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第34話 魔力の視える青年

霧が出ている。

朝の澄んだ空気とひんやりとした霧が肺の中に流れ込む。

辺りを包む白い霧の中を二人は無言で歩く。


「さてと、ここまで来れば誰にも聞かれないだろう」


先生がそう言って大きな広葉樹の前で立ち止まった。

幹に背中をつけ、もたれかかる。


「良い樹だろう。君の曾祖父さんが生まれた記念に植えた樹だ」


上を見上げた先生が木の枝葉を見つめながら懐かしそうに目を細める。


「あの時代はまだ隣国との小競り合いが激しくてなぁ。久しぶりの吉報で皆でえらく喜んだもんだ……」


先生が感慨深げに言った。

トーヤは何も言わず、思い出に浸る先生の話を聞いていた。

霧のせいかもう少しで夏だというのに、少し肌寒く感じる。


「僕は戦争が嫌いだ。ーー過去の遺物は三度の飯よりも、うららかな春の惰眠よりも好きだと断言出来る」


もう先生は上を見上げてなどいない。

ただ真っ直ぐトーヤの目を見すえる。


「だが、その産物であるロボットは好きではない」


トーヤは体がより一層、冷えるのを感じた。

いつもおちゃらけて飄々としている先生が妙に真面目くさるから、冗談に聞こえない。

いや、冗談ではないのであろう。

トーヤの脳裏にナガトの姿と声が過ぎる。


「勘違いしないでくれよ。好きではないが、不要だとは思っていない。むしろ、必要不可欠な物だと僕も思っている。多くの人間が考えているようにね……」


先生が力なく笑う。


「先生。ナガトは……ロボットはただの兵器ではないと俺は思います」


思わず声に力がこもる。

先生は頷く。

ーーそして。


「ーーそうか……」と、言って少し寂しそうに笑った。

それから少しの間、なにか思案を巡らした後、口を開く。


「決めた。今から君のロボットに会いに行くとしよう」


「なッ!なにを突然!今しがた、ロボットは好きじゃないとおっしゃったではありませんか!」


「ンッー。なぁにー。君をそこまで言わしめるロボットに会いたくなっただけさ。それこそアレかい?アリシア達には会わせられて、僕には会わせられないのかい?」


「いいえ……そういう訳では……ありません」


歯切れ悪く言葉を発するトーヤに先生はニヤリと笑いかける。


「別になにもしないさ。ただ会って話をするだけだから安心してくれ」


昨日の夜、今後についての話がひと段落した真夜中、突如、当主、アリシアが「トーヤが連れてきたロボットが見たいわ」と、言い、急遽、ナガトを見せる事態になったのだ。

ナガトとアリシアの対面は互いの自己紹介とたわいもない会話をしただけで滞りなく終わった。

屋敷に戻った後、アリシアは「素直な子ね。私は好きよ」と言い、トーヤは嬉しく思ったのだった。


「承知いたしました。では案内します」


トーヤが頭をさげる。


「それでは頼むよ」


二人はロボットが駐機する格納庫へと向かった。


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