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夢みたものは  作者: 中島 遼
21/103

こたつでミカン1

「詩織さんは何か言ってた?」

 あれから一週間、高津は松並の部屋のこたつでミカンを剥きながら聞いた。

「それが、何かばたばたしているみたいだから、何も聞けてないんだ」

「ほんとは意気地がないだけだろ?」

 松並は高津が剥き終わったミカンをじっと見た。

「意気地ならたっぷりある。狐つきの婆さんだろうが何だろうが、怖くなんかない」

「違うよ、怖いのは詩織さん」

 松並はじろりと睨むと、彼のミカンをひったくってがぶりと食べた。

「あ、ちょっと酷いよ、俺、せっかく白い筋全部取ったのに!」

「俺は意気地はあるし、意地も汚い」

「……ちぇ」

 高津はそのままごろんと横になった。

 そうして松並の顔を下から眺める。

 あの日のことは、あまり話をしていない。

 松並に知られたくないことを暴露せずに、この話についてうまく話せる自信がなかったのだ。

(……だけど)

 同じ事は松並にも言えそうだった。

 彼もまた、高津に話せない何かを抱えていて、それを説明するのが嫌で狐のことに触れないのだという気がする。

「あーあ、もうすぐ年が明けるよな。一年が経つのが最近、めちゃくちゃ早いぜ」

「その前にクリスマスがあるよ」

 松並は顔をしかめる。

「俺の嫌いな言葉だ」

「シングルベルだもんね」

 松並はぷいっと上を向いた。

「そんなんじゃない。何だかクリスマスには嫌な事が起こるような気がするだけだ」

「きっと俺と二人でケーキを食うんだ」

「残念だが、お前もシングルケーキだ。俺はきっと一人で深夜まで残業するから」

 高津は目を細めて、松並を注視してから話題を変える。

「……新左衛門」

「えっ!」

 松並はぎくりとしてから、手の指を見た。

「ミカンの汁がついちまった。洗ってこよう」

「白々しい」

 思わず高津は笑う。

「何か知ってるんなら教えてよ」

 松並は鋭い目で高津を睨み、そして肩をすくめてその場を離れた。

「お前こそ、あんな所に何をしに行ったのかを言ってもらおうか」

 台所でじゃばじゃばと手を洗い、そして松並は戻ってくるなり寝転ぶ高津の腹の上に座った。

「く、苦しっ!」

「腹筋を鍛えるときはこうする」

「知ってるけど、今はそんな気分じゃないし!」

「萌ちゃんが狐に狙われてるって本当か?」

「えっ!」

 高津は仰天した。

「何でそれを?」

 松並はにやりと笑って立ち上がった。

「今、お前から聞いて初めて知った」

「なっ!」

 高津は身体を起こした。

「最低っ!」

「何とでも言え。それが大人の叡智ってもんだ」

「くそくらえだよっ!」

 松並はどこ吹く風で、ミカンをむきはじめた。

「だとすると、何だかややこしいな」

「ふん」

 騙された腹いせに、高津はこたつに入ってきた松並の足を蹴る。

「大人なんて嫌いだ」

「まあ、そういうな。一緒に考えようじゃないか」

「……そっちの秘密を言ってからだよ」

「俺に秘密はない」

「新左衛門って誰さ?」

「俺も知りたいんだ、それ」

 本当に松並はずるい。

 高津はふくれっ面でもう一度ミカンをむき始めた。

「なあ、今から言うこと、別に返事をする必要はないから、黙って聞けよ」

 話しかけてきた松並を高津は無視した。もとより返事などする気はない。

「昔からうちの町には言い伝えが多くあるそうで、その中の一つにリソカリト、と呼ばれる特殊能力者の話がある。どうやらお前と萌ちゃんはそのリソカリトだと俺は思うんだ」

 手が滑ってミカンが転げた。


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