【前編】
「余は神の代理人である! 余のすることは、すべて神の指示によるものだと思え!」
ある朝、その王様は高らかにそう告げました。洒落た謁見室には、多くの家来たちがいて、王様の宣言を拝聴しました。
しかし、あまりにも突然で奇抜な宣言だったので、家来たちは動揺を隠せませんでした。
「何かあったのか?」
「珍しく強気でおられるな」
「我々から笑いを取ろうとしておられるのでは?」
家来たちはヒソヒソと話します。なにせ、この王はまだ若僧で、即位以来の功績は皆無なのです。そのため、彼らがこんな態度を取るのは仕方がないことでした。
困惑する彼らを、王は真剣な眼差しで見ていました。自分が神の代理人であることに、自信満々な様子です。
「やれやれ! 我らが王は、とうとう狂ってしまわれたらしい! 正真正銘の馬鹿者というわけだ さてさて、輝かしくも愚かしいこの国の先行きやいかに!?」
王様専属の宮廷道化師が、いつものように茶化します。彼はいわゆるピエロというやつです。傍若無人に喋ったり、振る舞ったりすることを許されます。このときも家来たちは、いつものように苦笑いを浮かべながら、この道化師の無礼を眺めていました。
「……この愚か者めが!!!」
ところが国王は激怒しました……。いつもなら笑い流しているはずなのです。
怒りが収まらない様子の国王は、躊躇うことなく、その道化師を剣で斬り殺しました……。道化師の生首が、家来たちの横をゴロゴロと転がっていきます。首無し死体から吹き出す鮮血が、赤い絨毯に濃淡を追加します。
そして、生首が転がりを止める頃には、家来たちの顔がすっかり青ざめていました。彼らは、王が本気で神の代理人になったと主張しているのだと確信しました。
「こ、国王陛下!!! 神の代理人となられたことを祝福いたします!!!」
「我々は嬉しい限りでございます!!!」
彼らがお決まりの賞賛を送ったのは、言うまでもないことですね。
すると、王は天を仰ぎました。どうやら、さっそく神の代理人としての務めを始めるようです。聞き耳を立てるように、王は天井のほうを見上げています。そして、家来たちは、そんな王の行動を静かに見守ることにしました。
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その神様は、王を見下ろす形で、宙にプカプカと浮いていました。神の姿は、王にしか見えません。よくある話ですね。
『最初の試練はクリアできたな』
『その通りだ、神よ』
テレパシー的なアレで、神は王と話しました。
この神は、たくさん存在する神々のうちの1つでしかありませんでした。大変な努力と煩雑な手続きを経た新米の神が任されたのは、あの王が君臨する小さな王国でした。しかも、他の神様からのお下がりという悲しい事情はありました。よほど価値の無い小国なのでしょう……。
しかし、この神は野心に満ちた神様で、なんとしても偉い神にまでのし上がるつもりでした。そこで、まだ若いあの王を操ることにしたわけです。王と国をうまく使いこなせば、信仰心とともに自分の力が強くなります。
また王にも、強さへの欲求がありました。枕元に突然現れた神を、最初は疑っていましたが、彼の指示通りに動いていると次第に、その神を信じるようになりました。ごく自然な刷り込みを、彼はされたのでした……。
――神は、王が家来たちを従わせることに成功すると、本格的な行動に移りました。
神はまず、前の神様が放置した古い宗教を排除させました。もちろん、それで飯を食べていた聖職者たちからの抵抗はありました。しかし、王による武力にはかないませんでした……。その古い宗教を信じていた人々向けには、その聖職者たちの生首を見せつけておきました。ちなみに、この国の売り主でもある前の神様は、排除を全然気にしていませんでした。もはや用済みということでしょうね。
排除には成功しましたが、それは表向きのことでした。人々の心の奥深くには、古い宗教への思いがちゃんと残っていたのです。またそれらは、普段の生活や慣習の中で残り続けています。
神は、人々の心を読み取ることもできたため、それらを嫌というほど感じました。神はたちまち不愉快になり、イライラし始めます……。
今までの文化があるため、人々が古い宗教を思い続けるのは仕方がないことだと思いますが、この神は許すことができませんでした。神は、どれほど小さな思いだとしても、それが今の自分への裏切りだと思っていました……。
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神は王に、古い宗教をいまだに信じ続ける者がいるとして、早くなんとかしろと命じました。
『しかし、余は心を読むことなどできないぞ?』
『私が選別してやる! それから、信心が足りないとか言って、殺せばいいのだよ! そうすれば不信心者はいなくなるじゃないか!』
神を信じる王は、その乱暴な提案を受け入れることにしました……。
神と処刑人を連れて、王は城下町にやってきました。人々が愛想笑いを浮かべたり、うるさい歓声を上げながら、王の元へやってきます。神は人々の選別を始めます。
『まずは、あそこの老夫婦を殺せ。前の神様に誓った約束をいまだに守っている』
神の指示を聞いた王は、躊躇することなく、
「おいそこの二人!!! 貴様らは信心が足りんようだぞ!!!」
そう告げると、処刑人に仕事をさせました……。哀れな老夫婦は、唖然としたまま死んでいます。
「うわ〜!!!」
「王はご乱心だぞ!!!」
突然の処刑に、人々は逃げていきます。当然の反応です。
『逃げるヤツらを皆殺しにしろ!!! 私に疑われるのが嫌だから、逃げているのだ!!!』
選別がめんどくさくなったのか、神はそう命じました……。
「逃げる者を殺せ!!! 一人残らずだ!!!」
もはや王は、本当に王の代理人と成り果てていました……。
処刑人だけでは仕事が追いつかないため、王は兵士たちを出動させました。大規模な処刑となったため、城下町のメインストリートは、たちまち死体置き場です……。
しかも神は、さらなる罰として、不信心者の埋葬を禁じました。城下町に異臭がたちこめ、数日後に伝染病が蔓延し始めたのは、当たり前の流れでした。そのせいで、神の選別に合格した人々も死んでしまいました……。家来の一部までもが死んでしまったので、さすがの王も神を疑い始めます。
もちろん、神は王の疑心に気づきました。とはいえ、王を操る必要があるため、殺意を隠すしかありません……。
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神は、不信心者の処刑を一旦やめ、信者の獲得に移ることにしました。王を言いくるめ、この神を崇める新しい宗教を立ち上げさせます。王の口を通じ、新しい教典の完成と聖職者の育成を実現しました。
準備が整うと、神はさっそく布教を始めさせました。聖職者たちが教典を持ち、城下町を歩き回ります。メインストリートは、まだ死体だらけでした……。なんともせっかちな神様ですね。『タイムイズマネー』を教えの一つにするつもりでしょうか?
……ところが、布教は失敗に終わりました。古い宗教が残した慣習などが、聖職者たちが説く新しい教えに、矛盾という形で抵抗したのです。そのため、教えを聞く人々だけでなく、聖職者たちまで混乱する始末でした……。
無惨な結果に、神が激怒したのは言うまでもありません。神の激しい説教を、王は徹夜で聞く羽目になりました……。




