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私がバイトしているカフェには、ちょっと変わった常連さんがいる。

毎日夜の8時過ぎにカフェに来て、適当な席に着くと注文するのは必ず、チーズケーキと紅茶。軽食物とかじゃなくてケーキと紅茶。それも男の人なのに、紅茶に砂糖を四杯も入れて、それで甘いチーズケーキを食べる。

そんな変わった常連さん。



―カランカラン


月曜日の夜8時ピッタリ。今日もあの人は来た。

いつものように黒のコートを羽織り、右手のわきにはノートパソコン。キョロキョロと席を探している。

今日は忙しくて、店内もお客さんでいっぱいなせいか、男の人の眉間に皺が寄る。

いつもはもっと少なくて静かだもんね。



「彰さん、コレ3番にお願いします」

「ぅえっ? あ、はい」


レジの横で銀のお盆を持ちながら、じっと男の人を見ていたら、店長の苅谷さんから声をかけられた。苅谷さんから差し出されるお盆と自分のを交換して、チラッと入り口を見ると、まだ男の人は席を探していた。



「苅谷さん。アノ人、席案内してくれません?」

「アノ人……? ああ、アノ人ですか。分かりました。大切な常連さんですからね」



ニコリと笑って、苅谷さんは男の人に向けて歩いて行った。

私も苅谷さんから渡されたお盆を手に、3番テーブルへと向かう。



「あの、相席していいですか?」



男の人が席に座って15分くらい経つと、その席に二人のお姉さま方が近付いていた。

相席するほど店は混んでないのにね。

男の人は明らかに迷惑そう。



「俺は帰りますから、お二人でココどうぞ」



パソコンを閉めて男の人が立ち上がった。

あーあ、まだ半分もチーズケーキ残ってたのに。かわいそう。



「お会計、ちょうどお預かりします」



毎日同じ金額を払う男の人。でも、今日はいつもと違って不機嫌。



「お客様」



チャリ、とお金を置いて店を出て行こうとした男の人を苅谷さんが引き止めた。



「今日は混み合っているせいもあり、不愉快があったことお詫びします。これ、お詫びです」



そう言って苅谷さんが渡したのは、小さなケーキ箱。たぶん、中身はチーズケーキ。

男の人も驚いていたけど、嬉しそうに笑って「ありがとう」と言って帰って行った。



「他のお客様には内緒ですよ?」

「じゃあ、帰りに私にもチーズケーキ下さい」



口元に人差し指を立てて言う苅谷さんに、ちゃっかり私もチーズケーキを頂くことにした。




***



―カランカラン



火曜日、今日は夜8時をちょっと過ぎた時間に男の人はやってきた。今日は特別寒かったからか、昨日の格好+マフラーをしている。

今日の店は混んでいない。数人のお客さんがそれぞれ会話して、ゆったりとした時間が流れている。



「お客様、こちらにどうぞ」



それでも私は入り口にいる男の人に声をかけ、席に案内した。



「こちらにどうぞ」



私が男の人を連れてきたのは、店の奥の方にある席。カウンターからは遠いけど、静かだし、この人は一回注文したら後はパソコンとにらめっこだからちょうどいい。

男の人はキョロキョロ辺りを見渡して、満足したのかコートとマフラーをとって席に着いた。



「じゃあ……、」

「チーズケーキと紅茶、でしたよね?」



男の人の注文を先回りして悪戯に笑いながら言う。男の人は一瞬キョトンとしたけど、すぐに笑顔になった。


「早めにヨロシク。……彰チャン」




私のバイトをしているカフェには変な常連さんがいる。

でも、この人とは、何だか仲良くなれそうだ。






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