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第37話 魔力の視える青年

  小柄な少女だ。

 腰まで届く黄色の長い髪を二つに束ねて結っている。 大きな目はグリーンフォックスリスを捕らえており、キラキラと輝いている。

 低い鼻に、小さな口に薄い唇。血色が良く、活発そうだ。

 水色の薄手のジャケットに、白いシャツ、ジャケットと同じ色をした丈の短いスカートにベージュのブーツ。左手にはカラフルな紐を束ねたブレスレットをつけている。

 元気娘を絵に描いたら、こうであろうと定した少女である。

 

 その少女は長い髪を結うかのごとくグリーンフォックスリスの五本の尻尾を編むように交互に交差させ、一本の縄状にしている。

 しかも指を触れずにだ。

 どういう意味かというと、彼女は音楽隊を束ねる指揮者が指揮棒を振るようにリズミカルに指を振り、それに合わせて尻尾が絡まったり、解けたりしている。


  ーー魔法だ。視たところ風魔法のようだが、色が若干、奇妙だ。

 風魔法のオーラに白のオーラがほんの少しだけ混じっている。

 白は治癒魔法のオーラの色だ。

 クオンのように二種魔法使いの可能性が高い。

 二種魔法使いなんて珍しく、そうそうお目にかかれないのだが、アズマスには名門と名高い魔術学校があり、おそらくそこの生徒だろうと、トーヤは思っていた。

 

  ーーっつーか、また風魔法か!昨日に引き続き、本日も風魔法厄日か!ふざけんなよ!

 トーヤが内心で毒づく。


「昨日から絶賛動物愛護期間中なんだ。俺のグリーンフォックスリスを虐めるなよ」


 トーヤが一歩、歩み出る。

  だが、少女は怯むそぶりすら見せない。

 指をくるくると回し、五本の尻尾、全て編み込むと、グリーンフォックスリスの頭を撫で始めた。


「ねぇ、この子、なんて言うの?」


  「ハァ?」


  「だから、名前よ。あなたのリス、なんでしょ」


  ーーああ、なるほど、そういう事か。


 ようやく合点がいった。ずっと慌ただしくて、名前をつけるのを忘れていた。

 責任持って面倒を見ると言いつつ、なんと薄情で無責任なことかと、我ながら呆れるばかりだ。

 トーヤはグリーンフォックスリスをまじまじと見つめる。

 グリーンフォックスリスは頭を撫でられながら、硬直していた。されるがままだ。

 

(ーーごめんな)


 可愛そうなグリーンフォックスリス。

 トーヤは飼い主として未熟な自分を悔いた。

 早く助けなければ……。


  「名前は『リーフ』だ。いいから、早く返してくれ」


 トーヤの言葉に少女は目をぱちくりさせる。

 一方、グリーンフォックスリスこと『リーフ』は、まんまるお目めをこぼれんばかりに見開いている。

 すると、少女がフッと振り上げた腕を下ろした。

 次の瞬間、リーフの体はまるで操り人形の糸が切れたように崩れ落ちたが、間一髪のところで体制を立て直し、なんとか石畳みに激突するのを免れた。

 

「リーフ!」


 無事、着地出来たと、ホッとしているリーフが主人の声にハッと顔を上げた。

 主人の顔を見るや否や、駆ける。

 地面を力一杯、蹴り、主人の胸に飛び込んだ。


 トーヤはリーフを受け止めると、まずは頭を撫でてから次に喉元をくすぐった。

 リーフがゴロゴロと喉を鳴らす。


「きゃー!めっちゃ、かわい~!」


 少女が黄色い声をあげる。

 より一層、瞳をキラキラと輝かせている。

 その声にリーフがびくりっと体を震わせた。

 トーヤは喉元をくすぐるのを止め、背中を撫でてあげた。

 リーフの体の震えが徐々に落ち着く。


「その子はあなたの事が本当に好きなのね」


 少女が微笑む。

 

「なぁ、どうしてリーフを解放したんだ?」


 トーヤが問うと、少女は何を言っているんだコイツは?といった様子で小首を傾げた。


「だって、あなたが返すように言ったじゃない」


 少女の回答にトーヤは面食らう。

 確かに言ったが、まさか本当に返してくれるとは思わなかった。

 いや、返してくれてありがたいのだが、こう素直だと逆にどうすればいいかわからない。

 まぁ、リーフを捕まえた奴を素直だと褒めるのは釈然としないが……。


  「それでは自己紹介!」


 高々と右手を挙げた少女が弾んだ声で告げた。

 いきなり何事かと困惑し、トーヤとハルダスが顔を見合わせる。

 リーフすら不安げに主人の顔を見上げた。


「改めまして、私はシキ・オオメ・リーと申します。以降、お見知り置きを」


 シキが頭をさげた。

 顔を上げるや否や、にっこり微笑む。


「トーヤ・ス・アトリ・スプライト殿、ハルダス・フィン・セオ殿。あなた方を待っておりました」

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