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第17話 魔力の視える青年

 

「話はついたようですね」

 

 アリサの凍てつくように冷たい声が背後から刺さる。

  ビーグルに寄りかかり、腕を組んで鋭い視線をトーヤ達に浴びせる。

  見ているだけで、イヤな冷や汗が背中に滲む。自分に向けられたものではないが、アリサから発せられる魔力のオーラに気圧され、ルクは萎縮してしまう。


  (坊ちゃんは魔法を発動させなくても、ある程度は平気だからな……)


  魔力のオーラは常人には見えない。

  だが、時として他者の魔力のオーラは瘴気へと変わる。

  蛇に睨まれた蛙のように恐怖に支配されてしまう。

  全く影響されない者もいれば、気分を悪くする者や、恐怖で動けなくなる者もいる。

  伝承によると、伝説の賢者はその強大な魔力のオーラを放つだけで魔法を使わずとも、人を殺めることが出来たという。

  ーーあくまで伝説の話だ。

  現代ではそれ程まで強大な魔力を持つ魔法使いは存在していないという。

  強い思念を込めた魔力のオーラはその本領を発揮し、今のルクのように影響を受けてしまう。

  しかし、魔力を視ることが出来るトーヤはある程度の魔力のオーラなら影響されないらしい。ロボットであるナガトも機械である為、影響は無い。

  ルクが異様な緊張感の中、三者のようすを伺っていると、トーヤが動いた。

  忠誠の姿勢をとるナガトへとさらに近づく。

  ーーお互いの視線が重なる。

  一瞥、そして手を差し出すナガト。手の平の上へとトーヤを招く。

  その広げた手の平を無言で見つめていたトーヤがゆっくりと顔を上げ、もう一度、ナガトの目を見る。


  「アリサ」


  後ろを振り返える事はせず、トーヤは話はじめた。

  「信じられない話だよな。不明な点も多い……。本当に信じられない話だが、俺はナガトを信じる」

  淡々と語るトーヤの声をアリサは黙って聞いている。

  一瞬だけ目を閉じ、視界を塞いだかと思うとすぐに目を開くいた。

  そして、後ろを振り返り、アリサと向かい合う。


  「ナガトを独りにさせたくないんだ」


  真剣な眼差しーー。トーヤの真摯な思いがアリサの胸に刺さる。

  しばらく黙って兄を見つめていたが、やがて、呆れたようにため息をつく。


  「ーー仕方がないですわ。兄様の好きになさいませ。ただし、くれぐれも油断しないよう」


  そう言うと、身を翻し、ビーグルの元に向かう。ビーグルに跨ると、ナガトを一瞥する。だが、すぐに前を向き、颯爽と走り去って行った。


  「アリサお嬢様……」


  もう豆粒ほどの大きさになったアリサを呆然と見つめるルク。


  「ワシ、どうやって帰れば……」


  そう呟き、ルクは立ち尽くしている。

  悲しげな後ろ姿をトーヤは、なんとも言えない複雑な表情でどう声をかけようか迷っていた。だが、いつまでもここでぼんやりしている訳にはいかない。意を決してルクに声をかける。


  「あぁ……、アレだな。とりあえず、一旦、ルクの工場に行ってもいいか?一応、ナガトを調べて欲しいしな。いいよな、ナガト」


  顔を上げ、ナガトに問いかける。


  「我が主のお望みのままに……」


  丁寧に頭を下げるナガトをルクが興味深げに見守っている。

  ーー幻の八八艦隊、噂に違わぬ存在なのか、あるいは……。


  「ルク?」


  考え込んでいたルクが我に返り、ハッと我に返る。


  「ヘイ!是非是非!汚ねー、所ですが!」


  慌てた様子で早口で捲し立てる。

  ルクの慌てぶりに少し、トーヤは驚いたが、気を取り直して話を続ける。


  「狭いが、ルクもナガトの中に乗せていくか」


  トーヤが独り言のようにナガトに語りかける。


  「か、勘弁して下さい!!」


  それを聞いたルクが慌てて口を挟む。

  訳が分からず、ぽかんとしていたトーヤだったが、思い出したようで直ぐに、あぁ!と、納得したように声を漏らす。


  「そうか……狭い所、駄目だったな。」


  「はい。閉所恐怖症なので、ロボットの操縦席に乗るのは、無理ですわ」


  シュンと落ち込むルクを同情に満ちた目で見るトーヤだった。自分とは別の意味でロボットに乗れないルクに通じる所を感じていた。大好きなロボットに乗れないルクの辛さを考えると、本当に気の毒だった。


  「だったら、手の上に乗せて運ぶっていうのはどうだ?」


  「それなら大丈夫です。高い所は平気ですから」


  「ナガト、頼めるか?」


  「承知、致しました。トーヤ様。慎重にお運び致します」


  「なら、行くとするか」


  「はい」


  「承知致しました」


  トーヤはナガトに乗り込み、ルクをナガトの手の上に乗せると、ルクの工場を目指して歩き出した。

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