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第4話 魔力の視える青年

  そんなふざけたやり取りをしていると、突然、周囲にピッー、ピッー、という機械音が響き渡った。

  その音はモグラに似た機械から発生されている。

 音の根源であるモグラに似た機械は、完全に停止している。



  よく見ると、先程まで光っていたクリスタルの輝きが完全に失われている。

  アリサが無言でモグラに似た機械に近づく。

  腰を屈め、モグラに似た機械の背中に付いたクリスタルを外す。

  背筋を伸ばし、手に取ったクリスタルをつまらなそうな顔で眺めている。

  しばらくすると、クリスタルが青く輝き出した。

  その光は段々と強くなり、クリスタルは美しく光り輝いている。

  アリサが光を取り戻したクリスタルを、モグラに似た機械の背中に取り付けると、動物が身震いするかのように機体を震わせ、再び、動き出した。

  まるで、何事も無かったかの様に再び、畑を耕して行く。



  アリサは本当につまらなそうにその様子を眺めると、突如、兄の方にくるりと、振り返る。

  その顔に太陽の様な明るい笑顔を浮かべながらーー。


  「さぁ、兄様。後、三分程でモーグが畑を耕し終えますわ。そうしたら、私のビーグルに乗って一緒に帰りましょう。」

  アリサが嬉しそうにそう言った。

  「いや、先ず、先生に会いたい。お前、一人で帰れ」



  淡々とした口調で、兄がそう言うと、それを聞いたアリサの顔が、先程までの笑顔が嘘のように氷点下まで下がった。

  そんな妹の様子を気にも留めず、青年は、畑の隅に置いてあるモーグを入れる為の取っ手の付いたケースの元へ向かった。

  ケースの元へたどり着くと、同時にモーグは畑を耕し終え、ケースの前で自動停止した。



  青年がモーグの背中から、未だ青く光るクリスタルを外し、大切そうに腰に付けたポーチに仕舞う。

  ポーチの中には、同じ様なクリスタルが、数本、入っている。しっかりと、ポーチの口を留める。

  次にケースを開け、中から鳥の羽を束ねて柄を付けた小さなハタキを取り出す。

  そのハタキの柄先に、青く光る丸いクリスタルが付いている。

  モーグを拾い上げ、パタパタと、ハタキをかける。

  すると、モーグは黄色い光に包まれた。

  やがて、光が消えると、モーグに着いていた土や汚れが、一切、消え、まるで新品の様にキレイになった。



  青年が、モーグをケースに仕舞う。

  そして、ハタキも仕舞おうとし、つい、ハタキの柄先を見てしまう。

  クリスタルに宿っていた青い光は完全に失われている。

  青年は半ば諦めたように小さく苦笑し、丁寧な手つきで、ハタキをケースに仕舞う。

  「兄様!」

  大きな声で呼ぶ、妹の声に振り向く。

  もう、何度目かの、ふくれっ面を見る事となった。

  「まさかとは思いますが、歩いて行く気ですか?」

  アリサの声が怒りに満ちている。

  「ーー転移ポータルで行くよ」

  相変わらず、青年は淡々とした声で答える。

  「遠いじゃないですか!ここから転移ポータルまで、一体、どの位の距離があると思っているのですか!」

  アリサは息を呑み、悲鳴に近い声を上げた。

  「まさかの、まさか、ですが、ここに来るまでも、歩きだったのではないのでしょうね……」

  大きく見開いた目で、睨むアリサの声が怒りで、微かに震えている。

  「い、いいじゃないか、いい運動にもなる」

  青年は妹の激しい怒りに戸惑いながら、引きつった笑顔を浮かべ、何故だか、ジリジリと、後ろに下がってしまう。

  「ーー何故、使用人かクオンに送って貰わなかったのですか?」

  大地に響き渡るのではないかと、思う程、低く、怒りに満ちた声はまるで魔王のようだと、青年は思った。



  見る見るうちに、アリサから紅い熱気が立ち上がり、空気を揺らしている。

  熱風が吹き始め、段々と強くなってゆく。

  「お、落ち着け、アリサ!」

  トーヤはアリサを宥めようとし、両手を胸の辺りに上げ、手の平を見せながら、ゆっくりと、後ろに下がる。

  その姿は『どうどう』と荒れ狂う牛を、宥めようとする牧場主のようだ。

「使用人とクオンは父上の用事を頼まれてこの所、忙しそうだっただろう!悪いじゃないか!」

  青年が慌てて、弁解を述べる。

  「ーー悪いですって……」

  熱風が、ぴたりと止む。



  青年はアリサが納得し、矛を収めたと、思い、胸を撫で下ろす。

  妹に近づこうと、一歩踏み出そうとしーー

  「悪い……」

  アリサがボソッと、呟く。

  「エッ、何だって?」

  兄の耳には、届かなかったらしく、妹に近づこうと、再び、一歩踏み出そうする。

  「ーー悪いのは、兄様ですわ!」

  先程とは、比べ物にならない位の爆風が、青年に襲いかかった。

  「使用人の皆はいつも、言っていますわ!自分達はスプライト家の使用人としての誇りがあると!トーヤ様の力になりたいと!もちろん、クオンだってそうですわ!兄様はその誇り穢す不届き者です!」



  力強い口調で、そう言い放ったアリサからは爆風に加えて、紅い熱気まで交じり始めた。

  息苦しく、もう、目も開けていられない程だ。

  青年ーーいや、トーヤは、覚悟を決めた。

  一大決心。

  もう、これ以外、方法がない!

  腹をくくる。

  そしてーー。

  「ごめん、アリサ!俺が悪かった!」

  ーー素直に謝った。

  すると、紅い熱気も爆風もピタリッと、止んだ。

  「分かって頂ければ、よろしいですわ」

  アリサは天使の微笑みをトーヤに向けた。

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