第21話 魔力の視える青年
トーヤは森の中を歩く。ナガトを見つけた森とは違い、歩きやすいのが助かった。
ドワーフが通っているおかげか、草があまり生えておらず、道も平坦だった。
「キュゥー」
肩に乗るグリーンフォックスリスが、不安げに鳴き、トーヤの顔に頬ずりした。
指の腹で頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。
可愛い供の姿に少しだけ心が和んだ。
クマに似た大岩を通り過ぎ、しばらく進むと、嫌な臭いが漂って来た。
ーー血と臓物と獣の臭い。
グリーンフォックスリスがブルリッと身を震わせ、全身の毛を逆立たせる。
牙を剥き出しにして、「シャー!」と威嚇するような声をあげた。
トーヤが落ち着かせようと、優しく頭を撫でる。依然として、全身の毛を逆立てたままだが、少し落ち着いたようで、牙を収める。
その様子を見て少し安心したが、密猟者か、なにかが、潜んでいる可能性もあるので、気を引き締める。
近づけば、近くほど、臭いが強くなり、むせ返るようだ。思わず、腕で鼻と口を押さえる。
鼓動が早くなり、足も重い。
一歩、一歩、近づいて行く。覚悟していたとはいえ、きつい。
ノインが言っていた木が見えて来た。四メートルぐらいの広葉樹だ。目一杯、伸ばした枝に艶々とした深緑の葉っぱが生え、赤い実が色鮮やかになっている。
(想像以上に酷いな……)
目の前に広がる無惨な光景……。
生き生きとした広葉樹とは、対極にいる存在だった。
地面に赤黒い血が一面に広がっている。
そこに、ぶち撒けられたブツ切りにされたユニコーンと夜光鹿の残骸……。
必要以上にバラバラにされている。
首を切り落とすなり、毒を塗った矢で射抜くなりした方がずっと楽に狩れる。
密猟者にしては不自然なやり方だ。
第一、ユニコーンと夜光鹿が一緒にいる事自体がおかしい。
気性が荒く神経質なユニコーンと警戒心が強く大人しい夜光鹿。
通常ならまだしも、夜光鹿にいたっては繁殖期で気が立っている時期だ。こんなに集団でいる事自体がありえない。
(何故、こんな面倒な事を……)
特に顔を細かく切り刻んでいる。
切り落とされた耳、鼻先、そして角の無い頭部……。
気は進まないか、血だまりの地面を踏みしめながら、周囲を探索する。
バラバラになった夜光鹿とユニコーンの毛が血で汚れている。特にユニコーンの純白の毛は赤黒い血と相成って一層、惨忍さが引き立っていた。
(しかし、一体、どうやって一ヶ所にユニコーンと夜光鹿を集めたんだ?魔法か?)
いや、それこそ、ありえない話だ。
野生の動物を操る魔法は高度な魔法だ。
小さな野ネズミ、一匹、操るのさえ容易ではない。集中力と細かな魔力配信が要求される。使い魔として複数の獣を従える魔術師も存在するが、その為には獣と契約を交わさなければならない。ここにいる夜光鹿とユニコーン全部と契約したとは考えにくい。
仮に契約したとしたら、殺すには危険が大きすぎる上に損失の割り合いの方が高い。
だとしたら、他に……。
トーヤが考えを巡らせていると、グリーンフォックスリスが「キュィィ」っと不安げに小さく鳴き、トーヤの頬に自分の頬を擦り付ける。
おぞましい光景と血肉の匂い。
無理もない。ただでさえ、仲間と別れ、不安だろに……。そう思うと、急に気の毒になった。喉元を指で撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
(ルクかノインに連れて行かせるべきだったな)
不思議な事に何故か、自分に懐いてるグリーンフォックスリスを引き離すのを不憫に思い、その場しのぎの供として、ごまかす為に連れて来たが今更ながら後悔していた。
すると、いきなりグリーンフォックスリスが顔を背け、片耳を二、三度、ピクピクと動かしたかと思うと、ぬくっと立ち上がった。
トーヤは、グリーンフォックスリスの不審な行動に嫌な予感を覚え、手を伸ばそうとした時だった。
「キュィン!キュィン!」
グリーンフォックスリスは何かを訴えるような悲痛な鳴き声をあげ、シャツの襟元に尻尾を引っかけると、ぐいぐいと引っ張った。
「ここから離れろって、言ってるのか?」
ーーこのグリーンフォックスリスは賢い。
今までの行動からしてそう考える事が自然だろう。
だとしたら、とる行動は一つだ。
「分かった。ここから離れよう」
グリーンフォックスリスの背中を指で一撫でし、足音を立てないよう、そっとその場を離れた。




