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同窓会なんかきらいだ

作者: 四十万

十二年振りにやるというから「参加」に〇を付けたんだ

ぼくは結婚もして子供も生まれ けっこう中流の生活をしていると思うし

見栄張らなくてもイケると思った

十二年前はまだ学生だったし

社会人になった連中はどうなのか興味もある


幹事は忠太郎だ

本名だから子供の時分はずいぶんと悲しい思いもしたようだけど

前回の同窓会では絶対に覚えてもらえるから得だと言っていた

本名があだ名の附けようがないほどイッているのってどんなもんよ?

幹事は他に二名

いつでも顔を突っ込んでくるので有名だった壮太と

いつでも周りに雑用を押しつけられるので有名だった光輝の名前があった


会場は新宿のシティホテルだった

会費は六千円 高いのか安いのかよく分からないが多分安いのだろう

十五分前に着くと受付の前には既に二十人ほどがいる

受付をしているA組で一番綺麗だったシノブちゃん 今は二人の子持ち

元気してた? そっちも元気そうで

参加費を渡して記帳する

にこにことしているシノブちゃんもすっかりお母さんの顔 面影は薄い

しかしこうして話すと自然昔に逆戻りするからおもしろい


郊外都市で生まれた中学校の同窓生 三クラス併せて百三十名

前回 成人式で約束して二年後に開いた同窓会からすでに十二年

久し振り! よお、元気か? 変わったなーお前!

弾む声は期待に満ち溢れた連中

同窓会に真っ先に駆けつけるのは お祭り好きか自己顕示の強いヤツ

着飾って厚化粧の女やカジュアルなスーツとごつい腕時計を見せびらかすヤツ

この時間帯に来るヤツ やっぱり子供のころからソリの合わないヤツが多い

少し早く来すぎたかと後悔していると

よお!健

猛君だった 読みが同じタケルで出会ったころからウマがあった

ああ、元気か? 元気だよ 変わんないね お互いな

商社に勤めて最近係長になった彼 

万年主任のぼくはさき超されたな

ああ、だってケン君の会社はウチの五倍はでかいじゃない

いいや、モウ君の会社は急成長しているって聞いてるよ 来年上場だって?

社交辞令もウマのあった同級生とはここちいい

ようやく今日を楽しもうという気になってきた


何度かの乾杯と じいさんばあさんになった恩師たちと

立食式の会場であっちこっちと出来るグループと

残念ながらモウ君以外ウマがあった連中は来ていない

サッカー部の補欠だったぼくは フォワードでキャプテンだった航や

センターバックで人を小突くのが癖の馬場のサークルには入らない

バスケをやっていたモウ君もそっちのグループに流れてしまった


この日話題になったのはやっぱり見た目の変化

驚くほどハゲ上がっていたり

あの不細工がと目を見張るコ

方や なんで〇〇ランスにしないんだ

方や あれは絶対タカ〇クリニック の声

その中で多くの男性の失望を買ったのは

C組いや同級生で一番の美人と言われていた菫ちゃん

最初全く誰か判別が付かず あちらこちらで 誰?あれ の声

やがて恥ずかしげに 私スミレです と……

学年で一番お銚子ものだったトシが

デラックスになったなぁ と溜息を吐く 笑いを堪えるのにみな必死


結局、同級生と言っても他人

社会の縮図ってやつは何も変わらない

昔 騒がしかった奴は今でもうるさいし

静かで全てに無関心な奴は隅で大人しい

それ以上やそれ以下の人間はそもそも出てこない

そういうぼくも さも楽しそうにはしゃいでみせている

すると

そうそう、キリコちゃんは? ああ、キリコ、来るよな?

その話題に俄然胸が高まるぼく

そもそもぼくが出る気になったのは彼女に会いたかったからだ――


なあ、ボクっておかしいか?

ううん、おかしくないよ

そーかなあ オンナオトコだぜボク、サッカー好きだし

キリコちゃんはキリコちゃんだよ……す、すてきな女の子だよ

言うじゃんかタケル ボクも好きだぜ!


――あの放課後 サッカー部の練習の後

彼女は女だてらにサイドバックで足が速く 男に交じっても遜色がなかった

あの当時で身長は百七十 ぼくより大きかった

いつもケラケラ笑っていて明るくて元気で 

でも人のことを気にして声を掛けていて

本当に素敵な子だった 好きだった

あれも告白だったのに お茶目にはぐらかされてしまった


あれからもう二十年

十二年前の同窓会には仕事が忙しいと出席しなかった彼女

とても残念だった

来れなかった連中が書いてよこした手紙を読むコーナーで

新宿のお店で働いています 仕事はずいぶん忙しく今日は出られません

この次の機会には絶対に行きます みなさんによろしく

と、紹介されていた


店長になっていて忙しいけれど必ず行くと電話があったよ

幹事の忠太郎が弾んだ声で言う

そういえば佐藤おまえ好きだったんだよな そうそう健はぞっこんだったな

冷やかされるが余裕で笑い飛ばす

もちろん家族持ちのぼくは 今はそんな気はない

ただ懐かしく そして甘酸っぱいあの時の気持ちを

ただただ思い出したくて……


遅くなりましたー!

会場によく通る声が響く

その声に振りかえる

絶句 ぼくだけじゃない ほぼ全員静かになる

五分刈りの頭に日サロ焼け 見事に着こなすグレーのジャケット 金のブレス

そして胸が 

確かにBカップで貧乳だったけどこれって……全くないじゃん

よ、お……何かヘンか?

照れたその声

確かに声は変わらないよ トーンが少し低いけど活発な感じがとても好きだったけどさ

おいおい!そんなツラすんなよ よお!タケル ホラホラ乾杯しようぜ!


ぼくのキリコちゃん キリコちゃんが

……キリオになっていた


もう二度と出るものか

同窓会なんかキライだ



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