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第35話 魔力の視える青年

  「おはようございます。トーヤ様」


  格納庫に駐機されているナガトが主人に挨拶した。

  直立不動の姿勢で佇むナガトをトーヤと先生が見上げる。

 

  「おはよう。ナガト。よく眠れた……っていうのは可笑しいか……調子はどうだ?」


  「お気遣いありがとうございます。好調です。昨日、ドワーフの皆さまに外装をメンテナンスしていただいたおかげでもあります。私自身の方でもバージョンアップとアップデートをいたしましたし、全て万全の状態です」


  「んッ?そのバージョンなんちゃらとやらをすれば、お前の調子が良くなるのか?」


  「はい。ですが、それだけではございません。異常の発見や覚えたことを整理したり、覚えたりなど、私の進化には欠かせない作業でございます」


  昔の技術なのだろうとトーヤは思った。

  それのおかげでナガトが快調だというのならそれに越したことはない。

  中身のことはルク達にもよく分からないらしく、AIとかいうナガトの中身が壊れればどうしようもないらしい。

  ナガト自身がメンテナンスを出来るのであれば、これほど有難い話しはない。


  「それはすごいな」


  トーヤの感嘆の声にナガトがフフッと笑う。


  「ありがとうございます」


  ナガトの声は本当に嬉しそうで、まるで人間と話しをしているような錯覚におちいる。


  「トーヤ君。そろそろ僕を紹介してくれないかい?」


  先生はゴホンッという咳払いで己れの存在をアピールしてからトーヤを小突く。

  ああ!そうだった!と、我にかえる。別に忘れてた訳じゃないが、ナガトの賢さと愛らしさに、つい悦に浸ってしまった。

  その結果、先生を無視する形になってしまったのだ。


「ーーいいんだよ。そういうヤツさ。君っていうヤツさぁ。僕という至高の存在をさぁ、無視しちゃってさぁー」


  先生は不貞腐れたようにブー垂れる。

  わざとらしく明後日の方に顔を向ける先生。そんなワガママな子どものような態度に対抗するかの如く、トーヤもわざとらしく大きなため息をつく。


  「何、いじけてるんですか。いい歳してみっともないですよ」


  呆れたようにトーヤは言った。

  それが癪にさわったのか、先生が不満げなジト目でトーヤを見る。


  「どうせ僕は年寄りですよぉ。なにせクォーターエルフですからジジイですよ。ジジイ」


  それからやれ、半端もんだの、若作りだの、心は永遠の十七歳だの、ぶつくさ文句を垂れ出し始めた。

  いつもながら面倒な人だとトーヤは心の中で嘆息した。

  先生は学者としては尊敬に値する人なのだが、性格に多少、難ありだった。

  中身は十七歳どころか、ワガママな五歳児並みだとトーヤは思う。

  ただ本当に考古学者としては非常に優秀であった。

  地下に埋もれた遺跡の発見、空に浮かぶ島の湖の中に沈んだ遺跡の発見、深い森の中に隠された古代ロボットの格納庫の発見などしてきたのだ。


  その発見の全てが国にとっての利益になったとは言えないが、古代ロボットの格納庫の発見と地下に埋もれた遺跡で発見した豆の種はゴウト国に多大な潤いを与えた。


  先生は古代ロボットよりも古代人の文化や歴史、人々の日々の暮らしのほうが興味がある人物で、ロボット……というよりも、戦争の道具全般を嫌っているが、古代ロボットは今は無き技術で作られており、現在のロボットよりも優れている場合も多い為、どの国でも重宝されているのだ。

  しかし保存状態が悪く、使い物にならないものが多く、時間と費用と労力の割には採算が取れない場合がほとんどだった。


  実はいうと先生が古代ロボットの格納庫を見つけたのは偶然だった。

  遺跡の発掘作業中に隠し扉を発見し、開けてみたら古代ロボットが何十体とあったという訳だ。

  もっとも使い物になったのは、三体のみであったが……。


  「あー、あれだ。紹介が遅れたがこちらは考古学者のハルダス・フィン・セオ先生だ」


  仕切り直そうと、トーヤがわざとらしく少し大きめの声をあげた。

  それを聞いたハルダスが一歩、前へと踏み出す。


  「君のご主人に紹介に預かったとおり、しがない学者だ。以後、お見知り置きを……」


  うやうやしく頭を下げるハルダスをトーヤは一瞥いちべつした。

  トーヤは喉元まで言葉が出かかったが、思い留まる。


  ーー目くじら立てるほどではないのだ。


  寧ろ、一々、気にする己れがおかしいのだと、トーヤは自らに言い聞かせる。

 

  ナガトはロボットなのだ。頭をさげたのはおそらく、ナガトを作り出した古代人に対する敬意だろう。ハルダスが〝物〟扱いしたからといって、自ら名乗らなかったからだといって、責めるほうがおかしいのだろうと……。


  「お初、お目にかかります。私は八八艦隊機、ナガトと申します。こちらこそ、よろしくお願い致します」


  ナガトが言った。実に落ち着いた声だった。

  ハルダスは何も言わず、じっとナガトを見上げている。


  「なぁ、トーヤ君。君、これから君の主君のところに行くんだろう」


  何を唐突に……と、トーヤは疑問に思う。


  ーー嫌な予感がする。


  「仕方がないから僕も行ってあげよう」


  そう言ってハルダスがニヤリと笑った。


  「なぁーに、遠慮はいらないさ。旅は道連れ、世は情けっていうだろう?僕も丁度、君の主君にお願いしたい事があるんだよねぇ」


  いきなり何、言ってるんだこの人は!この人のお願いはロクなことがない!


  ーーまさか!


  「昨日、発見した南の遺跡が関係ですか?」


  ハルダスが新しいおもちゃを手に入れた子どものような笑みを浮かべる。


  「さすが、トーヤ君。察しがいいね!いや~!かなり保存状態が良さそうなんだよ!ほとんど埋まっている状態だから期待大だね!君も気にいると思うよ!」


  「施設ですか?それとも集合住宅ですか?」


  すかさず、トーヤが尋ねる。


  「う~ん。まだはっきりとは分からないけど集合住宅ぽいね。だから僕も楽しみで、楽しみで!」


  「それは興味深いですね!」


  「だろう!」


  つい声が弾む。古代人の住居跡地。はるか昔にそこに存在し、我々と同じように日々を生きて来たという証。


  実は古代人は魔法が使えなかったということが今までの調査で分かっている。


  ハルダスからその話しを聞いた際、トーヤは雷に撃たれたかと思うほどの衝撃を受けた。

  信じられない!魔法無しで暮らすなんてまさにおとぎ話の世界だ!ーーと……。

  その話しを聞いてからだ。トーヤが古代文明に興味を持ったのは……。


  ーー魔法を使えない生活。


  ーー魔法が無い世界。


  魔力量が少なく、たいした魔法も使えない自分。


  劣等感に苛まれていたトーヤはすぐさまハルダスに頼んで遺跡発掘調査に同行した。

  子どもだったトーヤはその魅力にハマり、ハルダスたちについて回った。


  だが、その楽しい日々はすぐに終わりを迎える。


  ショウイと共に隣国に送られたからだ。

  遺跡発掘はゴウト国に帰って来てから趣味の一環として参加している。

  本業としてやりたいのはやまやまだが、ウェルデュ・セン・キィーファ・フリーデン家に仕えるという先祖代々の使命がある。よってハルダス教授のような考古学者になるのは不可能だとトーヤは諦めていた。

  でも、まぁ、隠居したら老後の趣味としてハルダスのように砂や埃にまみれながら遺跡発掘をするというのがトーヤのささやかな夢であった。


  「だからさぁー!君からもショウイ君に頼んでよ。南の遺跡の発掘許可と費用をさぁ」


  ハルダスが軽い口調でさらりと言った。

  その飴玉、一個、ちょうだい!と、言わんばかりの口調で軽々と……。

  途端、トーヤがピタッと静止した。


  場の空気が変わる。


  「ーー駄目です。軍施設跡ならともかく、居住地跡の発掘なんて無理ですよ」


  トーヤはかぶりを振る。それを聞いたハルダスが『ハッ!』と鼻で笑う。


  「軍施設跡なんてつまらないね!古代人の日常生活の調査こそが最も重要で、我らの進むべき未来を指し示す羅針盤だというのに!」


 憤慨するハルダスをトーヤがなだめようと声をかける。


  「お気持ちは分かりますが、優先すべき事項というものがありますので……。どうかご理解下さい」


  トーヤが頭をさげる。

  早急に対策すべき事態だ。密猟者たちによって森は甚大なる被害を受けた。

  スプライト家の領土だけの問題だけではすまされない気がする。

  この件はゴウト国に暗い影を落とすような……。トーヤはそんな気がしてならなかった。


  「分かったよ。君がそこまで言うのなら、報告だけにしておくよ」


  ハルダスがしぶしぶ言った。

  今はセタ遺跡の発掘にかかりきりだからね。ひと段落するまで待ってあげるよと、ハルダスが呟く声がトーヤの耳にも届いた。


  (んっ?気のせいか……)


  なにか聞こえた気がしたが……。

 

  「キュイーン」


  いや!気のせいではない!

  その証拠に小さな緑色のふわふわとした塊が近づいて来る。


  「キュイーン!」


  地面を蹴り、飛び上がったグリーンフォックスリスがトーヤの胸に飛び込む。

  ふわふわの体をしっかりと受け止めるトーヤ。

  トーヤの胸に頭を擦りつけている。

  昨日、ぐっすり眠っていたため、部屋のベッドに置いて来たのだ。

 

  「そうか、お前、俺を探しに来たのか」

 

  トーヤが喉元をくすぐる。

  グリーンフォックスリスが嬉しそうに喉を鳴らす。


  「なんだい?君、ペット、飼い始めたのかい?」


  ハルダスが珍しいものを見るような目でトーヤとグリーンフォックスリスを見ている。

 

  「なりゆきでそうなった感じですが、最後まで責任はとるつもりです」


  トーヤがグリーンフォックスリスの頭を撫で始める。


  「ふ~ん」


  そう言ってハルダスが興味なさそうに空を見上げた。


  「そろそろ朝食が出来上がっている頃だね」


  「戻りましょうか」


  「そうだね」


  トーヤがナガトを見上げる。


  「ナガト。俺はしばらく留守にすることになった。すぐに戻るつもりだから心配しなくていい。ここで待ってくれ」


  ナガトはトーヤの言葉を真剣に聞いている。


  「ーーかしこまりました」


  少しだけ考え込むような間があったが、ナガトは同意してくれた。

  声に寂しさが滲んでいるのをトーヤは気がついたが、グッと堪える。


  「行って来る」


  「いってらっしゃいませ」


  トーヤとハルダスがナガトに背を向け、屋敷へと戻った。

 

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