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夢みたものは  作者: 中島 遼
10/103

JR京都線ホーム3

「……村にとって縁起の悪い人を殺したって話こそ、榊側の言い分が書かれてるんじゃないのか?」

 話を総合するならば、それはリソカリトを狩る側の歴史だろう。

「多分ね」

「どんな話?」

「また、ノートを探しとくって言ってたから、近日中には聞けると思うけど」

「わかったら教えてくれ」

「……どういう風の吹き回し?」

「萌が興味あるものは、俺も興味ある、それだけ」

「嘘つけ」

 伊東が声で詰め寄った。

「普通はそれだったら萌に聞くだろ?」

「……他で調べて、ちゃんと勉強してるなって思わせてポイント稼ぐみたいな?」

「だからわかりやすい嘘はつくな。……萌が危険なのか?」

 高津は一瞬、どう答えるべきか迷った。

「何でそう思うんだ?」

「なんとなく」

 言ってから伊東は微かに笑う。

「お前あたりはこういう曖昧な言い方は嫌いだろうけどね。エビデンスがない、とかさ」

 だが、高津は知っている。

 理由のない直感というものの意外な正しさを。

 それを体現しているのがそもそも自分自身だ。

「……狐は今もいるらしい」

「はあ?」

 素っ頓狂な伊東の声に、高津は顔を赤くした。

「お前だってほら、そういう態度とるじゃないか、人のこと言えないだろ?」

「すまん、唐突すぎて意味を理解できなかったんだ」

 高津はため息をつく。

 伊東には言っておいた方がいいと心の声がした。

 だが、リソカリトの文献を伊東がひもとくなら、萌の正体を秘匿するためにも少し改ざんして話をした方がいいとは思う。

「そいつは人を食うんだって。でさ、萌って正義感強いから、狐を探したりするかもしれない。だけどそれは危ないからやめさせないといけないんだ」

「それって、椎名さん情報?」

「そうだよ」

「へえ」

 再び高津はむっとした。

「そういう人を馬鹿にしたような声を出すな」

「馬鹿になんかしていない。むしろ、納得したんだ」

「え?」

「確かに萌って危険を顧みないし、狐についても人に害を与えるなら自分が退治しようって考えかねない。まあ、無茶苦茶強いから、わからないでもないけど」

「え!」

 高津は驚いた。

「何で萌が強いって知ってる?」

「こないだ、名古屋でヤクザに膝をつかせた。たった数秒で」

「ええっ!」

「もちろん、予備校の友達を助けるためなんだけどね。そう思うと、洞窟の蛇もひょっとしたら……」

 少しだけ高津は拳に力を入れた。

「蛇って?」

「あ、いや、何でもない。ともかく、お前の心配はわかった。萌が変なことに首を突っ込まないように監視はしておく」

「助かる」

「お前のためじゃないけどね」

「ふん」

 肩をすくめ、高津はもう一つ問う。

「あと、聞きたいことがあるんだが」

「なに?」

「病院の事。何か事件があったんだろ? だけどこっちじゃ全然わかんなくて。」

「こっちにいたってわかんないさ。外科の変な先生が、指を数本切られたって話だろ?」

「うん。まるでミステリーみたいにこっちじゃ報道されてる。密室殺人未遂とかってね」

 伊東は高津に知っている事実のあらましを話した。

 だが、それは既に大阪でも報道されていることと変わりない。

「怪我した先生なんて、被害者なのに加害者みたいにひどい言われ方しててさ、殺人云々より、ゴシップばっかさ」

「まあ、マスコミなんてそんなもんだろ」

 高津は本当に知りたい事実について口を開いた。

「……その部屋にいた縛られた外科医師ってのが、村山さんと同じ年齢なんだけど」

「ああ、それは間違いなくあの人だ。たまたま入院している萌の予備校の友達がそう言ってた」

 微かに高津は顔をしかめた。

「大丈夫だったの?」

「もう働いてるらしいよ。何でも最初から最後まで気絶していたせいで、怖いの全然見てなかったから逆に元気なんだって」

「そっか」

 今までの経験からすると、それは何となく嘘くさい。

「じゃ、そろそろ俺、バイト行かないとやばい時間だから」

「ああ、ごめん、そっちの都合、関係なしで電話したしな」

 殊勝な言葉を言って伊東は電話を切った。

 高津はすぐにやってきた普通電車に乗り込み、そして考え込む。

 村山の巻き込まれた事件は、果たして単に彼が巻き込まれただけなのだろうか。

 それとも村山をターゲットにして、失敗した犯罪だったのだろうか。

 高津はメールアドレスを繰り、そして英莉子の名のところで手を止めた。

 しかし、送信する勇気などあるはずもなく、そのまま初期画面へと戻る。

 ため息が出た。


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