2
毎日、ボーっと工事現場を眺める彼女。
それを見るのがここ、楠学園に仕事に来てからの俺の習慣。
毎日、現場である楠学園に仕事に行くと、窓から一人の女子生徒がボーっと工事現場を見ている。彼女は昼休みには、簡易的に区切ってある入り口ではない方の工事現場横の裏庭で本を読むか寝ているか、また朝と同じように、ボーっと高く持ち上がったクレーン車の先を見上げている。放課後はたまにしかいない。
顔は見えないからどんな子か知らないけど、彼女を見るのは結構俺の楽しみだったりする。
「建介さーんっ、これどこッスかー?」
「それは、あっちのだよっ。いい加減覚えろ!」
機材を持って地上に立ったまま後輩の吉井が声を張り上げて、組み立てられた鉄筋の上にいる俺に尋ねてきた。それに俺も大声で返す。
吉井が行ったあと、チラッと裏庭の方をを見ると、またあの子がいた。今日は疲れてるのか、木の下に寝転んで眠っている。
平和だねぇ。
***
仕事が終わったら家に帰って、シャワーを浴びて、着替えて、今お気に入りのカフェに向かう。あのカフェに着替えずツナギのまま行くなんて、絶対ムリ。だから、キチッと着替えて仕事用のパソコンを持って行く。
そこのチーズケーキと紅茶は美味い。俺好みの甘いチーズケーキに砂糖は4杯の紅茶。「男のくせに甘いものなんて……」なんて台詞は無視だ、ムシ。
そこのカフェでバイトしている彰チャンとは、ある日より仲が良い。何気に俺の注文持ってくるのは毎日彼女。
「本当に甘いのが好きなんですね」
「まぁね」
珍しく紅茶をお代わりした俺に、彼女は笑ってそう言った。
「男が甘いの好きじゃ変?」
「ぜんぜん。むしろ私は一緒にケーキとか食べれて嬉しいです」
またそう言って笑うと、彼女はお盆を持って厨房に入って行った。
いい子だね、まったく。
***
いつもの昼休み、例の彼女はまた木の下で眠っていた。
気持ちよさそうだ。
「彰! 頼む!」
「……分かりました」
青空の下、ちょうど昼飯を簡易的に出来た区切りの壁に寄し掛かって食べていると、壁の向こうから声が聞こえた。
彰ってもしかして……。
予想を持って、壁を少しずらすと、そこには教師であろう男に必死で頼まれている例の彼女がいた。面倒くさそうにして髪を掻き上げながら承諾する彼女は、俺がいつも見ている例の彼女であり、かつ最近仲良くなった、カフェのバイトの彼女。
ああ、今日が楽しみだ。
***
「……大丈夫?」
「何がです?」
今日の夜もカフェに行くと、彼女は何だかげっそりと疲れた様子だった。
あの時何頼まれたんだよ……。
明らかな疲れを見せる相手に、尋ねようとしても尋ねることが出来ずいつも通りの注文をした。
結局、彼女は途中でバイトを上がり家に帰ったようだ。
明日学園の裏庭で、彼女に何て声をかけようか。