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第7話 魔力の無い青年

  草木や岩等の障害物を器用に避けながら、トーヤとグリーンフォックスリスの追いかけっこは続く。

  しかし、ポーチが重いせいなのか、グリーンフォックスリスの走る速度が、明らかに落ちて来ている。

 その事に気がついたトーヤは、走る速度を少し速めた。

  トーヤとグリーンフォックスリスの距離が、徐々に縮んで行く。

  ーー後、少し、手を伸ばせば届くーー。

  トーヤが手を伸ばす。

  ーーその時だった。

  グリーンフォックスリスは、くるりと反転し、背の低い草木が広がる茂みに飛び込んだ。

  トーヤもそれに続く。

  ーー突然、足元から感覚が無くなり、視界が激しく揺れる。

  トーヤは、あっ!っと思ったが、気付いた時はもう、出遅れだった。

  トーヤの体は既に、地面に入った亀裂の中に落下していた。

  本当に一瞬の出来事だった。

  まず、初めに感じたのは、強い衝撃だった。

  次に鈍い痛みが走る。

  その所為で、思わず声をあげてしまい、土が口の中に入る。

  あの独特の土の香りと、ジャリッとした嫌な食感が口の中に広がる。

  落下の最、反射的に目を閉じたおかけで、運良く、目の中に土が入らなかったのは、不幸中の幸いだった。

 人一人がやっと通れる程の大きさしか無い亀裂の幅は、狭く、所々、地面に体を打つけながら、下へと転がり落ちて行く。

  不安と焦り、死の恐怖がトーヤを支配した。

  ーーもう、駄目だと、覚悟したその時。

  不意に体が軽くなり、土の壁の閉塞感が消えた。

  しかし、それも一瞬の出来事で、すぐに死の恐怖が舞い戻って来た。

  何故なら、トーヤの体は空中に投げ出され、落下し始めたからだ。

  強い風圧と落下速度がトーヤの体を弄ぶ。

  ーー苦しい!

  トーヤは思わず目を開けてしまう。

  すると、底から何がキラリと、光ったのが見えた。

  咄嗟の判断で、再び、目を強く閉じ、両腕で顔を庇う。

  それは、賢明な判断だった。

  今までとは、違う衝撃が体に伝わり、聞き覚えのある派手な音が響く。

  例えるなら、体当たりで、大きな窓ガラスを割ったような衝撃と音だ。

  しかし、それは、ガラスでは無く、精彩な輝きを放つクリスタルの郡れだった。

  細い棒状のクリスタルが、何重にも層になっており、まるで網のように、無数に張り巡らされている。

  トーヤはクリスタルの集まりを、打ち壊しながら、下へ下へと落下して行き、等々、底へと辿り着いた。

  ドサリッと、いう音と共に振動が体に伝わる。

  目を閉じていたが、反射的に受け身をとった為、大きな怪我は無かった。地面のトンネルを転がり落ちる際、数カ所に擦り傷を負ったぐらいだ。

  トーヤは目を開け、ゆっくりと体を起こす。

  顔を上げた瞬間、”それ″は目に飛び込んできた。

 

 ーーそれは、圧倒な存在。


  ーー力の証。


  ーー機械人形兵器ロボット


  (ーー綺麗だ……)


  トーヤが一番最初に抱いた感想はそれだった。

  恐怖でも驚愕でもなく、心の底から、ふんわりと、気泡の如く、浮かび上がってきたのだ。


  ーークリスタルの中に、閉じ込められた巨大な機械人形兵器ロボット


  それはそれは、美しい姿だった。

  白銀に輝く細身の機体には、赤色の装甲が取り付けられている。顔の部分は鳥の羽を並べた様な装甲に覆われている。四肢にも赤と白の頑丈そうな装甲が取り付けられており、それぞれに黄金に輝く美しい模様が描かれている。

  機体の背後は意外にも軽装な作りになっており、長さの違う赤い布状の物が、複数付いていた。

  美しい機械人形兵器ロボットとクリスタルで出来た巨大な結晶。

  その結晶から無数の細い棒状のクリスタルが伸び、周囲の太いクリスタルの柱と繋がっている。

  その姿はまるで、繭で身を包んだ蚕のように見える。

  (ーー眠っている)


  人間の道具である機械人形兵器ロボットに対して、そのような感想を抱くのは、可笑しいとトーヤは思い、思わず、苦笑する。

  そして、今日は随分と苦笑いばかり浮かべいるな、っと、思い、またもや、苦笑した。

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