第22話 魔力の視える青年
トーヤは岩陰に隠れていた。大人二人が余裕で隠れられる程の大きさの岩だ。岩の全面にはびっしりと深緑色の苔が生え、大きな葉を茂らせた蔦がそれを覆うように巻きついている。
周囲には、同じくらいの高さの木々がはえており、苔と蔦に覆われた岩は完全に周囲の森に溶け込んでいた。
「キュゥー」
グリーンフォックスリスが小さな声をあげる。どうして遠くに逃げないのかと、不満げな様子だ。
トーヤがグリーンフォックスリスの首元をくすぐるように撫でると、いつものクセで、気持ち良さそうに目を細めてしまう。
しかし、ハッと我に返り、これではいけないと、首を横に振る。
そして、不服そうに小さく鳴いた。
「心配するな。ここから隠れて様子を見るだけだ。何もしないから、安心しろ」
小さな声でそう言うと、グリーンフォックスリスは安心したように「キュイン」と応えた。
(というか、何かしたくとも、出来ないんだけどな。ーー俺には何も出来ない)
攻撃魔法も防御魔法も使えない自分に何が出来るというのだろう……。トーヤは様子を伺う。まだ誰もいない。さっきと変わらず、無残な光景が広がっているだけだ。
もはや、地面に転がる肉の塊と化した夜光鹿とユニコーン。
今、トーヤ達の隠れている岩陰の周辺には、ユニコーンの死骸よりも夜光鹿の死骸の方が多い。
どちらにしろ、見ていて気持ちの良い光景ではないが、さっきの場所より、かなりマシだった。随分と広範囲に死骸が散らばっている。赤く染まる地面、四、五つのブツ切りになった脚、二、三つになった胴体、首も無惨に切られ、頭も切り落とされている。頭はさらに細かく切られおり、身体の中身も飛び出している。思わず、目を背けたくなる。
(逃げ回るコイツらを追いかけ回した末に切り刻んで殺したんだろうな。そして、殺した後、角を回収したんだろうよ)
こんなにも、切り刻んでいるのにも関わらず、角の生えている部分だけは綺麗に残してあった。丁寧に引っこ抜いたらしく、角の生えていた部分は自然に抜け落ちたように、ぽっかりと穴が空いていた。
小さな丸い空洞を思い出し、トーヤは奥歯を噛み締める。
(誰だか知らないが、このスプライト家の領土で好き勝手した落とし前は必ずつけてもらう)
思わず、岩肌に絡まる蔦を握りしめる。絡みついていた根が数本、ブチブチと切れる感覚が指に伝わる。その時、遠くの方から金属が軋む音が聞こえ、耳をすます。
音がこちらに近づいて来るのが分かる。
(ーー速い!かなりのスピードだ。一体、なんだ!密猟者のジープにしては異様な音だ。まさか!)
心臓の鼓動が早鐘のようになっている。口から飛び出しそうなくらいだ。
確認しなければ!そう思い、岩陰から上半身を乗り出し、様子を伺う。
金属の軋む音に加えて、擦れる音も聞こえきた。足の裏に振動が伝わる。近い!
その姿が見えるまで、そう時間はかからなかった。
木々の間を縫うように走り抜け、颯爽と現れた深緑色の機体。
それは狼に似た四足歩行のロボットだった。




