第32話 魔力の視える青年
「おはようございます。ーーというのはおかしいですよね……。皆様、お休みになられていらっしゃらないですから……。あえて言うなら、お疲れ様ですです……か?」
オーキュペティーが小首を傾げて言った。
「それに今から召し上がるのは朝食と言ってもいいのかしら?なにせ、皆様、夕食を召し上らなかったですし……。あっ!ですが、軽食は召し上がっていらしたからアレが夕食という事になってしまうのかしら?でもあれだけじゃ、お腹空きますわよね。でしたら朝からがっつり、ステーキなんていうのもありなんじゃないかしら!!」
「ねーよ!」
「うきゃんッ!ト、トーヤ様!お、お疲れさまですでした。でじた!私になさいます?ごはん、ステーキになさいます?それともお風呂は好きですか!」
「落ち着け。色々、混ざっててどこをどう、つっこめばいいのやら……」
「とりあえず、私にしましょう!」
「何をどうといあえずなのか全く意味不明なんだが……」
トーヤは心底疲れたようにため息をついた。
「トーヤ様、今回の件、ショウイ様のご報告に行かれるのですね」
オーキュペティーが不安げな顔で言った。
心配などする必要などないのに……と、トーヤは思った。何故かオーキュペティーはショウイが苦手らしく、ウェルデュ・セン家を訪ねる際は口には出さないが、いつも不安げな顔をするのであった。
勿論、主君であるショウイがオーキュペティーを邪険に扱ったことはない。
なのでトーヤは不審に思い、訊ねたことがあったのだが、『ショウイ様は私にもお優しいですし、不平不満はありません。ーーただ、その、言いづらいのですが……なんとなく怖いのです。すみません』と言った。
謝ることはないと、トーヤはオーキュペティーに告げた。
獣人の勘なのか、生理的に受け付けないのか分からないが、無理なものは仕方がない。
世の中にはどうしようも出来ないことがあるのだ。
オーキュペティーがショウイの前で無礼な発言や行動をした事は無いし、おそらく、これからも無いであろうから左程、問題はない。
側から見れば主君の君主を前にして必要以上に緊張し、強張っているようにしか見えないだろう。
ショウイは気さくな人だとは言っているのだが、どうしても緊張するらしい。
「ああ。まだ詳しいことは分からないが、一旦、報告に行く。他国からの諜者の可能性もあるからな」
森の周辺と狼型のロボットの四肢の調査の指揮はクオンに代理を頼むことになった。
クドラクが補佐をしてくれるので安心だ。
ウェルデュ・セン家に報告後、すぐに戻るつもりでいる。
「すぐにお発ちになられるのですか?」
「ああ。メッセージは飛ばした後、すぐに返信が来てな。直接、話しを聞きたいそうだ」
「そうですか……。では朝食はどうなさいますか?皆さま、軽食しか召し上がっていませんですし……」
オーキュペティーが申し訳なさげな口調で、もじもじしながら言った。
だが、次の瞬間、なにか閃いたのか、カッと目を見開らく。
「例えばステーキとか!」
「どんだけステーキ、喰わせたいんだよ!」
「フッ……。オーキュペティーは肉食系女子ですから、肉に対する情熱は熱く、意識は高いのですよ。ーーありとあらゆる意味でね」
「朝からそういうネタはステーキ並みに胃にもたれるな」
遠くを見て黄昏れるオーキュペティーをトーヤは怪訝な目を向ける。
「ーーしばらくステーキを食べる気が失せたわ」
トーヤが深いため息をつく。
「あれ?食欲、無いんですか?トーヤ様」
オーキュペティーがきょとんとした顔で覗き込む。
自分が主因だとは思っていないようだ。
「まぁな……」
「それはいけないです!一日の始まりは朝食からなのですよ!そうだ!オーキュペティーが腕によりをかけてオーキュペティー特製ステーキサンドイッチを作ります!」
瞳を爛々と輝かせ、やる気をみなぎらせるオーキュペティー。
非常に断りづらい状況だ。
オーキュペティーの事だ断ればきっとしょげる。
ーーならば。
「ーーステーキはともかく。軽く食べてから行くとするかな」
トーヤの言葉にオーキュペティーが顔を綻ばせる。
「かしこまりました!すぐにザイルに伝えますね!」
「ザイルの邪魔はするなよ。オーキュペティーは大人しく給仕をーー」
トーヤが言い終えぬうちにオーキュペティーは厨房へと走り去って行ってしまった。
オーキュペティーの事だ。シェフであるザイルと一悶着起こすに決まってる。
トーヤが深いため息をつく。
行くしかない。
厨房へと向かった。




