第19話 魔力の視える青年
ルクに連れられ、しばらく歩くと、小さな小屋に着いた。
丸太小屋だ。
小さな窓も二つ付いている。
ルクが扉を開け、トーヤを中に招き入れる。
中も外と同様、木を削って作った素朴な作りだった。
窓から差し込む日の光が空中に舞う埃に反射し、まるで光のベールのように見える。
窓部分を除いた壁は全て本棚となっており、本だけでは無く、紙の束、羊皮紙が無造作に詰め込まれている。
小さな木のテーブルとイスが二組、古めかしいランプが置かれている。
テーブルの上には、赤ワインのビンとガラスのコップ、羽根ペンとインクのビン、大量の資料と本が置いてあった。
「さぁ、さぁ、トーヤ様。こちらへ、お座り下さい」
ルクがイスを引き、トーヤを促す。
トーヤがイスに座ると、ルクもテーブルを挟んで向かいのイスに座る。
トーヤの肩に乗っているグリーンフォックスリスが大きく伸びをした。
細いヒゲが頬に当たり、こそばゆい。
トーヤが指で頭を撫でると、「キュイン」と、甘い声をあげた。
そして、体を伏せ、丸くなると、目を閉じ、眠り始めた。
「さて、どこから話しますかな」
ルクはイスに腰掛けると、長い髭をさすりながら言った。う~んと、唸り、考え込む。
しばらく、唸った後……。
「トーヤ様は資料を読んで、どう思いましたか……」
ルクが真剣な面持ちで聞いた。
「千五百年前の伝説のロボット……。まあ、アリサが言うとおり、おとぎ話だと思うのが普通だよな」
「そうですよなぁ。千五百年前の大戦時に世界を混乱と混沌に落としいれた伝説のロボット艦隊、八八艦隊……。突如として姿を消し、依然として行方は不明……。そのはずじゃった……」
「それが現れたと……。ナガトは本当に八八艦体機だと思うか?」
「ーートーヤ様。ワシが昔、空飛ぶロボットを見たという話しをしたのを覚えていらっしゃいますかの?」
「ああ、覚えてるよ」
ルクにはそうは言ったが実は文献を読むまで、すっかり忘れていた。なにせ聞いたのは子どもの頃だったし、ルクはひどく酒に酔っていたからだ。トーヤは酔っ払いの戯言だと思い、すぐに忘れてしまったのだった。
「あの時の衝撃は今でも鮮明に覚えています。街に部品の買い付けに行った日のことでした。少々、帰りが遅くなってしまい、この森に入った時には日が傾き始めた頃でした。トーヤ様もご存じのとおり、この森には危険な魔獣がおりませんので、少し急げば、夜中には隣町に着くと思っておりました。ワシはゴチャゴチャした大きな街はどうも苦手でしてなぁ。もう少し静かな隣町の酒場で一晩過ごそうと思っておりましたんですじゃ。買い付けの交渉やら人混みやらで疲れていましたしなぁ。ワシは順調に森を歩いておりました。あたりがすっかり暗くなり、クリスタルの灯りを頼りに森を進み、ようやく森の中盤に差し掛かった所で、少し休むことにしました。丁度、座りやすい岩が三つ並んおりまして、休むには、もってこいの場所なのです。ワシは岩に腰掛け、水筒にいれたラム酒を飲んでおりました。フッと空を見上げると、それは見事な満天の星空でしてなぁ。これは良いと、ワシは上機嫌でその星空を肴にチビチビと酒を煽っておりましたのです。その時でした。ワシの頭上を白銀のロボットが過ぎ去って行ったのです。一瞬の出来事でした。ワシは慌てて目で追いましたが、その時には、もう見えなくなっておりました。ーー美しい機体でした。幻でも見たのかとも思いましたが、ワシはドワーフの中でも酒にめっぽう強い方なのです。疲れているとはいえ、あの程度では寝酒にすらならねぇ。だとしたらと、考えていた時でしたわ。子どもの頃、ひい爺さんから聞かされた八八艦隊のことを思い出したのですじゃ。ひい爺さんは昔のロボットの資料や伝承を集めるのが趣味の変わり者だったんじゃったんです。そのひい爺さんが遥か昔のロボットは空を飛んだという話をワシによく聞かせてくれたことを。まあ、ワシはひい爺さんのホラ話だろうと思って真剣に聞いておらんかったが、なんせ、ひい爺さんが何度も同じ話をするものだから、頭の片隅にでも残っていたんじゃろうな。その中でも八八艦隊機と呼ばれたロボットは特に美しく強かったと……。おかしな話しじゃが、ワシはそのロボットが八八艦隊機ではないかと、直感的に思ったんじゃ。それからワシはひい爺さんのように昔のロボットに関する資料やら文献やらを集めているという訳なんじゃが……。今日の今日までろくな手がかりがなかった……。資料や文献とは名ばかりの……アリサ様がおっしゃるとおり、おとぎ話程度の内容ばかり……」
一気に話したせいで疲れたのか、目を伏せ、ため息を吐く。ルクがやつれて見えた。
子どもの頃からトーヤはよく屋敷を抜け出し、ルクの工場に遊びに来ていた。邪魔にならない工場の隅で整備士のドワーフたちの仕事ぶりを見るのが好きだった。バラバラだった部品が組み合わさって、ロボットが出来ていくさまが、まるで魔法のようで、トーヤは何度見ても飽きることは無かった。休憩時間になると、ドワーフたちが色々な話しをしてくれた。自分たちの故郷の話し、ロボット論に、家族の話し。ルクの工場のドワーフたちは気さくで、話し好きだった。
まるで夢見る少年のように空飛ぶロボットの話しをするルクは実に嬉しそうで見ているだけで、心が和んだ。
俯いていたルクが顔を上げ、なにか決心したかのように顔を引き締める。
「もう一度……せめて、一目だけでもと、思っておりましたが、有力な情報も無く、最近では諦めておりました。じゃが!それはワシの思い違いじゃった!アリサ嬢ちゃんの話しを聞いた時は、まさか!と、信じられんかったが、ナガトを一目見て、八八艦体機だと、あの時、見た機体と同機種だと分かったんですじゃ!」
ルクが拳を握りしめ、イスから立ち上がる。
トーヤと目が合い、年甲斐もなく昴ぶってしまった自分が恥ずかしくなったのか、「すみません」と言って、再びイスに座った。
「詳しい事は調べてみなければ分かりませんが、ワシはそうだと嬉しいですね」
思いの丈を伝え、安堵したのか、ルクは随分と穏やかな顔をしている。
「親方~!親方~~!」
叫び声が響く。その慌てぶりからして、只事ではないと、トーヤとルクは顔を見合わせる。同時に立ち上がると、急いで外へと飛び出した。




