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夢みたものは  作者: 中島 遼
11/103

バス停1

(とりあえず、あのおじいさんが先だ)

 狐も大概気にはなったが、まずは情報収集してからの方がいいだろう。

 だが、何度も椎名の家に行ったが、いつも誰もいない。

(やっぱり圭ちゃんしか会わないつもりなんだろうか)

 あの日、もっと聞きたいことがあったのに、高津が早々に腰を上げたのが悪い。

 なので今日も、萌は授業が終わると同時に自習室には行かずに外に出た。

 そしてそのまま駅に行く。

 まだ夕方だが既に気温が下がり、薄いコートを着ていても寒く感じる。

(……いいな圭ちゃん)

 高津にこの間電話したら、まだ大阪は暖かいようだった。

 その代わり、夏は連日うだるような暑さだったらしいので、痛み分けなのかもしれないが……

「萌」

 ふと、後ろを見ると、伊東が立っている。

「どこ行くの?」

「ちょっとそこまで」

 伊東は何故か笑って萌の横に並んだ。

「じゃ、俺もちょっとそこまで」

 どうやらついてくる気らしい。

(どうしようかな)

 高津があっさり椎名の元を辞したとき、萌は次は伊東と来ようと確かに思った。

 だが、考えてみれば、萌が聞きたいことはリソカリト関係であり、萌や高津が他人に知られたくないような話が多い。

「ごめん、今日は隣町に用事があって」

「へえ、奇遇だな、俺もだよ」

 驚く萌に頓着せず、伊東は一緒にバス停に向かった。

(……まあ、いいか)

 別に同じ駅で降りるわけでもないし、問題はないだろう。

 だが、バスに乗り、乗り換えの駅で萌が降りると伊東も一緒についてきた。

「……伊東君、どこ行くの?」

「さあ、萌と同じ所じゃないかな?」

「ええっ!」

「まあ、尾行してるみたいな?」

 こんな堂々とした尾行など普通はない。

(弱ったな……)

 二人以外は誰もいないバス停に、冷たい風がついっと流れた。そのとき、

「あ!」

 時刻表を念のため確認しようと首を巡らせた萌は、ベンチに座る老人の姿を認めた。

 さっきまでは確かに無人だったはずなのに……

「椎名さん」

「おやおや、また会ったな、お嬢さん」

 老人は笑みを返した。

「わしに二度も会えるなんて運が良い」

 少し迷ったが、数秒後に萌の腹は据わった。

 プライベートには触れずに伝説を聞きに来た振りをして、伊東を回避すればいい。

 そもそもこれだけ通って会えなくて、今日ここで出会ったのは天の配剤以外の何ものでもなかろう。

 萌はベンチの方に近づいた。

「実は、椎名さんに会いたくて、おうちまで行こうと思ってたんです」

「アポイントなしに?」

「済みません、電話番号とかわからなかったので」

 椎名は口の端を上げる。

「わしは会いたい相手しか会わないから、来ても無駄だよ」

 萌は微笑む。

「そうかな、とは思ったんですけど、今日、偶然ここで会えたから、やっぱり行こうと思ったことは正解でした」

 老人は面白そうに萌を見る。

「……頭はあまり良くはなさそうだな」

「は?」

「あ、いや、悪口ではない。純朴でよろしいと言っているんだ」

「はあ」

 自分の頭が悪いことは自覚しているので、さほど腹は立たない。

 それよりも、

「あの、いくつかお教えいただきたいことがあるんです」

 老人が意味ありげに萌の後ろに目をやると、伊東が一歩前に出て頭を下げた。

「初めまして、伊東櫂と言います」

「お嬢さんとのご関係は?」

「友人です」

 しばらく椎名は伊東を眺め、そして萌に視線を移す。

「ここで話をしていいのか?」

「はい。あたしが聞きたいことは、昔話についてなので」

 もちろん、高津のこと、自分の事、麻薬販売をやめてほしいなど、ほかにも言いたいことや聞きたいことは一杯あったが、伊東がいるならそれは無理である。

 だとしたら、今ここで聞けることを聞くべきだ。


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