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あー、疲れた。

バイトの後に疲れるのはいつもで、何か体力的な疲れだからいいけど、木島先生のせいで最近は精神的な疲れも入ってきた。

最近、昼休みに裏庭にも行ってないよ。




「あっきーらちゃんっ」

「……何ですか、古谷さん」



午後10時、バイトが終了して制服に着替えて帰ろうとしたら、パティシエの古谷さんに声をかけられた。よく見ると古谷さんの手には、ケーキ箱がある。



「はい、これ」



言いながら古谷さんがケーキ箱を差し出す。怪訝に思いながらも受け取った。



「何ですか、これ」

「ん? 彰ちゃんさ、最近また元気ないから俺から新作ケーキのプレゼント」

「本当に?」

「もちっ。四個入ってるから家族と分けるか、彰ちゃんが全部食べても良いよ」



グッと親指を立てて返され、頬の筋肉が自然と弛んだ。

古谷さんのケーキは本当に美味しい。一度どこかのレストランから誘われたらしいけど、絶対苅谷さん所から離れようとしなかったらしい。



「ありがとうございます、古谷さん」

「どう致しまして。さ、早く帰りな」

「はーいっ」



疲れは抜けないけど、ケーキのおかげで気分は上々。ルンルン気分で店を出た。

店を出て、『さぁ、帰ろう』と歩き出すと後ろから声がかかった。



「彰チャン」



振り返ったその先には、車に寄りかかったチーズケーキの人。ちょっとびっくりした。もちろん彼は今日も店に来ていた。



「何してるんですか?」

「彰チャンのこと待ってた。最近疲れてるみたいだから、送ろうかと思ってね」



不思議そうに問い掛けながら駆け寄る私に、チーズケーキの人はニコッと笑ってわけも無さそうに答えた。彼の言葉にも驚いたけど、そんなに私疲れた顔してたのかな。



「送るって、そんな悪いですよ」

「いいの。ほら、今日寒いし車の方が早いでしょ?」

「そう、ですけど……」

「さ、乗った、乗った」



結局丸め込まれる形で助手席に押し込まれた。

車、カッコイー。青のスポーツカー、かな? 分かんないけど。



「彰チャン、それ何?」

「それ?」



道すがら、チーズケーキの人が私の持っているケーキ箱を指差した。顔を横に向けると彼の期待に満ちた表情があった。



「古谷さんの新作ケーキです」

「ケーキ?」

「食べたいですか? あ、そこ左です」

「食べたいです」



ハンドルを左に切りながらチーズケーキの人はウンウンと頷いた。

可愛いなー。



「そこです」



私が指差した家に彼は車を止め、拝むように私を見た。私はそれにちょっと笑ってケーキ箱を上に上げる。



「ちょっと待ってて下さい。他のケーキ出して箱に入れてきます」

「サンキュ」



嬉しそうに笑う彼に私も笑顔を返して車を降りた。




「ただいまー」



家に居るお母さんに声をかけ大急ぎでキッチンに行き、四個のケーキのうち三個を取り出す。

テーブルにはお母さんと、何故かお姉ちゃんまでいた。



「お姉ちゃん、何でいるの?」

「仕事今終わって、疲れてご飯作る気が起きなかったから」

「今日はまた随分遅いね」



ケーキを崩さないように取り出しながらお姉ちゃんの話に言葉を返し、取り出し終わった所で箱をまた閉じる。お姉ちゃんを見ると何かを思い出したように顔をしかめていた。



「ちょっと聞いて、彰! あんの鬼畜、一人ニューヨーク支社行きが出たからって私に仕事押し付けるのよ!? しかも……」

「はいはい」



怒り狂うお姉ちゃんはほっといて、早くケーキ渡そ。



「はい、どうぞ。ケーキ、チョコレートケーキにしたけど大丈夫ですか?」

「もちろん。大好きだよ」



外で待っていてくれた彼にケーキを渡すと、子供みたいに喜んでくれた。



「じゃあ、気をつけて」

「ああ。ありがとね、彰チャン。また明日」



最後にニッコリ笑ってお礼を言うと彼はアクセルを踏んで、車を発進させた。

あ、名前聞いとけば良かった。




***



次の日、数日ぶりにようやく裏庭に来ることができた。でも、今日も出なきゃいけないなぁ、部活。面倒くさい。本当は部活なんて入ってないのに。

色々考えながら、ゴロンと草の上に横になった。青空に浮かぶ雲はゆっくりと右に流れていく。暖冬も悪いもんじゃない。

少し眠ろう。

そう思って、眼を閉じた。



「ここで寝るのそんなに気持ちいい?」



―パチッ



突然の声に眼を開ける。逆光でよく見えないけど、誰かが私を見下ろしている。



「やっ、彰チャン」



あ、きらチャン……?

ガバッと起き上がる。



「……ぇええっ!?」



そこに立っていたのは、チーズケーキの人。






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