第121章:王が戻った朝に - 謝罪という名の扉が開く
序章 - 帰るということ
帰るということは。
単純なことだ。
来た道を戻るだけだ。
しかし。
帰る時の自分は。
出た時の自分と。
必ず何かが違っている。
見たものがある。
聞いたことがある。
触れたものがある。
それが積み重なって。
帰ってくる自分は。
少しだけ違う自分になっている。
アクアは。
そのことを。
今日初めて理解した。
三万年生きてきて。
今日初めて。
第一章:帰路の馬車 - 朝の光の中で
シルバームーン連邦からの帰路 - 早朝
夜明けと共に出発した。
女王アエロリアが門まで見送りに来た。
珍しいことらしく。
エルフの護衛たちが驚いた顔をしていた。
「また来てくれ。」
女王はアクアに言った。
「厨房はいつでも使っていい。」
「マスターの許可が出れば。」
アクアは言った。
「その答えが好きだ。」
女王は言った。
「次はレシピ交換をしよう。」
「私の知っている三千年分の料理を渡す。」
「お前の三万年分と交換だ。」
アクアは少し考えた。
「量が釣り合わない。」
アクアは言った。
「ではお前は私の千年分だけもらえばいい。」
女王は言った。
「残りは少しずつ渡す。」
「何度も来る理由ができる。」
アクアは。
女王を見た。
「賢い交渉です。」
アクアは言った。
女王は笑った。
「二万七千年生きれば賢くなる。」
「三万年生きても。」
アクアは言った。
「賢くはなりませんでした。」
「ではお前は何になった。」
アクアは少し間を置いた。
「...まだわかりません。」
言った。
「探しているところです。」
女王は頷いた。
「良い旅をしてくれ。」
「探し物が見つかることを願う。」
馬車が動き始めた。
アクアは窓から女王を見ていた。
門が閉まるまで。
昨日の王国を出る時と同じように。
最後まで見ていた。
私は隣から見ていた。
アクアの表情を。
「楽しかったか。」
私は聞いた。
アクアは少し間を置いた。
その間が。
いつもより長かった。
「楽しかった。」
最終的に言った。
「という言葉で合っているかわかりません。」
「しかし。」
「しかし?」
「また来たいと思いました。」
アクアは言った。
「それが楽しかったということならば。」
「楽しかったです。」
ハナが飛び跳ねた。
「私も!また来たい!」
「女王様の森のお菓子もらったもん!」
鞄から取り出した。
月光の光が封じられた水晶のお菓子が。
朝の光で輝いた。
「食べていいのか。」
私は聞いた。
「女王様が後で食べろって!」
「特別な時に食べると良いことがあるって!」
「では帰った時に食べよう。」
私は言った。
「どうして?」
「帰ることが特別な時だから。」
ハナは少し考えた。
「...うん。そうだね。」
アクアも。
頷いた。
「その考え方が正しい。」
馬車は走り続けた。
野原を抜けて。
山の麓を越えて。
ドラゴンハート王国へ向かって。
第二章:帰途の馬車の中 - 市場の話
一時間後
ハナが眠った。
座ったまま。
体を横に傾けながら。
すっかり眠った。
馬車が静かになった。
車輪の音だけが聞こえた。
アクアは袋の中を確認していた。
昨日買った食材を。
一つ一つ取り出して。
状態を確認していた。
「全部無事か。」
私は聞いた。
「はい。」
アクアは答えた。
「月光茸は特別に。」
「保存の魔法をかけました。」
「三日以上保ちます。」
「老エルフに教わったのか。」
「いいえ。」
アクアは言った。
「私が三万年前に使っていた方法です。」
「今もそのまま使えました。」
「何が一番良かった。」
私は聞いた。
「市場で。」
アクアは少し考えた。
袋を見ながら。
「女王と一緒に厨房に立ったことです。」
アクアは言った。
「なぜ。」
「今まで。」
アクアは言った。
「料理は一人でするものでした。」
「三万年間ずっと?」
「封印される前も。」
アクアは言った。
「一人でした。」
「誰かに教わったことも。」
「誰かと一緒に作ったことも。」
「なかった。」
「昨日は違った。」
私は言った。
「はい。」
アクアは言った。
「女王は邪魔をしませんでした。」
「ただ横で見ていました。」
「しかし。」
「しかし?」
「横に誰かがいると。」
アクアは言った。
「料理が変わります。」
「どう変わる。」
「わかりません。」
アクアは言った。
「うまく言葉にできません。」
「ただ。」
「昨日の料理は。」
「いつもより何かが入っていた気がします。」
「それが料理に出る。」
私は言った。
「そうらしいです。」
アクアは少し考えた。
「マスターが毎朝厨房に来るのも。」
「そういうことですか。」
私は止まった。
「気づいていたのか。」
「気配でわかります。」
アクアは言った。
「来ているとわかっていました。」
「邪魔だったか。」
アクアは答えなかった。
すぐには。
「邪魔ではなかった。」
最終的に言った。
「だから言わなかった。」
私は笑った。
馬車が走り続けた。
ハナの寝息が聞こえた。
穏やかな音だった。
第三章:王国が見えた
午前十時頃
丘を越えた時。
ドラゴンハート王国が見えた。
ハナが目を覚ました。
理由はわからなかった。
しかし。
ちょうどその瞬間に目を開けた。
「あ。」
ハナは言った。
「帰ってきた。」
アクアも窓から見た。
王国が見えた。
建物が見えた。
旗が揺れていた。
龍の紋章が。
朝の光の中で。
翻っていた。
「帰ってきた。」
アクアは繰り返した。
ハナとは違う声で。
違う温度で。
「どうした。」
私は聞いた。
「帰ってきたという感覚が。」
アクアは言った。
「初めてです。」
「どういう意味だ。」
「いつもは。」
アクアは続けた。
「ただ戻るだけでした。」
「しかし今日は。」
「帰る感じがするか。」
アクアは頷いた。
静かに。
しかし確かに。
私は何も言わなかった。
言う必要がなかった。
馬車が速度を上げた。
王国の正門へ向かって。
第四章:正門での再会
正門前
馬車が止まった。
扉が開いた。
最初に出てきたのはセラフィーネだった。
周囲を確認した。
問題なしと判断して頷いた。
次にハナが飛び出した。
「ただいまー!」
翅で一回転しながら。
警備兵が笑った。
「お帰りなさいませ!」
アクアが降りた。
地面に足をつけた瞬間に。
少し目を閉じた。
一秒だけ。
私が最後に降りた。
「ただいま。」
私は言った。
誰もいない空間に向かって。
しかし。
全員に聞こえるように。
「お帰りなさいませ!」
警備兵たちが声を揃えた。
その声が響いた。
朝の空に。
アクアは。
その声を聞いた。
眩しそうな顔をした。
日差しのせいではなかった。
第五章:リスカレスの登場
影から現れた。
音もなく。
ただそこにいた。
「マスター。」
リスカレスは言った。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。」
私は言った。
「何事もなかったか。」
「一件あります。」
リスカレスは言った。
「言え。」
「聖軍の女神。」
「エルーナ様が来ています。」
私は止まった。
「今もいるのか。」
「応接間で待っています。」
「昨日の夕方から。」
「一晩待たせたか。」
「こちらが追い返したわけではありません。」
リスカレスは言った。
「自分から待つと言いました。」
「話したか。」
「少し。」
「どんな印象だ。」
リスカレスは少し間を置いた。
「謝罪は本物だと思います。」
言った。
「しかし最終的な判断はマスターが。」
「わかった。」
私は言った。
「顔を洗って着替えてから行く。」
「はい。」
「アクア。」
私はアクアを見た。
「何ですか。」
「食材を厨房に運んでから休め。」
「昨日の夜遅くまで料理していたはずだ。」
アクアは少し止まった。
「知っていましたか。」
「女王から伝言が来た。」
私は言った。
「アクアが夜中に料理していると。」
「心配しないよう伝えてくれと。」
アクアは少し困った顔をした。
「余計なことを。」
アクアは呟いた。
「良いことだ。」
私は言った。
「では。」
「それぞれ動け。」
第六章:着替えの部屋 - 準備
私室
着替えながら。
考えていた。
女神が来た。
謝罪しに来た。
一晩待った。
それだけで多くのことがわかった。
本物の謝罪だという証拠が。
その行動の中にあった。
しかし。
謝罪を受け入れることと。
信頼を戻すことは。
別の話だ。
「何を求めるか。」
私は思った。
「何を要求するか。」
「何を許すか。」
答えは。
比較的早く出た。
私の性格は。
シンプルだった。
「面と向かって話す。」
「それだけだ。」
鏡を見た。
旅の疲れが少し顔に出ていた。
しかし。
目は澄んでいた。
「行こう。」
第七章:応接間 - 王と女神の対面
応接間
扉を開けた。
女神エルーナが立ち上がった。
即座に。
私は入った。
扉が閉まった。
リスカレスは外に立った。
二人だけだった。
護衛の天使は部屋の外だった。
私は女神を見た。
女神は私を見た。
思ったより若く見えた。
神だから当然かもしれなかった。
しかし。
表情が疲れていた。
昨夜は眠れなかったのだろう。
「座ってくれ。」
私は言った。
「いや。」
女神は言った。
「座ってから話せるようなことを。」
「言いに来たわけではない。」
「ならば立ったまま聞く。」
私も立ったまま言った。
女神は。
深く息を吸った。
「あの古代スライムの件。」
女神は言った。
「聖軍が送った。」
「私の直接の命令ではなかった。」
「しかし。」
「しかし。」
「私の組織が行ったことだ。」
女神は言った。
「私の管理下にある者たちが行ったことだ。」
「それは私の責任だ。」
「否定しない。」
沈黙。
「ヴィカース王。」
女神は続けた。
「申し訳なかった。」
頭を下げた。
深く。
昨日リスカレスに下げたよりも。
さらに深く。
翼が全部開いた。
六枚の翼が。
広がった。
それが聖軍の謝罪の最高の形だった。
私は見ていた。
何秒か経った。
「頭を上げてくれ。」
私は言った。
女神は顔を上げた。
「受け入れるか。」
女神は聞いた。
「謝罪は受け入れる。」
私は言った。
「しかし。」
「しかし?」
「信頼は時間が作る。」
私は言った。
「謝罪で戻るものではない。」
「それはわかってくれるか。」
「わかっている。」
女神は即座に言った。
「求めていない。」
「ただ。」
「ただ?」
「謝りたかった。」
女神は言った。
「謝らなければ。」
「前に進めなかった。」
「前に進む。」
私は繰り返した。
「聖軍として。」
「この王国と。」
「今後どう向き合うかを。」
「決めたい。」
「座ってくれ。」
私は言った。
今度は命令ではなく。
提案として。
女神は頷いた。
座った。
私も座った。
「話そう。」
私は言った。
「お茶を頼む。」
第八章:二人の対話 - 本音の交換
お茶が来た後
アクアが持ってきた。
疲れているはずだったが。
普通の顔をしていた。
「アクア。」
私は言った。
「休んでいいと言ったはずだ。」
「厨房を通りかかりました。」
アクアは言った。
「持ってこない方がおかしい。」
私は笑った。
女神がアクアを見た。
「昨日のリスカレスの言葉は。」
「あなたのことだったのですね。」
「はい。」
アクアは言った。
「アクアです。」
「アクア。」
女神は言った。
「あの古代スライムを。」
「お前に変えてしまったことを。」
「申し訳なかった。」
アクアは。
女神を見た。
三万年の目で。
静かに。
「謝罪は受け取りました。」
アクアは言った。
「しかし。」
「しかし?」
女神は身構えた。
「あの封印が解けなければ。」
アクアは言った。
「マスターに会えなかった。」
沈黙。
「だから怒りはありません。」
アクアは続けた。
「ただそれだけです。」
アクアはお茶を置いた。
頭を下げた。
「失礼します。」
部屋を出た。
女神は。
閉まった扉を見ていた。
「変わった存在だ。」
女神は言った。
「そうだな。」
私は同意した。
「三万年以上生きて。」
「封印された怒りより。」
「会えたことへの感謝の方が大きいのか。」
「そういう存在だ。」
私は言った。
「...羨ましい。」
女神は言った。
小さく。
「何が。」
「その考え方が。」
女神は言った。
「私には百年あっても。」
「そこには辿り着けない。」
「なぜ。」
「私には責任がある。」
女神は言った。
「聖軍を守る責任が。」
「信仰を守る責任が。」
「人間たちを守る責任が。」
「それが重すぎて。」
「怒りを手放せない。」
「怒りが必要か。」
私は聞いた。
女神は止まった。
「必要だと思っていた。」
女神は言った。
「しかし。」
「この王国に来て。」
「昨夜一晩で。」
「少し違うと思い始めた。」
「何が違うと思った。」
女神は少し考えた。
「怒りで守っていたものが。」
女神は言った。
「ここでは怒りなしで守れている。」
「その差が。」
「何から来るかが。」
「まだわからない。」
「わかる必要はない。」
私は言った。
女神が驚いた顔をした。
「感じていれば十分だ。」
私は続けた。
「違うと感じた。」
「それが出発点だ。」
「理屈はその後でいい。」
「そういう考え方か。」
「そういう考え方だ。」
女神はお茶を一口飲んだ。
「このお茶は。」
女神は言った。
「昨日も飲んだが。」
「また変わった味がする。」
「アクアが毎日変えている。」
私は言った。
「同じ茶葉でも。」
「その日の気温と湿度で。」
「入れ方を変えるらしい。」
「...そこまでするのか。」
「三万年分の経験だ。」
私は言った。
女神は。
また少し黙った。
「本題を話してもいいか。」
女神は言った。
「どうぞ。」
第九章:本題 - 聖軍の立場
「聖軍は。」
女神は言った。
「あなたの王国と戦いたくない。」
「知っている。」
「しかし。」
女神は続けた。
「強硬派が力を持っている。」
「彼らは王国を脅威と見ている。」
「私が何を言っても。」
「彼らは止まらない可能性がある。」
「内部の問題だ。」
私は言った。
「そうだ。」
女神は認めた。
「しかしそれがこちらに影響する。」
「お前たちを危険にさらす可能性がある。」
「だから言いに来た。」
「つまり。」
私は言った。
「警告も含まれているのか。」
「そうだ。」
女神は言った。
「謝罪と同時に。」
「情報を持ってきた。」
「強硬派の次の動きを。」
「具体的に言ってくれ。」
女神は三つの計画を話した。
北の封鎖は延期になったこと。
しかし完全に中止ではないこと。
そして。
聖軍の中の一部が。
直接の偵察隊を送ろうとしていること。
「今度は観察だけでなく。」
女神は言った。
「接触を試みようとしている。」
「友好的な接触という名の。」
「情報収集だ。」
「いつ。」
「一ヶ月以内だと思う。」
私は少し考えた。
「教えてくれてありがとう。」
私は言った。
「利用してくれていい。」
女神は言った。
「この情報を。」
「利用するつもりはない。」
私は言った。
女神が止まった。
「なぜだ。」
「接触してくる者を迎えればいい。」
私は言った。
「この王国に来れば。」
「わかることがある。」
「見せればいい。」
「隠すものはないから。」
「それが答えか。」
「そうだ。」
女神は。
お茶を見た。
「あなたは戦いたくないのか。」
女神は聞いた。
「戦いたくない。」
私は言った。
「しかし。」
「しかし?」
「来れば応える。」
私は言った。
「それだけだ。」
「それだけか。」
「それだけだ。」
女神は。
また考えた。
長い間。
「あなたのような王を。」
女神は言った。
「初めて見た。」
「どういう意味だ。」
「普通の王は。」
女神は言った。
「力を得れば。」
「もっと力を求める。」
「領土を求める。」
「支配を求める。」
「お前は何も求めない。」
「求めるものがある。」
私は言った。
「何だ。」
「王国の人々が。」
私は言った。
「安心して暮らせること。」
「それだけだ。」
「...それだけか。」
「それで十分だ。」
女神は長い間。
私を見ていた。
「あなたが信頼できるかどうかは。」
女神は言った。
「まだわからない。」
「わかる必要はない。」
私は言った。
「お互いがそれぞれの道を歩みながら。」
「衝突しなければそれでいい。」
「...その考え方が。」
女神は言った。
「どこから来るのか。」
「わからない。」
私は笑った。
「ただ。」
「戦争より平和の方が好きだから。」
「それだけだ。」
第十章:別れの準備
一時間後
話が終わった。
必要なことは話した。
必要なことだけを。
女神が立ち上がった。
「行く。」
「長く待たせた。」
「いや。」
私は言った。
「一晩待ってくれた。」
「こちらが感謝すべきだ。」
「待つことは苦ではなかった。」
女神は言った。
「この王国で待つことは。」
「想像より穏やかだった。」
「リスカレスが良い話し相手だったか。」
私は聞いた。
女神は少し止まった。
「不思議な悪魔だ。」
女神は言った。
「礼儀正しく。」
「感情がなさそうで。」
「しかし。」
「しかし?」
「お茶を一緒に飲んだ。」
女神は言った。
「それが予想外だった。」
「あいつはそういうやつだ。」
私は言った。
「仕事以外では案外普通だ。」
「案外普通か。」
女神は繰り返した。
「二千年以上暴れた悪魔が。」
「今は違う。」
私は言った。
「何が違う。」
「帰る場所がある。」
私は言った。
女神は止まった。
「帰る場所。」
「そうだ。」
「それだけで。」
女神は言った。
「変わるものか。」
「変わった。」
私は言った。
「実際に。」
女神は。
また少し考えた。
「帰る場所か。」
呟いた。
「何かを思ったか。」
私は聞いた。
「聖軍には。」
女神は言った。
「帰る場所があるだろうか。」
独り言のように。
私は答えなかった。
答えるべき問いではなかった。
女神自身が答えを見つけるべきだったから。
第十一章:門の前での別れ
正門前
女神と護衛が。
門の前に立っていた。
私とリスカレスが見送りに来た。
「また来ることはあるか。」
私は聞いた。
「わからない。」
女神は答えた。
「しかし。」
「しかし?」
「来たいとは思う。」
女神は言った。
「それが答えだ。」
「いつでも迎える。」
私は言った。
「謝罪を受け入れてくれたことに。」
女神は言った。
「感謝する。」
「謝罪は受け入れた。」
私は言った。
「ただ。」
「ただ?」
「次に何かあれば。」
私は言った。
「その時は謝罪では済まない。」
「それだけ覚えておいてくれ。」
女神は頷いた。
「覚えた。」
「では良い旅を。」
女神は。
最後にリスカレスを見た。
「お茶の礼を言う。」
女神は言った。
リスカレスは。
一秒だけ止まった。
「また来た時には。」
リスカレスは言った。
「アクアが新しいものを準備する。」
「それは。」
女神は言った。
「楽しみにしよう。」
翼が広がった。
金色の光が溢れた。
そして消えた。
女神たちが去った。
リスカレスと二人だけになった。
門の前で。
「うまく行ったか。」
私は聞いた。
「マスターが判断すべきことです。」
リスカレスは言った。
「私の感触では。」
私は言った。
「うまく行ったと思う。」
「では。」
リスカレスは言った。
「良かったです。」
「お前も。」
私は言った。
「よくやった。」
「一晩の接待は大変だっただろう。」
「大変ではありませんでした。」
リスカレスは言った。
「なぜ。」
「思ったより。」
リスカレスは言った。
「話せる者でした。」
「神だからと言って。」
私は言った。
「人ではないわけではないからな。」
「...そうですね。」
リスカレスは言った。
「気づいていませんでした。」
エピローグ - 三つの帰還
昼前になった。
三つのことが同時に起きた。
厨房から。
良い香りがした。
アクアが昨日の食材で。
昼食を作り始めたらしかった。
月光茸の香りが廊下を流れた。
闘技場から。
剣の音が聞こえた。
ケンジが。
また練習していた。
夜明け前から始めて。
まだ続けていた。
そして。
ハナが走ってきた。
廊下を。
翅を使わずに走ってきた。
「マスター!」
ハナは言った。
「アクア姉が昼食ができるって!」
「早く来てって!」
「わかった。」
私は言った。
「リスカレスも!」
ハナはリスカレスに言った。
「アクア姉が全員分作ったって!」
リスカレスは。
少し止まった。
「...全員分か。」
言った。
「そうだって!」
「...わかった。」
私たちは歩いた。
厨房へ向かって。
廊下から聞こえた。
ケンジの剣の音が。
遠くなった。
月光茸の香りが。
近くなった。
「どんな料理だろうな。」
私は言った。
「昨日の食材なら。」
リスカレスは言った。
「月光茸のスープだと思います。」
「食べたことはあるか。」
「ありません。」
「私もない。」
私は言った。
「楽しみですか?」
リスカレスが聞いた。
「楽しみだ。」
私は答えた。
「...私も。」
リスカレスは言った。
小さく。
しかし確かに。
厨房の扉が見えた。
扉の向こうから。
アクアの声が聞こえた。
ハナに何かを説明していた。
ハナが「へー!」と声を上げていた。
私は扉を開けた。
アクアが振り返った。
「お帰りなさいませ。」
アクアは言った。
「ただいま。」
私は言った。
「ただいま。」
リスカレスも言った。
珍しく。
アクアは。
一秒だけ止まった。
「...座ってください。」
アクアは言った。
「すぐ出ます。」
テーブルにつけた。
ハナがお茶を持ってきた。
セラフィーネが席の準備をした。
全員が揃っていた。
小さな食卓に。
窓の外で。
王国が動いていた。
市民が歩いていた。
商人が声を上げていた。
子供が笑っていた。
「今日は特別な日ですか。」
アクアが聞いた。
料理を並べながら。
「なぜそう思う。」
私は聞いた。
「女神が来て。」
アクアは言った。
「旅から帰って。」
「謝罪があって。」
「色々あった日です。」
「そうだな。」
私は言った。
「特別な日かもしれない。」
「では。」
アクアは言った。
「ハナ。」
「はい!」
「女王からもらったお菓子を。」
アクアは言った。
「食べる時が来た。」
ハナは目を輝かせた。
鞄から取り出した。
月光の光が封じられたお菓子が。
昼の光の中で輝いた。
「マスターが言っていたよ。」
ハナは言った。
「帰ることが特別な時だって。」
「だから今日ですね。」
アクアは言った。
全員が頷いた。
食事が始まった。
月光茸のスープが。
それぞれの前に置かれた。
一口飲んだ。
「...アクア。」
私は言った。
「何ですか。」
「旅に行って良かった。」
私は言った。
アクアは。
一秒だけ私を見た。
「...私もそう思います。」
言った。
窓の外で。
王国が輝いていた。
特別な日の光で。
普通の光で。
どちらでも良かった。
大切なのは。
その光の下に。
帰る場所があるということだった。
【予告】5つの結末・その三——サチコと共に、不可能を"征服"する
皆さん、こんにちは!
「ダークコンチネント:生きる大陸と至高の支配者」の作者です。
5つの結末のうち——
今日は「三つ目」を話します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 結末その三——ウィズダム・アイランド征服
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
サチコと共に旅を続けたヴィッキーは——
やがて、存在そのものの外側にあるという島——
「ウィズダム・アイランド」に辿り着く。
そして——
永遠世界の高度AIと
対面を果たす。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ なぜ、それは「不可能」なのか
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ウィズダム・アイランドへの道は——
一つではない。
そこに至るまでに——
1000億以上の島々を
攻略しなければならない。
あの「最後の海賊王」でさえ——
生涯をかけて、
たった700の島しか
解けなかった。
一つの島は、一つの試練。
一つの試練は、一つの教訓。
そして——
それぞれの島は、
まったく異なる生態系を持つ。
法則が違う。
力の在り方が違う。
そこに棲む存在の"格"すら違う。
物語が進むにつれて——
それぞれの島でどんな試練が待つのか、
少しずつ明らかになっていきます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 島の住人たちは、規格外だ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ウィズダム・アイランドへ続く
島々に棲む存在たちは——
力によっても。
血統によっても。
運命によってすら——
到達できない領域にいる。
必要なのは——
理解、知恵、慈悲、
そして揺るぎない意志だけ。
なぜ、そんな存在たちが
これほどの力を持つのか。
なぜ、この島々の生態系は
他のどこにも存在しない
ルールで成り立っているのか。
その答えは——
物語を追うごとに、
少しずつ明かされていきます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ ここで、疑問が生まれる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
なぜ、この島は
「不可能」だと言われ続けてきたのか。
なぜ、サチコとヴィッキーだけが
その道を進めるのか。
永遠世界の高度AIは——
彼らに、何を語るのか。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5つの結末のうち——
3つが明かされました。
残る——2つ。
まだ、誰も知りません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
毎日19:00更新中。
「ウィズダム・アイランドで何が起こると思う?」
コメントで予想を聞かせてください。
最後まで、見届けてください。
#世界設定 #ウィズダムアイランド #ライトノベル #ダークコンチネント #5つの結末 #永遠世界高度AI




