盾
「さよなら。気をつけて帰るんですよー!」
「さいなら、先輩」
生徒会室の前で手を振る先輩に手を振り返しながら、俺達は階段を降りていく。楽しかった時間が終わるのは少し寂しいが、それ以上の充実感によって満たされていた。
「よし、帰るか」
「そうね」
昇降口で靴を履き替え、外に出る。外はもうじき、日が沈もうとしていた。真っ赤な空を眺めると、自然と心が焦燥感を覚えてしまう。
「じゃあなガル、ライヴ」
「おう」
「じゃ」
二人と別れ、駅へと歩き始める。
「真の学校、とっても楽しいわね」
「喜んで貰えて何よりだ」
帰り道、小夜と並んで歩く。小夜が楽しかったのなら良かった。先輩には、感謝しなければ。
「そうだ。今度お礼に、ケーキでも作ってみようかな」
「それなら味見は私がするわ」
「ははは、頼む。何がいいかなー」
チョコケーキあたりならお茶請けにも良さそうだ。頭に思い描いたケーキに、思わずお腹が鳴ってしまいそうだ。
「そう言えば明日は休みだけど、小夜は何か用事とかあるのか?」
「んー、真は何かある?」
「何も無いかな」
「それじゃあ私はあるわ。真、遊びに行きましょ?」
その綺麗な目を輝かせて、小夜は突拍子も無くそんなことを言い出した。
「いや、いいけど。どこに行くんだ?」
「この前海千流に教えて貰ったの。街の方には、面白いところが沢山あるって。だから私、真と一緒に行ってみたいの」
「へぇ⋯⋯それは、なんて言うか⋯⋯」
そう言えば昔、みっちゃんに誘われてボーリングやらカラオケやらに連れて行かれた覚えがある。あの時はそれなりに楽しかったが、今思い出すとどうしても胸が苦しくなってくる。
あの時のみっちゃんは、一体どんな心境だったのだろう。後悔しないようにと決めたのに、俺の心はどうしても過去を振り返ってしまう。
「⋯⋯真、嫌?」
「いや、大丈夫だ。でも俺でいいのか? 俺よりみっちゃんとかの方があっちの方面は詳しいぞ」
「いいの。詳しくなくたって、真と一緒に出掛けられるなら満足よ」
「小夜⋯⋯」
「で、どう? 私と明日は遊びに行ってくれる?」
「何も無ければ、ね」
必死に笑顔を向けて答える。その裏にある自己嫌悪を隠したままにして。あぁ、こんな人間が小夜の傍に居ていいのかと不安で心が沈んでしまいそうだ。
「ふふ、楽しみ!」
「⋯⋯あぁ、そうだね」
気の抜けた返事を返し、顔をそらす。執行者の事、海千流の事。俺は、どうしようもない不安を胸に隠していた。
「真?」
「あーいや、何でもない。楽しみにしてるよ」
小夜に顔を覗き込まれ、慌てて笑顔を作る。彼女の目で見つめられると、自分の不安が全て見通されてる様な気分になる。
俺は彼女の為に戦う。その覚悟は、決して揺らいではならない。その為の強さに、この不安は必要無い。執行者も、魔女狩りも、この手で全て倒してやる。
「そう言えば真、さっきの電話って誰からだったの?」
「別に、友達からだよ」
ほら、心を強く保てば彼女を危険な目に合わせることもない。執行者は、俺だけを狙えばいいんだ。小夜には絶対に手を出させるものか。
「とっとと帰ろう」
仮面を貼り付けたまま、俺は歩く速度を早める。
「あ、待ってー」
その後ろを、小夜が急ぎ足でついてくる。それでいい、彼女の前に立つのは俺だ。
彼女を守るのは、誰でもない俺自身だ。




