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彩色の魔女  作者: 唄海
序章
10/115

真っ黒な夢と真っ黒なパンと真っ黒な予感

ブクマと評価増えていました!

登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

引き続き評価、指摘等よろしくお願いします。

──夢を見ている。

ただただ黒い世界に、海だけがあった。

波の音も風の音も聞こえない。

ただただそこに在るだけだった。

自分の体は無く、意識だけがそこにあるような感覚だった。

ふと俺は『胡蝶の夢』という物を思い出す。今見てる夢が現実でさっきまでの現実が夢だったのではないか、と。


「そんな事はないだろ、真」


ふと名前が呼ばれる。誰だろう、聞いたことの無い声だ。


「夢は夢でしかない。だってそうだろう、現実で見た物だけが夢に現れる。逆に夢で見たものが現実に現れたらそれこそたまったものじゃない」


なるほど、確かにそうだ。でも、予知夢や虫の知らせ、その類のものだってあるではないか。

夢で見たものが現実で起こってしまう。


「予知夢や虫の知らせ、ね。それはどこまで行っても予測でしかないんだよ。現実で得た様々な物から予測しているだけさ。いつも見ている夢だってそう。現実で見た、聞いた、体験した。そんな物から世界を構築しその中で様々な予測をしている。だけども人間は妄想や創作物からも情報を得てしまう。だから夢では現実ではありえない予測をしてしまうんだ。」


ならこの夢もどこかで得た情報なのだろうか。

人間の脳は忘れたと思った事も意外と覚えているらしい。だからこの夢の内容もどこかで得たに違いない。覚えてはいないが。


「ところでアンタは誰だ? 正直思い出せないんだが……」

「思い出せるわけが無いよ。だって君はオレとは会ったことがないもの。」


何を言ってるんだろう、この人は。現実での情報が全くないのにどうして夢に現れることが出来るのか。


「まぁ、いずれ会えるさ。いつかはまだわからないけど」


そうか、それじゃあせいぜい期待せずに待っておこう。


「ところでアンタは何を俺に伝えたかったんだ?」

「何も無いよ。ただ君と話せるから話に来たんだ」

「話せるように……だって?どうして今まで話せなかったんだ?」

「それはいずれ会えた時に話すよ。まだオレは話に来るだけで会えないけれどね。」

「話すと会うは何が違うんだよ」

「簡単に言うなら姿が見えるかの違いだよ。今は声でしか『話せない』、けれども姿が見えたら『会える』」


現実で見たことがないのにどうやって……


「そろそろ時間だね。まだ話せたら話そうか、真」

「待てよ! ホントにお前はなんなんだよ!」


俺は虚空に向かって叫ぶ。体がないので本当に叫んだのか心の中で叫んだかはわからない。


「じゃあね、真」


そんな俺の叫びを無視して声の主は別れを告げる。途端、空間がひび割れ真っ白に染まってゆく。


「あぁ、そうそう。夢と現実の見分け方がもう一つあった。夢から現実へは起きたままでも行ける。現実から夢へは起きたままでは行けない。覚えておくといいよ」


そんなことを言って声の主はそれきり喋らなくなった。

俺はそんな声の主のいたであろう虚空に向かって──


「また話せよ! 絶対だからな!」


そう言った。

───夢はそこで覚めた。


─────────────────────────────






目を開ける。一番最初に見たのはいつも通りの天井だった。

不思議なシミがあり、昔はとても怖かったのを思い出す。今となってはもう何も感じない。


「さて、起きるか」


俺はベットから出るとカーテンを開ける。今日は雲はあるがよく晴れていた。

1つ伸びをすると意識がハッキリしてくる。


「あれ、何か忘れてる気がするけど何だっけ……」


俺は何かを思い出そうとする。なにか誰かと話したような……



───「ふふっ、お買い物なんて楽しみだわ。良いところ案内してね?」



「あ」


思い出した。昨日小夜と服を買いに行く予定を立てたんだった。

時計を確認する。今は8時を回ったところだ。


「小夜は起きてるかな。わりと朝とか弱かったりして」


俺はそんな事を思いながら台所へ向かう。とりあえず朝ごはんを食べよう。

台所はリビングと隣接して設置されている。俺はリビングの扉を開ける。そこには──


「うむむむむむ……」

「わっはっは。そろそろ降参かな?」


小夜と祖父がテーブルを挟んで向かい合いチェスをしていた。

朝っぱらから何やってんだこの人達……


「おはよう」


俺はチェスに熱中している二人へ声をかける。この二人、俺が入ったことに気づいてない。


「お〜。真おはよう」

「おはよう、真。よく眠れた?」


二人はチェスをする手を止めこちらを見る。


「あぁ、ばっちり眠れた。そりゃもう夢も見ないくらい──」


小夜からの問い掛けに笑顔で答える。と、自分の発言に違和感を感じる。

何か夢を見たような気がする。気のせいだったろうか。


「どうかしたの?」


小夜が心配そうに見つめてくる。やはり朝でも綺麗な青色の目だった。


「いや、夢は見たのかもって思ってさ。ただ夢を見たか見てないか思い出せないだけで特に何もねーよ」

「そう、覚えてないのなら大したことではないわ。人間、必要なものは覚えているもの。」

「そうか、ならどうせ大した夢じゃなかったんだな」


まぁ、本当に必要でも覚えていない事も沢山あるが。


「それより小夜、腹減らない?」


俺は目が覚めると次にお腹の目が覚めてきていた。


「……減った」


彼女は恥ずかしそうに答える。可愛い。


「わかった、朝ごはんにしよう。作るから待ってて」


俺は台所へ向かう。朝はパン派なのでトーストを焼こうと思う。


「そういえば小夜は何か苦手な食い物とかある?」

「大丈夫、特にないわ。」

「りょーかい」


そう言って俺はパンを焼き始める。いい匂いがしてきて、ますます腹が減ってくる。


「さて、それじゃあ真が朝ごはんを作ってくれる前に決着をつけるとしようかね~」

「いいえ、ここからでもまだ逆転出来るわ!」


リビングから熱いセリフが聞こえる。小夜ってもしかして意外と負けず嫌いなのか……?

俺はチェスの様子が気になってリビングの方を見る。祖父も大して強くはないが、小夜は目先の駒の取り方にしか目がいっていない。

俺は心の中で確信する。


「小夜って実は後先考えずに突撃するタイプだな……」


おそらくこの街に来た時も探してる人にしか目がいってなく、宿や荷物などは頭になかったのだろう。無鉄砲の究極系だ。


「なかなかいい手だね。はっはっは~。それじゃあこれはどうかな?」

「ぅぅ……」


祖父も祖父でわりとノリノリで攻めてやがる。大人げない。

小夜は半分涙目になっている。

俺はあまりにも祖父が大人げないのと小夜が可哀想だったのでちょっと小夜を助けてやろうかと思い───


「ほいっ」


小夜の駒を勝手に動かす。


「な! 真、勝手に動かさないでよ……あれ?」


俺は祖父の方へ笑みを浮かべる。祖父の顔は若干焦っていた。

余裕ぶって小夜の思考を引っ掻き回していたが、祖父の盤面は1点だけ弱いところがあった。それを感づかれないようにわざと余裕ぶっていたのだろう。ますます大人げない。


「いいか、小夜。目先の駒だけに気を取られるな。もっと落ち着いて全体的にを見渡せ、そうすりゃこんなの楽勝だ。」

「驚いたわ。真ってもっと単純かと思っていたのに」

「そりゃあ酷いなぁ……俺だってちゃんと考えて生きていますよーだ」

「ごめんなさいね。あとは大丈夫よ、このまま逆転してやるわ」


小夜はさっきとは打って変わって勢いに乗っている。


「だとよじいちゃん。どうする? 降参した方がいいんじゃないのか?」

「はっはっは~。たかが真の一手で戦況が変わるわけないだろう~」


祖父が笑う。だがその額にはわずかながら汗が滲み出ている。

野郎、焦ってやがるなぁ? そう心で悪魔の様な笑みを浮かべた自分がいた気がした。


「いいか、小夜。さっき言った事を思い出しながら戦え。そうすりゃ楽勝だ」

「ふふふ、私の本当の力、見せてあげる!」


────後は小夜の流れだった。勢いに乗った小夜は祖父の弱点を的確に見つけたり、何手も先を読んだ配置を組んだりして──


「チェックメイトよ、お爺さん」


宣言通り、逆転勝ちをしたのだ。


「あ~、負けちゃった~」

「楽しかったわ。またやりましょ?」

「え~、もう勝てない気がするよ~」


小夜はとても楽しそうだった。よかったよかった。祖父も最後は何だかんだ楽しそうだったし。


「じゃあ、今度は真とやりましょ?」


小夜は勝利に浮かれていた。面白い、受けて立とうじゃないか!

「ところで真、朝ごはんは~?」


「朝ごはん?何だっけそれ……ってヤベェ!」


勝負に見入ってしまったせいか、パンを焼いてる事をすっかり忘れてた。俺は急いで台所へ駆ける、美味しそうな匂いはすっかり消えて変わりに焦げ臭い匂いがする。



結局パンは新しく焼き、俺は失敗した真っ黒なパンを食うハメになった。その真っ黒な色はとてもなにかに似ていた。

何に似ていたのかは思い出せなかったが。



─────────────────────────────





「ところでなんでじいちゃんと小夜は朝っぱらからチェスなんかしていたんだよ?」


俺は朝ごはんの片付けをしながらそんな質問をする。


「私が起きたらお爺さんがリビングにいたのよ。それで改めて自己紹介をしたら流れでそのままチェスになったのよ」

「どういう流れだよ……てかじいちゃんとなにか話したのか」


俺は魔法について祖父には話していない。小夜はどうやって自己紹介したのか。


「大丈夫よ、ちゃんと昨日真が説明したのと同じ内容で話しておいたから」


そんな不安を見抜いたのか、小夜は俺に向かってそう話す。


「そっか、なら大丈夫だな。」

「でも、お爺さんが真のことを彼氏なのかと聞いてきたのは予想外だったわ」

「え?! じいちゃんが?! 何聞いてんだあの野郎!」


俺は恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。ちなみに祖父はと言うと何か色々とやらなければいけないことが出来たらしく、朝ごはんを食べるなり出掛けてしまった。昼飯は要らないらしい。


「だから、「今のところは違うわ」って応えておいたわ」


俺は恥ずかしさで死にそうになっていた。しかもなんだか今のところはってまるで小夜が今からなら可能性があるかもしれないみたいに言ってるじゃないか。

恋愛に耐性のない男子高校生はこんな風に勝手に期待して勝手に自爆するのだ。


「あぁ……それはそう答えるのが妥当だよな……うん……」


俺は勝手に期待して勝手に自爆する事をわかっていたため、変な期待は捨てた。そもそもこんなに可愛い女の子が自分みたいな普通の男子高校生兼魔法使いに相手をしてくれるだけ有難い。


「ところで真、この後は何をするの?」

「この後は小夜の服を買う予定だろ? だから街の中心の方へ出かけようと思ってた所だよ。 小夜は何時頃見に行きたい?電車調べておくよ」

「そうね、朝ごはん食べたばかりだからあと30分くらいしたら行きたいわ」

「りょーかい」


俺は後片付けを終わらせると昨日残っていた洗濯物を洗濯機へ入れ、電車の時刻を調べる。

駅は家から徒歩10分くらいにあるところだ。電車は丁度いい時間があったので問題はなかった。


「時間は大丈夫だった。だからあと30分後には出れる準備をしてくれ」

「わかった。楽しみね、お買い物」


そうやって小夜は笑う。やっぱり女の子は皆買い物が好きなのだろうか。

こうしてグダグダしてるうちに時間が経ち、俺と小夜は駅へと向かっていた。


「この街は中心と端っこでかなり景観が違うんだよ」


俺は歩きながら小夜に街について説明する。

この街は中心は都会、少し離れて街、さらに離れると田舎、そして最後には山や森しか無くなる。


「面白い街ね。色々な景色が楽しめるじゃない」


小夜はキョロキョロと辺りを見回しながらそんな事を言う。

あまりキョロキョロされると怪しい。

というか海千流に借りた服はルームウェアの様なものと下着だけで外出用の服がなかった為に、男物の服を着ている。元々不思議な格好なのだからさらに怪しい。


「それにしても小夜、わりとその服似合ってるよな。俺が着るより着こなせてるんじゃないか?」


小夜は今、黒いズボンに紺色のパーカーと全体的に見ると真っ黒な格好だった。

しかし彼女が着ると格好は男、長い黒髪と顔は女、となって何とも言えないクールな雰囲気がある。


「そうかしら?でもこの服、ちょっと大きいわ。やっぱりぴったりサイズの服が欲しいのよ」

「そりゃそうだよなぁ。常常その格好だと流石にいつか怪しまれる」


というか俺も傍から見たら可愛い女の子に男装させて連れ回してる奴に見えるかもしれない。知り合いに見られたらヤバイ。

そんな事を言ってると駅に着いた。切符を買ってホームへと向かう。休日だからか駅にはちらほら人がいた。

その人達は皆小夜を見ると一斉に硬直し、次に俺を見てから何事もなかったかのようにすぐに元に戻った。

それはそうだろう、小夜はかなり可愛い女の子なのだ。俺も正直魔法関係の事に首を突っ込んでいなからったらまともに話せなかっただろう。


「やっぱりこの格好は変だったかしら?」


小夜も見られたら事に気づき、俺に聞いてくる。


「いや、俺があまりにも変な奴だったから連れの小夜も見られただけだよ。ごめんね俺が変な奴で」


小夜が可愛いからとは言えなかったので適当な答えを返しておく事にした。俺は昨日から小夜を可愛いとは思っていたが言葉にはしてなかった。ヘタレめ。


「なるほどね」


小夜はそんな答えに納得してその後は見られていることにもあまり気にしていなかった。納得されたのはちょっと傷ついたが……


「それにしても今日は日曜日だってのに人が少ないな」


俺は周りを見る。ふと、一番向こう側のホームに人が一人だけ立っていた。

この駅はホームのホームの間に線路が三本、それが二つ並んでいる駅だ。俺達がいるのは改札を出て一番最初のホーム、一人だけいるのが三つ目のホームだ。

その人はまるで俺達を見てる様だった。それも監視しているようにジックリと。

俺は突然背筋に寒気が走る。気持ち悪い、なんだアイツ。

しかしその人物は太陽を背にしていたので、こちら側からはよく見えない。あまりにもじっと見つめると気づかれるかもしれないから俺は小夜にそっと話しかける。


「なぁ、小夜。一番奥のホームにいる奴、見えるか?」

「どうしたの急に? ……よく見えないわね」

「なんかアイツ、俺達を監視してるみたいなんだ。ただ見ているだけかもしれないけど」

「魔女狩りの可能性もあるわ。気をつけて行きましょう」


小夜からは緊張感が感じられる。

俺はせっかくの小夜との買い物に水を差されて少しだけイラついた。なんでイラついてるのかはよく分からないけれども。

けれどもそれ以上に悪寒が体を支配していた。


「電車が来たわ。とりあえず、今日はお買い物を楽しみましょうよ。あっちの方では人が多いから手は出せないでしょうし」


小夜はこちらへ微笑みながらそう言う。

俺はその微笑みに少しだけ救われた気持ちになりながら電車へと乗り込む。

──────その人はいつの間にか消えていた









そのうちキャラ設定とか公開しようかな

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