こたつでミカン1
「詩織さんは何か言ってた?」
あれから一週間、高津は松並の部屋のこたつでミカンを剥きながら聞いた。
「それが、何かばたばたしているみたいだから、何も聞けてないんだ」
「ほんとは意気地がないだけだろ?」
松並は高津が剥き終わったミカンをじっと見た。
「意気地ならたっぷりある。狐つきの婆さんだろうが何だろうが、怖くなんかない」
「違うよ、怖いのは詩織さん」
松並はじろりと睨むと、彼のミカンをひったくってがぶりと食べた。
「あ、ちょっと酷いよ、俺、せっかく白い筋全部取ったのに!」
「俺は意気地はあるし、意地も汚い」
「……ちぇ」
高津はそのままごろんと横になった。
そうして松並の顔を下から眺める。
あの日のことは、あまり話をしていない。
松並に知られたくないことを暴露せずに、この話についてうまく話せる自信がなかったのだ。
(……だけど)
同じ事は松並にも言えそうだった。
彼もまた、高津に話せない何かを抱えていて、それを説明するのが嫌で狐のことに触れないのだという気がする。
「あーあ、もうすぐ年が明けるよな。一年が経つのが最近、めちゃくちゃ早いぜ」
「その前にクリスマスがあるよ」
松並は顔をしかめる。
「俺の嫌いな言葉だ」
「シングルベルだもんね」
松並はぷいっと上を向いた。
「そんなんじゃない。何だかクリスマスには嫌な事が起こるような気がするだけだ」
「きっと俺と二人でケーキを食うんだ」
「残念だが、お前もシングルケーキだ。俺はきっと一人で深夜まで残業するから」
高津は目を細めて、松並を注視してから話題を変える。
「……新左衛門」
「えっ!」
松並はぎくりとしてから、手の指を見た。
「ミカンの汁がついちまった。洗ってこよう」
「白々しい」
思わず高津は笑う。
「何か知ってるんなら教えてよ」
松並は鋭い目で高津を睨み、そして肩をすくめてその場を離れた。
「お前こそ、あんな所に何をしに行ったのかを言ってもらおうか」
台所でじゃばじゃばと手を洗い、そして松並は戻ってくるなり寝転ぶ高津の腹の上に座った。
「く、苦しっ!」
「腹筋を鍛えるときはこうする」
「知ってるけど、今はそんな気分じゃないし!」
「萌ちゃんが狐に狙われてるって本当か?」
「えっ!」
高津は仰天した。
「何でそれを?」
松並はにやりと笑って立ち上がった。
「今、お前から聞いて初めて知った」
「なっ!」
高津は身体を起こした。
「最低っ!」
「何とでも言え。それが大人の叡智ってもんだ」
「くそくらえだよっ!」
松並はどこ吹く風で、ミカンをむきはじめた。
「だとすると、何だかややこしいな」
「ふん」
騙された腹いせに、高津はこたつに入ってきた松並の足を蹴る。
「大人なんて嫌いだ」
「まあ、そういうな。一緒に考えようじゃないか」
「……そっちの秘密を言ってからだよ」
「俺に秘密はない」
「新左衛門って誰さ?」
「俺も知りたいんだ、それ」
本当に松並はずるい。
高津はふくれっ面でもう一度ミカンをむき始めた。
「なあ、今から言うこと、別に返事をする必要はないから、黙って聞けよ」
話しかけてきた松並を高津は無視した。もとより返事などする気はない。
「昔からうちの町には言い伝えが多くあるそうで、その中の一つにリソカリト、と呼ばれる特殊能力者の話がある。どうやらお前と萌ちゃんはそのリソカリトだと俺は思うんだ」
手が滑ってミカンが転げた。




