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第24話 魔力の視える青年

*誠に勝手ながら、しばらくの間、月一更新となります。ご迷惑をおかけ致しますが、今後とも宜しくお願いします。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンが木々の間を抜い走る。

  トーヤは後ろを時々、後ろを振り向き、狼型のロボットの様子を伺う。

  お得意の風の鎌を発動させる気配は無く、ただひらすら追いかけて来ている。

  図体の割に素速いな。と、トーヤは思っていた。ロボットの操縦は魔力消費が激しい。その上、風魔法の発動と来たら、操縦士は疲弊しているはず。

  それを証拠に黒鹿毛くろかげ色のユニコーンと狼型のロボットとの距離が少しづつ離れ始めている。

  このまま、真っ直ぐ進めば、大木と細い木々が入り組み、木の根が地面から隆起した足場の悪い場所に入る。そこで、このロボットを撒く。ルク達と合流し、工場の敷地から緊急事態の際に打ち上げる狼煙を上げる。

  スプライト家の屋敷から狼煙はよく見えるだろうから、すぐに気が付くはずだ。

  母の事だノインから状況を聞いてすぐさまフリューデン家に人を出し、こちらにも小隊を出してくれたであろう。

  狼煙を見た母が追加で兵をーーなどと、トーヤが考えを巡らせている時だった。

  背後から魔力の気配を感じ、振り向く。

  すると、狼型のロボットは口を大きく開いている。周囲に歪みが見えた。水に浮かんだ油のように、ゆらゆらと空中を漂いながら、狼型のロボットの口元に吸い寄せられてゆく。おそらく風魔法を発動させる気なのだろう。狼型のロボットの空間を切り裂かなくても発動出来る事にトーヤは驚いた。

  このロボットの操縦士は随分と優秀らしい。なのに、仕事はコソ泥という好待遇にトーヤは、ほくそ笑む。いや、笑っている場合ではないが……と、思えば、思うほどなんだか、おかしくなって笑みがこぼれてしまう。

  狼型のロボットの口元に風が集まり、圧縮された風は回転しながら徐々に丸くなってゆく。まるで小さな竜巻のようだ。

 

  (小さいが、威力はあるな。かすっただけでも、ただでは済まない)


  森を駆ける狼型のロボットの風の塊が向かい風を受け、ますます大きくなってゆく。


  「ガヴゥゥヴゥゥゥ……」


  突然、狼型のロボットが唸り声をあげる。すると、風の塊はさらに増大した。


  (どういう事だ?今の唸り声が魔法詠唱だったのか!?)


  トーヤは今、目の前に起こった事が信じられなかった。


  (そもそもロボットが獣みたいな声を出す事、自体がおかしいだろう!)


  見る見るうちに大きくなっていく風の塊。もし放たれたら、回避するのは難しいだろう。

  段々と辺りの木々が密集しているのが目立ち始めた。大小様々な太さの木々が茂り、若々しい青竹が所々に生えている。地面からは木の根が隆起し、足元が悪くなり始めている。

  だが、狼型のロボットから逃げ切るには視界を遮る木々も障害物になる木々もまだ少なすぎる。振り切るのは不可能だろう。

  さて、どうするかと、トーヤが考え込んでいると、目を疑う出来事が起こった。

  ガツンという金属に何か硬い物が勢いよくぶつかる音が響く。

  それを皮切りに次から次へと、つるりとした茶色の小さなボールのような物が狼型のロボットに投げつけられる。

  ダメージは全く受けて無いようだが、鬱陶しいのであろう。狼型のロボットは立ち止まり、唸り声をあげた。

  それに驚いたのか、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンが急に立ち止まり、いななきながら、後ろ足で立ち上がる。上半身を弓形に大きく反らす。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンの思いがけない行動にトーヤはバランスを崩し、振り落とされてしまった。

  地面に転がり落ちたが、咄嗟に受け身をとったので、大事には至らなかったのは、幸いだった。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンはトーヤには目もくれず、一目散に走り去って行く。

  入り組んだ森の中へと消えて行った黒鹿毛くろかげ色のユニコーンの後ろ姿を見送ると、トーヤは急いで立ち上がり、投げつけられる物が、どこから飛んできているのかと、目で追う。

  すると、赤茶色の長い毛の猿がいた。

  猩々《しょうじょう》だ。

  猩々《しょうじょう》達が、木の枝に立っており、硬い木の実を狼型のロボットに投げつけている。

  ステビアナッツという木の実だ。

  成人男性の握り拳ぐらいの大きさの雫型の木の実であり、石のように硬い外皮に覆われている。実の先端を右に捻るように力を加えると、あっさりと先端部分が外れる。中には芳醇な香りの甘い実が詰まっており、猩々《しょうじょう》達は石で木の枝の先端を潰して平たくしたお手製のスプーンで中身をすくって食べていた。

  猩々《しょうじょう》だけでは無くて、人間にも好まれており、中身はそのまま食べるだけでは無く、ジャムや酒などに加工され、外皮は彫刻を施した食器などの工芸品として重宝されていた。

  猩々《しょうじょう》達はステビアナッツの殻に重石を入れているらしく、狼型のロボットの装甲に当たるたびに重々しい音が響き渡る。

  ステビアナッツの殻が狼型のロボットに次から次へと、降り注ぐ雨のように投げつけられる。

  すると、狼型のロボットが、水に濡れた犬のようにブルブルと体を震わせる。

  投げられたステビアナッツの殻が弾き飛ばされた。

  それを見た猩々《しょうじょう》達が短い悲鳴をあげ、隣の木から木へと枝を伝い、散り散りになって逃げ出した。

  逃すか!と言わんばかりに鋭い爪で空中を切り裂く。風の刃となって木の枝を切り落とし、幹をぐる。

  猩々《しょうじょう》達の絹を裂くような悲鳴が辺りに響く。

  逃げ遅れた一匹の猩々《しょうじょう》木の枝と一緒に真っ二つに切り裂かれた。

  左右に別れた体から臓物と鮮血が溢れ、落下する。無惨にも臓物と鮮血が地面に飛び散る。赤茶色毛と赤い血。今はどちらも明るい赤色だが、血はいずれ、赤黒く変色してしまうだろう。変わる事の無い赤茶色の毛が猩々の死を物語っているようで、トーヤは腹の底から込み上げてくる嫌悪に吐き気を催すほどだった。

  狼型のロボットがトーヤの方を向く。

  風魔法は十分な大きさになっており、一人どころか、ルクの工場ぐらいなら軽く吹き飛ばすほどの威力があるだろう。少し距離はあるとはいえ、生身の人間が避けるのは不可能であろう。


  (厄日どころか、命日になるなんて、思いもよらなかったな。まぁ、俺がロボットに乗れる日が来た事、自体が奇跡みたいなものか……。つかの間の夢だったが、良い冥土の土産になった。ーー約束、守れそうになくて、ごめん。本当に心残りばかりだな)


  風が吹く。落ちた葉を巻き上げる。風が吹き上がり、大気を揺らし、狼型のロボットの鼻先にある風魔法に集まってゆく。


  「ワォーーーンッ!!」


  更に大きくなった風の塊を狼型のロボットが遠吠えに似た音と共に放った。


  トーヤが覚悟を決めた時だった。


  ーー目の前が真っ赤に染まる。

 

  ーー自分の血の色では無い。赤い色。複数の長い紐のような物が重なり合い、壁のようになっている。

  そういえば、何かが近づいてくる音が聞こえてきた気がする。そう聞き覚えのある機械音。トーヤがゆっくり、振り返る。


  「ーーなんか、これ、さっき見たぞ」


  二度ある事は三度あると言うが、さすがに今日はもう勘弁してほしいと、トーヤは心の底から思った。

 

  「ご無事ですか?トーヤ様」


  ナガトの姿がそこにあった。

 

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