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彩色の魔女  作者: 唄海
3章 第零種永久機関
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至福の休日

「うーん⋯⋯」 


 リビングの机に向かい、俺は物思いにふけていた。


「真、何書いてるの?」

「進路。でも、何も思い浮かばなくてさ」


 そう言って一枚のプリントを机の上から取って小夜に見せる。何もかいてない、空白だらけのプリントだ。


「⋯⋯魔法使いって、表向きは普通に働いてるのか?」

「えぇ。あ、でも魔法使い達の中にある仕事をしている人もいるわ。やっぱり、事情を知ってる者同士じゃないと出来ないこともあるから」

「小夜は将来、何かしたいとかあるの?」

「それは⋯⋯考えたこともなかったわ」

「そっか」


 難しいモンだな、とペンを置いて立ち上がる。暑くなってきた、窓を開けよう。


「真は、ある?」

「明確なのは無いよ。でも、魔女狩りからみんなを守る事をしたい」


 ガルにでも聞けば、その手の仕事を教えてくれるだろうか。とにかく俺は、小夜が傷つかない、安心して暮らせる世界が欲しい。その一心なら、例え聖人相手でもいくらでも戦ってやる覚悟だ。


「まぁ、そんな事学校に言ったら間違いなく呼び出し食らうからな。テキトーに書いとこ」

「そんな簡単に決めて大丈夫なの?」

「うーん⋯⋯」

「真なら魔法使いの世界でも生きていけるとは思うけど、本当にやりたい事をやればいいのよ?」

「うーん⋯⋯⋯⋯」


 何だか簡単に決めてはいけない気がしてきた。


「とりあえず保留しとこ。まだ提出期限あるし」


 プリントをしまいこんで、置いていた料理本を手に取る。レパートリーを増やそうと、本屋の店頭に並んでいたのを数冊買ってきてみたのだ。


「小夜はどれが良い?」

「どれどれ⋯⋯あ、これ美味しそうね。でも、こっちも良いわ」

「これなら多分今ある物で出来そうだし、今日はこれにしようか」

「本当? 楽しみにしてる」


 花が咲いた様に──いや、花より綺麗に笑う小夜。

 そう、彼女のこの笑顔のために。俺はこの先の人生全てを賭けてでも戦ってやる。その為に何をすべきか、俺は未だ迷い続けている。


「⋯⋯ん?」


 唐突に、スマートフォンに着信が入る。知らない番号だ、誰だろう。画面をスライドして、耳に当てる。


「はい、真です。どちら様で?」

「ライヴ。ちょっと来て欲しいから、三十分後に来て」

「いきなりだな。別いいけど、どこに行きゃいい?」

「駅前の広場。早くついたら、テキトーにカフェにでも居て。じゃ」

「あ、ちょおい待て⋯⋯」


 制止しようとしたが、もう遅い。通話は無慈悲にも切られ、待ち合わせ時間のカウントダウンは始まってしまった。

 それにしても駅前の広場って、結構ギリギリになりそうだぞ。


「ちょっと出かけてくる。何かあったら、サリィと通じて教えてくれ。飛んで戻るから」

「ライヴから、だよね? 珍しいわ、ライヴが人を頼るなんて」

「多分俺が使いやすいからだと思うよ⋯⋯とりあえず、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 小夜に留守を任せて家を出る。転移魔法を使えばすぐだが、ここは人に見られる可能性があって危険だ。幸い電車の時間はピッタリなので、とりあえず駅に向かうとしよう。


「にしても、あっちぃな⋯⋯すっかり夏じゃねーか」


 早足で歩きながら、ギンギンと照りつける太陽を仰ぐ。地平線の向こうから登ってくる入道雲が、本格的な夏を表していた。

 電車と同時に駅に着き、そのまま乗り込んで約束の地へ。


「真先輩? 珍しいですね、ここでお会いするなんて」

「ん?」


 後ろから聞き覚えのある声で呼びかけられる。振り返ると、珍しく私服の雪舟がそこに立っていた。夏の暑さと清涼さが、一層彼女の姿を輝かせている。あまりの眩しさに、俺は少したじろいだ程だ。


「随分と綺麗だな。デートか?」

「ち、違います! テスト期間で部活が休みなので、アキちゃんと買い物に行く所です!」

「アキちゃん⋯⋯あぁ、なんか見た事あるかーもしれない。運動部はテスト期間中くらいしか休めないから大変だよな」

「そういう先輩は、テスト勉強大丈夫なんですか?」

「んー、雪舟は英語得意か? 一発で完璧になる方法さえ教えてくれたら、大丈夫なんだが」

「無いです。先輩、頑張ってください。補習中は合宿があるんで、先輩を助ける事は出来ないですから」

「はい⋯⋯頑張って赤点回避します⋯⋯」


 優等生の雪舟に言われちゃ、反論する余地がない。本当に勉強出来る奴は遊んでもちゃんと勉強してるから、その点雪舟は相当凄いと思う。

 それにしても、今日の雪舟はいつもに増して綺麗だ。いつも綺麗だけど、私服だと更に趣がある。写真にとって飾っておきたいくらいだ。


「にしても雪舟は綺麗だよな。浴衣とか着たら、すげー似合うと思うんだよ」

「真先輩、わたしの浴衣姿見たいですか?」

「見たい」

「じゃあ約束ですよ、絶対に見てくださいね!」

「う、うん⋯⋯わかった⋯⋯」


 顔をグイと近づけてくる雪舟に、思わず少し後ずさりする。爽やかな果実のような香りが、微かに鼻腔をくすぐった。


「じゃあ先輩、連絡先教えてください」

「いいよ。ほい」


 携帯を取り出して、トークアプリを開いて見せる。その画面に、雪舟のアカウントが追加された。


「⋯⋯ふふっ、楽しみだなぁ」


 その画面を嬉しそうに眺める雪舟。何がそんなに嬉しいのかは分からないが、そろそろ降りなければならないので追求は出来そうにないな。


「じゃあな」

「はい、真先輩。約束、忘れないで下さいよ!?」

「あぁ、わかった」


 雪舟と別れて電車を降りる。駅前は、休日の人々で賑わっていた。

 携帯を見ると、約束の五分前だ。


「んー、カフェなんてオシャレな空間に1人は難易度高いしなぁ⋯⋯」


 見渡すが、ライヴの姿は見当たらない。あいつの事だ、遅れてくる可能性が無い訳では無い。特に俺相手には尚更。

 しかしこの暑さ、外で時間を潰そうとすると体調に支障をきたしそうだ。こりゃあ、本格的に夏が来たな。


「さて、どうしたもんか」


 適当にそのあたりをぶらつくと、自販機があったので飲み物を買う。と、携帯が震える。


「はい?」

「着いた。今どこ?」

「あー、駅で待っててくれ。今行く」


 買ったジュースを一気に飲み干すと、再び駅の方へと向かう。遠目から見ても可愛らしい女の子が1人、駅前で人目を集めながら立っていた。

 人々の視線の中心に歩く。


「⋯⋯⋯⋯」

「何よ」

「いや、別に」

「そう。ならいいけど」


 そういうとライヴは、俺のことも気にせずに歩き出してしまった。


「どうして、私服ってのはあるんだろうなぁ⋯⋯」


 その後ろ姿を眺めながら、俺はしみじみと休日の良さを噛み締めた。

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