てて強がる。正直、駅にいた奴から感じた恐怖より今は恥ずかしさの方が強かった。女の子に守るなんて言われたら男としては断っておかねばなるまい。
「そう、なら本当に何かあった時は守ってね?」
そんな恥ずかしさから出た言葉を小夜は意地悪そうに微笑むながら受け取る。勢いで言ってしまったとはいえ女の子に守ると言ったんだ。今更取り消すのも気まずい。
「へっ! 任せろ!」
俺は笑顔でそう答える。女の子を守るなんて男としてはなかなか名誉な事だ。
「ふふっ、ありがとう。期待してるわね」
小夜は満足したような表情で微笑む。
俺はそれきり駅にいた人物の事は考えなかった。後はこれからの買い物について考える。
「とりあえずあそこならショッピングモールに行くのが妥当か」
あのショッピングモールとはみんなも知ってるあのショッピングモールだ。映画館なんかも入ってるくらいだから服屋くらい何個かあるだろう。
「そうだ、真に服を選んでもらおうかしらね」
「は?! ちょっ、え?! 何言ってんの?!」
突然とんでもない言葉が小夜から飛び出してきた。
なぜそんな危ない橋を渡ろうとするのかわからない。まさか俺は服のセンスがあるように見えるのだろうか。
「冗談だけど……どうしてそんなに驚くのよ?」
「冗談かよ! 本気でビビったわ!」
「それじゃあ冗談じゃなかったらどうするの?」
そんな事は俺には荷が重すぎる。
本気で彼女の服を選ぶとなるとかなりのプレッシャーだろう。普通の女の子の服を選んでやった事すらないのに、いきなりこんな可愛い女の子の服を選ぶのだから。
「多分選べないと思います……」
「そう、残念だわ」
「どうして?」
「……教えない」
彼女は初めて拗ねたようにプイっと顔を背ける。俺、何か悪い事したっけか……
でも、小夜は徐々に俺に対して色々な感情を見せてきてくれている。それは少し嬉しかった。
そんな事をしているうちに電車はかなり街の方へ来ていた。
周りにはビルやデパート、ショッピングモールなどがずらりと並んでいる。
「着いたぜ、降りよう」
「……うん」
小夜はまだ少し不機嫌そうだった。本当にどうしたのだろうか。
「俺、何か悪いことしたっけ……?」
「いいえ、違うわ。大丈夫よ、ちゃんと自分でも分かっているから」
正直俺は何についてか全くわからなかった。なので小夜が自分で解決するまで待つことにした。
「まぁ、とりあえずその話は置いといて、案内するよ。服屋行きたいんだろ?」
「そうね、お願いするわ」
小夜はいつもの調子に戻ると俺の隣を歩き出す。
電車は空いていたが、街の方は人が溢れていた。
「それにしても今日は少し暑いな」
「そうね、まだ夏になってないのに……」
今はまだ春の終わり頃だ。半袖では本来まだ肌寒い。
それでも人とコンクリートが多い街の方は俺の家の方より暑い。
「とっとと店行って涼もう! 暑い!」
「同感だわ」
俺達は早足にショッピングモールへと急ぐ。
ショッピングモールの中は幾分外より涼しかった。
と、中に入るなり見知った顔に出会う。
「あれ?! 珍しいな、真がこっち方面来るなんて!」
「ホントだホントだ、いつも「行っても面白いものなんかねぇから行かない」とか言って誘っても来ないのに!」
「あれじゃねーか?! なんか今やってるアニメの映画見に来たんじゃねーの?!」
「あぁ、あのツンデレとヤンデレしかいないヤツか!」
───この騒がしい2人はクラスメイトの倉﨑と桐山だ。倉﨑の﨑は崎ではないので注意しなければならない所だ。(大の所が立になっている)
倉﨑も桐山もアホで有名な奴らだった。確かこの前は授業で使う電子辞書を改造してゲーム機にしようと目論んで教師に見つかっていた。俺もその仲間だが。
と言うかそもそもうちのクラスの男子は脳味噌が小学生で止まってるような奴らばかりだった。この二人や俺に限ったことではない。
「いや、服買いに来たんだ。映画はもう上映開始した日に見に行ったしよ」
「服ぅ……? お前、服は同じような黒いやつしか持ってないじゃん」
「そうだよそうだよ、「とりあえず黒けりゃいい」って前言ってたじゃん」
「あ、いや……俺じゃなくてだな……」
そこで俺は隣に立って俺達のやりとりを楽しそうに見ている少女に視線を変更する。つられて二人も視線を少女に向ける。
「……」
「……」
「……」
「……?」
三人の視線を集めている少女は不思議そうに首を傾げる。その仕草はやはりとても可愛いものだった。
と、俺は突然二人から引っ張られ、小夜から少し離れたところに連れていかれる。
「真、これはどーゆーことかな?」
「女の子とデートなんていい身分してるねぇ……」
二人は恨めしそうな視線で俺を見てくる。待て、何か小夜と俺の関係を誤解しているぞ。
「いやいや! 別にそんな感じじゃねぇよ! てかあの子とは昨日出会ったばっかりだし」
「なんで昨日出会ったばかりの子と買い物にくる様な関係になってんだよお前は!」
「それにお前海千流はどうしたんだよ! 大体いっつも話してるじゃん!」
「みっちゃんは仲いいだけで別にそういう関係じゃねぇ!」
「てかあの子お前の服着てるじゃねぇか! なんだそのなんか青春っぽいの!」
「変態だ……女の子に自分の服を着せる変態がいる」
「だから服買いに来たんだっつってんだろうが! 人の話を少しは聞け!」
俺は二人に拳骨を喰らわせる。魔法の効果でもしかしたら強くなってるかもしれんがそれくらいで丁度いいだろう。
「あの子はこの街に人を探しに来たの! それで着替えを持ってきてないから買いに来たの! 分かったか?!」
「なんでそれでお前といるんだよ! 親戚の子とかじゃないだろ? 親戚の子だったら少しは似てるはずだ!」
「あの子は手違いで宿が取れなくて困ってたからウチに泊めてんの!」
「え、もうそこまで行ってんのか……」
「変態だ……女の子を家に連れ込む変態がいる」
ダメだこいつ等。全く話が通じない。
「とりあえず明日ちゃんと説明するから戻っていいか? さすがに待たせると悪いし」
俺は小夜の様子をうかがう。小夜は心配そうにこちらを見ていた。
「しょーがねーな、女の子待たせるのは悪いし」
「そのかわりちゃんと明日話してもらうからな!」
「おう、また明日」
そう言って俺は二人と別れると小夜の元へ戻る。
「待たせてしまって悪かった。 お詫びにアイスでも食おうぜ。奢るから」
そう言って俺はアイス屋の方を指さす。話していたら余計暑くなっていた。
「アイス! いいわね!」
彼女は目を輝かせて食いつく。うわ、超可愛い。
「んじゃ行こうぜ、アイス屋」
「やったぁ!」
こうして俺と小夜はアイス屋でアイスを買って食べた。ちなみに小夜は遠慮なく高いのを頼んだ。でも、楽しかったからいいとしよう。
そう俺は思った。
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「どの服がいいかしらね?」
そう小夜は俺に聞いてくる。
あの後俺達はアイス屋を出て、服屋へと来た。
俺はてっきり小夜一人で服を買うのかと思っていた。なのに小夜は「ついてきてくれないとさっきの二人にあることないこと話しちゃう」的な脅しを受けたので泣く泣く付き合うことになった。
あれ、小夜少しキャラ変わってね?
「ねぇ真聞いてる?」
「あー、うん。聞いてる」
「これとこれどっちがいいと思う?」
「こっち」
俺は適当に答える。正直小夜はどんな服でも似合っているから選ぶ必要なんて無いのだが。
「真はどんな服が好きなの?」
「俺の趣味聞いても意味ねーだろ……」
「あの二人に」
「どちらかと言うとふわっとした感じが好みです!」
「そう」
終始こんな感じで買い物を進めていく。助けて欲しい。
「服はこんな感じでいいかしらね。あとは下着を買わないと」
「下着の店はあっち。俺は行かんぞ」
「あの二人」
「それだけは脅されても無理! 帰りまたアイス屋寄ってもいいからそれだけは許して!」
「アイスならいいわ。それじゃまた後で」
そう言って小夜は下着を見に行く。どうやらアイスはかなり有効な手段のようだ。
「あ、小夜。連絡先教えてよ。何かあったら連絡できた方がいいから」
「そういえばまだ交換してなかったわね」
こうして俺達は連絡先を交換して一旦別れる。
「あーそうだ。ラノベ新刊入ってるかもしれんから本屋行こ」
俺は本屋で時間を潰す。残念ながら新刊は品切れだった。後でネットで頼もう。
まだ小夜から連絡はない。俺はぶらぶらとショッピングモール内をうろつく。ふと、アクセサリーショップに置いてある青いリボンが目に入る。小夜の眼とよく似た綺麗な青色だった。
「……」
俺はふと立ち止まり考える。そういえば小夜の髪は背中のあたりでまとめていた。
「まぁ、服ちゃんと選んでやれなかったし」
そう言って俺はリボンを買う。なんでそんな事をしたかはよく分からなかった。言葉通りさっきの服選びを適当にしてしまったからだろうか。
店を出ると小夜から連絡があった。どうやら買い物は終わったらしい。
「最初に寄ったアイス屋さんで待ち合わせましょ」
そう言うと小夜は電話を切る。早くアイスが食べたいらしい。
俺は急ぎ足でアイス屋へ向かう。その足取りは不思議ととても軽やかだった。
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アイス屋でたらふくアイスを食べた後、俺達は再び電車で家へと向かっていた。
電車に乗った途端、外出の疲れからか眠ってしまう。
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「真、起きて。もうすぐ着くわ」
「ん、あぁ。ごめん、寝てた」
「気にしないで。楽しかったから」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
そんな会話をしながら電車から降り、家へと歩く。
家に着くとまだ祖父は帰っていなかった。
「よし、飯作るか!」
時計を見ると4時過ぎ、しかし昼飯は実質アイスしか食べてない。
今から作って早めの夜ごはんにしてしまおうと考える。
そこで俺は大事な事を思い出し、ポケットから小袋を出す。
「小夜、これ」
「……? 何かしらこれ」
「まぁ、その、なんだ。プレゼントかな」
小夜は小袋を開ける。中には買った青いリボンが入っている。
小夜はじっとその青いリボンを見つめる。
「気に入らなかったら別にほっぽっててもいいから」
「そんな事言わないで、とても嬉しいわ」
「そうか、よかった」
俺は胸の内から何かが湧き上がる様な感覚になった。
「真」
小夜はこちらを向くと────
「本当に、ありがとう」
そう、今まで見たことのないような笑顔で笑いかけてきた。
────どうやら今夜の夕飯は張り切って作れそうだった。
あれ、戦闘してない……?




