表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/46

第23話 魔力の視える青年

  狼に似た型のロボットはスピードを落とし、赤い実がなる木の周囲をゆっくりと動き回っている。

  時々、残骸を踏み潰し、蹴り飛ばしたりするが、気にするようすも無い。

  頭がいが割れるビギッバリという音が響く。時々、脳みそが潰れて弾け飛ぶ、ビチャッンという生々しい音まで聞こえてくる。

  イヤな汗がじっとりと毛穴から滲み、体が強張る。岩陰からはみ出ないよう、ピッタリと体を沿わせ様子を伺う。


  (密猟者にしては、重装備すぎる。見かけないロボットだ。少なくとも、ゴウト兵のロボットじゃない。だとしたら、隣国の密偵か?)


  真っ先に頭に浮かんだのは、マーフルス国だったが、その考えはすぐに打ち消した。


  (仮に我が国を攻めるのなら時期が早計だ。先頃の戦争に勝ったとはいえ、連戦続きで、兵も憔悴しきっているはず。幾ら勢いのあるマーフルス国でといっても、今、スールドロウ国の傘下にあるゴウト国に、ちょっかいを出す程、馬鹿じゃないだろう)


  トーヤの主君であるキィーファ・フリーデン家が治めるゴウト国は、マーフルス国とスールドロウ国にの間にある小国である。

  小国であるがゆえに、次期当主となるショウイ・セン・キィーファ・フリーデンを人質として差し出さなければならなかった。トーヤもショウイの御付きとして、共に八歳から十一歳まで、マーフルス国で過ごした。

  人質とはいえ、一国の次期当主とその御付きだ。連れてきた数人の従者共々、丁重に扱われた。

  しかし、所詮は人質。肩身は狭く、子どもだったトーヤは故郷が恋しく、夜中に人知れず、声を殺して泣く日もあった。

  寂しく、辛く、悔しく、そんな事を思う自分が腹ただしかった。

  一番、辛い思いをしているのは、ショウイ様のはずなのに、こんな自分を気にかけ、お気を使わせてしまっている。トーヤは、それが何よりも辛かった。


  「私の為にすまない」


  ショウイは口癖のように御付きの者に言っていた。御付きの者達は、もうそのような事をおっしゃらないよう、気になさらぬようにと、皆、口を揃えて言っていたが、それでもショウイはやめなかった。

  月日は流れ、トーヤとショウイは十一歳になった秋のある日、マーフルス国での人質生活は終わりを告げた。

  やっと国に帰れると、喜んだのも束の間だった。

  次はスールドロウ国に人質として送られる事となったのだ。

  ぬか喜びとは、まさにこの事だ。あの時の皆の落胆ぶりは凄まじく、今でもトーヤは夢に見て、うなされるほどだった。

  そんなこんなで、スールドロウ国で五年という歳月を過ごしたのち、やっと故郷であるゴウト国に戻ってこれたのだ。十六歳の春の事であった。

  色々、あったとはいえ、スールドロウ国のとの関係は今の所、良好である。

  現当主は気性の激しい性格ではあるが、こんな醜悪な上に卑怯な命令を下すような人物ではない。

  それどころか、横柄な態度で堂々とユニコーンと夜行鹿の角を献上するようにと、命じてくるはずだ。わざわざ、こんな面倒な真似をする必要もない。

  第一、ゴウト国を庇護する立場であるスールドロウ国が裏切ったとなれば、スールドロウ国に対する他国からの信頼は地に落ちる。近年、稀に見る早さで力をつけてきたスールドロウ国は政治面においても、戦争に強引な手を打ってきた。

  そろそろ、ここいらで、スールドロウ国は惨忍なだけではなく、実は慈悲深く、寛大な国だということを諸国に知らしめたいという思惑があるはずだ。こんな悪手は打つはずはない。

  よって、スールドロウ国の可能性は低いであろうと、トーヤは思った。

 

  (捕らえて尋問するしかないか)


  生身の人間がロボットに対抗するすべは、ほぼない。このまま、隠れつつ様子を伺いながら、追いかけるのが一番いいだろうとトーヤは考えていた。

  どんな攻撃をしてユニコーンと夜行鹿を殺したのかは分からないが、どちらにしろ、かなりの魔力を消耗しているはずだ。必ず魔力を補給する為にどこかに向かうはず。

  もしもその時、仲間がいなければ、クリスタルに魔力を補給する為、操縦席から降りるはずだ。

  生身の人間に対しての奇襲ならば、例え相手が凄腕の魔法使いであっても勝てる自信がトーヤにはあった。


  (ここは絶対に気づかれないように、慎重にーー)


  そう思った矢先の出来事だった。

  黄色い稲光が走り抜け、一本の槍のように、一直線に狼型のロボットに向う!

  このままでは、直撃だ!

  狼型のロボットが右の前足を振り上げ、鋭い爪で空中を裂く!

  空中の裂け目が風の鎌になり、目の前に迫る雷撃に衝突する!

  吹き荒れる風の音と雷鳴が響き、爆風が巻き起こり、森を駆け抜けて行く。

  爆風をやり過ごそうと、トーヤは目を閉じ、岩陰にしっかりと隠れる。

  風が土埃や木の葉を巻き上げながらトーヤの側を通りすぎて行った。

  やり過ごし、すぐに雷撃が放たれた方を向くと、そこには一頭の馬が立っていた。

  ごく普通の黒鹿毛くろかげ色の馬である。

  しかし、よくよく見ると、額から短い一本角が生えているのが分かる。

  その短い角から黄色い閃光が静電気のようにパチパチと鳴っている。

  どうやら、馬ではなく、珍しい黒鹿毛くろかげ色のユニコーンのようだ。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは頭を下げ、角を狼型のロボットに向ける。

  再び雷撃を放とうとしているようだ。

  それに気づいた狼型のロボットが大きく口を開けて、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンに向かって突進して来る。

  身の危険を感じた黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは、すぐさま、雷撃を放つ!

  雷撃が狼型のロボットに直撃する!

  しかし、魔力を溜める時間が不十分だった為、威力が弱く、全く効いていないようだ。

  狼型のロボットのスピードは全く落ちず、怯むことなく、向かって来た。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンが足に力を込め、大きく左に飛び跳ね、回避する。

  攻撃を避けられた狼型のロボットは、円を描くように地面を削りながら、方向を変えると、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンに向かって、またもや突進して来た。

  それを見た黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは、狼型のロボットから逃げようと、渾身の力を込め地面を蹴り、木々を避けながら駆ける。

 

  (ーークソ!今日は本当に厄日だ!付いていないどころじゃない!)


  なんと、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンが、こちらに向かって駆けて来ているのだ!

  このままでは、狼型のロボットを尾行しているのが、バレてしまう!

  見つかれば最後。地面に転がるユニコーンと、夜光鹿と同じ運命を辿るであろうというのは想像に難くない。

  なんとしても逃げなければ!だが、どうすれば!こうしている間にも、狼型のロボットと、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンが迫る。

 

  (こうなったら、やるしかない!)


  トーヤは覚悟を決める。大丈夫!心配ない!タイミングだ!チャンスは一瞬だ!見逃すな!トーヤは自分に言い聞かせる。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは、もう目と鼻の先だ。黒い影がトーヤの側を走り抜けようとする。

  ーー今だ!

  トーヤは地面を蹴り上げ、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンの首に抱きつき、背に跨がった。

  驚いた黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは、振り落とそうと、体を大きく揺さぶるが、トーヤはそうはさせまいと、しっかりと掴まり、バランスをとる。


  「おい!暴れるなよ!助けてやるから、言うことを聞け!」


  もっと激しく暴れようとしたが、狼型のロボットとの距離が徐々に縮まって来ている事に、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは気がつく。ここで争っていても埒があかないと、言わんばかりに黒鹿毛くろかげ色のユニコーンは大きく鼻を鳴らし、より一層、力強く地面を蹴って走る。


  「よしよし、いい子だ」


  トーヤが、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンのたてがみを撫でる。


  「いいか!俺がお前の目になる!俺が右にたてがみを引っ張ったら、右に!左に引っ張ったら、左に行ってくれ!それ以外は前進だ!障害物に気をつけろよ!」


  トーヤは体勢を低くし、大きな声で、黒鹿毛くろかげ色のユニコーンに言った。

  黒鹿毛くろかげ色のユニコーンがまた鼻を鳴らす。

  風を切り、森の中を駆けて行く。


  「どうやら今日は動物愛護の日らしい。やけに動物と縁がある」


  トーヤは、いつの間か上着の中に潜り込んだグリーンフォックスリスに話しかけた。顔をちょこんと出し、鼻をヒクヒク動かている。その度に細いヒゲがチョコチョコと動いた。グリーンフォックスリスの顔の毛が風になびく。その風が心地いいのか、気持ちが良さそうに「キュウ」っと鳴いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ