第107章:門の前の問い - 帰るための理由を持て
序章 - 夜明けの直前が最も暗い
夜明けの少し前。
空は最も暗くなる。
星が消え始めて。
太陽がまだ来ない。
その隙間の時間に。
世界は息を止める。
その時間に立っている者だけが知る。
暗さには。
二種類あることを。
恐怖からくる暗さと。
出発前の静けさとしての暗さだ。
どちらかは。
その者の心が決める。
第一章:門の前 - 午前五時三十分
ドラゴンハート王国の正門 - 夜明け前
私は立っていた。
門の前に。
一人で。
警備兵が驚いた顔をした。
「マスター?」
「こんな時間に—」
私は手を上げた。
「いい。」
「ここにいるだけだ。」
空は紫だった。
夜と朝の境界の色だった。
冷たかった。
海から来る風が。
一定のリズムで吹いていた。
私は門に寄りかかった。
腕を組んだ。
待った。
何かを止めたいわけではなかった。
何かを言いたかったわけでもなかった。
ただ。
彼らが出る前に。
一度だけ。
顔を見たかった。
なぜかはわからなかった。
王としての義務でもなかった。
ただ。
何かがそうさせた。
時間が過ぎた。
五時五十分。
遠くで。
足音が複数聞こえ始めた。
第二章:出発の朝 - レベル・ホライズン
午前六時
彼らが現れた。
十三人が。
揃って。
全員が完全装備だった。
昨日受け取った武器を持っていた。
鎧は整えられていた。
荷物は最小限だった。
プロの旅人の荷物だった。
必要なものだけを。
余分なものは一つもなく。
アリアが先頭に立っていた。
霜の杖を手に持って。
まっすぐ前を見て。
門の前に立つ私を見た。
足が一瞬止まった。
それだけだった。
また歩き始めた。
「見送りか?」
アリアは言った。
距離が縮まりながら。
声に感情はなかった。
プロとしての声だった。
「話がある。」
私は言った。
アリアの目が僅かに細くなった。
「止めるつもりか?」
「止めない。」
即座に言った。
「では何を?」
私はアリアを見た。
次にグループ全体を見た。
十三人の顔を。
一人ずつ。
順番に。
「ただ一つだけ聞きたい。」
私は言った。
第三章:一つの問い
「捕まえた後。」
私は言った。
「その生き物はどうなる。」
沈黙。
アリアは答えなかった。
すぐには。
グループの中で誰かが動いた。
Bランクの一人が。
アリアの後ろで。
わずかに視線を落とした。
ゼファーが眼鏡を直した。
それが彼の考える時のクセだと。
私はもう知っていた。
カエルは剣の柄に手を置いたまま。
どこかを見ていた。
門の向こうを。
すでに先を見ていた。
ライカーだけが。
私を見ていた。
真っすぐに。
その目に何かがあった。
答えを知っている目だった。
しかし言わない選択をしている目だった。
アリアが口を開いた。
「大きな王国に。」
言った。
「渡る。」
「そういう依頼だ。」
「その後は?」
私は続けた。
「それは。」
アリアは言った。
「私たちの関与しないことだ。」
「その生き物は何万年も生きてきた。」
私は言った。
感情は込めなかった。
ただ事実として。
「知っている。」
アリアは答えた。
「それを縛って。」
「どこかの王国の道具にする。」
「それが目的だ。」
「...知っている。」
アリアはまた答えた。
今度は。
声が僅かに低くなった。
「知っていて行くのか。」
沈黙は長くなった。
ゼファーが言った。
「王、一つ聞いていいか。」
「あなたは何を言いたい。」
「倫理か。」
「哲学か。」
「それとも。」
「実際に止める話か。」
私はゼファーを見た。
鋭い男だと思った。
「倫理でも哲学でもない。」
私は言った。
「止める気もない。」
「では。」
ゼファーは続けた。
「何を。」
私は少し考えた。
自分でも。
なぜここに立っているかを。
整理しながら。
「帰ってくる理由を。」
言った。
「持っているかどうかを。」
「確認したかった。」
第四章:帰る理由
グループが静まった。
「帰る理由?」
カエルが初めて口を開いた。
「俺たちはプロだ。」
「生きて帰ることが仕事だ。」
「それは理由じゃない。」
私は言った。
カエルは眉を上げた。
「どういう意味だ。」
「仕事として生きて帰ることと。」
「帰りたいから生きて帰ることは。」
「あの場所では違う意味を持つ。」
誰も反論しなかった。
私は続けた。
「暗黒の大陸で。」
「包囲された時。」
「仕事として生きようとする者は。」
「計算をする。」
「勝てるか。逃げられるか。死ぬか。」
「その計算が不利になった瞬間に。」
「選択肢を使う。」
全員が何の選択肢かを理解した。
毒液の話だった。
「しかし。」
私は言った。
「帰りたい理由を持つ者は。」
「計算より前に動く。」
「なぜなら。」
「帰れないことが。」
「許せないから。」
誰かが息を吸った。
「勝算のない時でも。」
私は続けた。
「帰りたい者は。」
「勝算を作ろうとする。」
「計算が終わる前に。」
「身体が動く。」
「それが生き残りの理由になる。」
第五章:静かな問い返し
アリアが言った。
「あなたは。」
「私たちに。」
「帰る理由があるかと聞きたいわけか。」
「そうだ。」
私は答えた。
アリアは少し笑った。
笑いというより。
苦さに近い表情だった。
「王は。」
アリアは言った。
「冒険者を心配するのか。」
「心配ではない。」
私は訂正した。
「確認だ。」
「何の違いがある。」
「心配は感情だ。」
「確認は準備だ。」
アリアはまた静かになった。
Bランクの一人が。
後ろで小さく言った。
「俺は。」
「母さんに土産を持って帰ると言ってきた。」
「それが理由か?」
私は聞いた。
「...そうかもしれない。」
その男は言った。
「あの人は心配性で。」
「帰ってこなかったら。」
「俺のせいで泣く。」
「それが嫌だ。」
私は頷いた。
「それでいい。」
言った。
「それで十分だ。」
別の者が言った。
「俺は。」
「まだ見ていない島がある。」
「帰ってそこへ行く。」
また別の者が言った。
「負けっぱなしで死ぬのが嫌だ。」
「もう一度勝ってから死にたい。」
一人ずつ。
言葉が出てきた。
誰かに聞かせるためではなく。
自分に言い聞かせるように。
ゼファーは最後に言った。
「知りたいことがある。」
「あの大陸の秘密を。」
「死んだら知れない。」
「だから帰る。」
ライカーは何も言わなかった。
全員が彼を見た。
ライカーは私を見ていた。
「お前の理由は。」
私はライカーに聞いた。
ライカーは少し間を置いた。
「ない。」
言った。
全員が黙った。
「今は。」
ライカーは続けた。
「ない。」
「だから。」
「帰ってから作る。」
私は彼を見た。
長い間。
「それが一番強い理由かもしれない。」
私は言った。
アリアが静かに言った。
「王。」
「あなたの理由は何だ。」
「生きる理由。」
「帰る理由。」
私は驚かなかった。
問われると思っていた。
「四万人いる。」
私は言った。
「私を必要としている者が。」
「私がいなくなったら困る者が。」
「それが理由だ。」
「それだけか?」
「それで十分だ。」
アリアは短く笑った。
今度は本物の笑いに近かった。
「王らしい答えだ。」
「褒め言葉として受け取る。」
私は言った。
第六章:最後の交換 - 地図と情報
「一つ話す。」
私は言った。
「この王国の守護者の一人が。」
「かつて暗黒の大陸の東の端まで行ったことがある。」
アリアの目が変わった。
情報の匂いを感じた顔だった。
プロの顔だった。
「詳しく。」
一言だけ言った。
私は守護者を呼んだ。
朝の暗闇の中から。
一体の守護者が進み出た。
大きな体格だった。
龍の要素を持つ存在だった。
「あなたが経験したことを。」
「このグループに話してくれ。」
「東の回廊について。」
守護者は頷いた。
そして話し始めた。
「東の回廊から入った場合。」
「最初の三日間は比較的静かだ。」
「生き物たちが新しい侵入者を観察する期間だ。」
「その間に彼らは決める。」
「お前たちが脅威か。」
「または獲物か。」
「四日目から変わる。」
「生き物たちが決断した後は。」
「常に見られている感覚がある。」
「しかし直接の攻撃は来ない。」
「彼らは試す。」
「何かを仕掛けてくる。」
「環境を使って。」
「精神を削ろうとする。」
「七日目以降は未知数だ。」
「そこから先へ行ったことがない。」
「七日で引き返したのか。」
カエルが聞いた。
「なぜ。」
守護者は答えた。
「六日目の夜に。」
「夢を見た。」
「家が燃えている夢だ。」
「翌朝。」
「その夢を信じて帰った。」
「夢を信じたのか。」
ライカーが言った。
「プロとして。」
「あそこでは。」
守護者は静かに言った。
「夢と現実の境界が薄くなる。」
「古い存在たちは。」
「夢の中にも届く。」
「その夢が警告なのか。」
「操作なのか。」
「判断できなかった。」
「だから帰った。」
「判断できない時に帰ることが正解か。」
アリアが言った。
「俺はそう思った。」
守護者は答えた。
「今も後悔していない。」
アリアは頷いた。
情報を整理していた。
私はアリアに向かって言った。
「夢について。」
「一つだけ言っておく。」
「あそこで見る夢が。」
「本当の警告かどうかを。」
「確認する方法がある。」
全員が私を見た。
「夢の中に。」
「帰る理由が出てきたら。」
「それは本物だ。」
「意味が分からない。」
ゼファーが言った。
「もう少し具体的に。」
「帰りたい理由を持っている者は。」
私は言った。
「夢の中でその理由を見る。」
「母親。仲間。土産。行きたい島。」
「そういうものが出てくる夢は。」
「操作ではない。」
「自分の深いところからの声だ。」
「その夢を見たら。」
「判断は合っている。」
「逆に。」
「恐怖だけの夢を見たら?」
ライカーが聞いた。
「それは操作かもしれない。」
私は言った。
「あそこの古い存在たちは。」
「恐怖を使う。」
「恐怖しかない夢は。」
「その可能性が高い。」
「信じるかどうかは。」
アリアが言った。
「私たちが決める。」
「そうだ。」
私は答えた。
「これはただの情報だ。」
「命令ではない。」
第七章:別れの瞬間
空が明るくなり始めた。
紫から。
薄い青へ。
アリアが言った。
「行く時間だ。」
グループが動いた。
門の方へ。
私は道を開けた。
一歩横へ。
一人一人が通り過ぎた。
Bランクの男が通る時。
「土産を持って帰る。」
私は言った。
男は一瞬止まった。
振り返った。
「ああ。」
言って。
また歩いた。
ゼファーが通る時。
「知りたいことを見つけてこい。」
私は言った。
ゼファーは頷いた。
「その予定だ。」
ライカーが通る時。
私は何も言わなかった。
ライカーも何も言わなかった。
ただ。
目が合った。
一秒だけ。
それで十分だった。
アリアが最後に通った。
「帰る理由を使わせないようにする。」
アリアは言った。
「全員を連れて帰る。」
「待っている。」
私は言った。
「誰かに?」
アリアは聞いた。
「この門に。」
私は答えた。
アリアは歩き始めた。
門の向こうへ。
十三人が。
揃って。
消えていった。
第八章:門が閉まった後
静寂が戻った。
私は門を見た。
閉まっていた。
警備兵が言った。
「行きましたね。」
「ああ。」
私は答えた。
「帰ってきますかね。」
警備兵は言った後。
はっとした顔をした。
「すみません。」
「余計なことを—」
「いい。」
私は言った。
「正直な疑問だ。」
「帰ってくるか。」
私は同じ問いを自分に向けた。
「わからない。」
正直に言った。
「しかし。」
「全員が帰る理由を口にした。」
「それは意味がある。」
「なぜですか。」
「言葉にした理由は。」
「消えにくいから。」
「頭の中だけにある時より。
「声にした時の方が。」
「深く残る。」
「あの場所で。」
「辛くなった時に。」
「声にした言葉が蘇る。」
「それが足を動かす。」
警備兵は頷いた。
「土産を待っている人がいると言っていた人。」
「帰ってきそうですね。」
「ああ。」
私は言った。
「彼は帰る。」
第九章:私的な一人の時間
宮殿への帰り道
一人で歩いた。
朝の光の中を。
考えていた。
「帰る理由。」
なぜそれを彼らに聞いたのか。
答えは単純だった。
暗黒の大陸は。
私がまだ行ったことのない場所だった。
情報があった。
危険だという情報が。
20,000年以上生きた存在がいる。
精神を削る何かがある。
夢の境界が薄くなる。
そういう場所で。
何が人を生かすか。
技術でも。
装備でも。
運でもなく。
「帰りたい」という。
単純な感情だと。
私は思っていた。
その感情があれば。
技術が生きる。
装備が意味を持つ。
運を引き寄せようとする。
逆に。
その感情がなければ。
どれほどの力があっても。
一歩足りない時に。
動けない。
「ライカーが。」
私は思った。
「帰ってから作ると言った。」
あの言葉が。
頭に残っていた。
帰る理由がない者が。
帰るために。
「理由を作るために帰る」という。
理由を持った。
それは。
最も根本的な生存の意志だと。
私は思った。
「あいつは帰ってくる。」
確信が。
不思議とあった。
エピローグ - 門は待っている
宮殿に戻った。
書斎に入った。
椅子に座った。
朝の光が差し込んできた。
書類が机の上にあった。
今日もやるべきことがあった。
しかし。
一瞬だけ。
目を閉じた。
「全員で帰ってこい。」
心の中で言った。
言葉にした。
声には出なかったが。
言葉にした。
「土産話を聞く。」
「全員の。」
目を開けた。
書類を手に取った。
仕事を始めた。
王国の四万人の命が。
今日も動いていた。
それが私の理由だった。
遠くで。
十三人が。
暗黒の大陸に向かって。
歩いていた。
門は。
彼らの帰りを。
待っていた。
【番外編】無限真理に聞いてみた——「マスターの好きなものは?」本の返答がこちら
皆さん、こんにちは!
「ダークコンチネント:生きる大陸と至高の支配者」の作者です。
今回は——番外編。
すべての知識を持つ本——
無限真理。
どんな質問にも答える本。
**しかし——**
ヒナタ・ホノカが
ある質問をした日の記録。
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◆ その日——ドラゴンスパイア城
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ヒナタ・ホノカが
無限真理を呼び出した。
ページが開いた。
光が溢れた。
空気が変わった。
ヒナタは——
少し緊張しながら
口を開いた。
ヒナタ:「本よ——
教えてほしいんだけど。
マスター・ヴィカスの
好きなものは何?」
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◆ 無限真理の返答
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沈黙。
そして——本が答えた。
無限真理:
「それは——
私が答える質問ではない。
——自分で解読せよ。」
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◆ ヒナタの反応
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ヒナタは——
しばらく本を見つめた。
(……答えてくれない。)
(でも——)
(「答えない」のではなく——)
(「自分で解読せよ」と言った。)
(これは——)
(答えが存在するということだ。)
(ただ——私が自分で
見つけなければならない。)
ヒナタは本を閉じた。
そして——
マスター・ヴィカスのことを
考え始めた。
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◆ 無限真理について——改めて
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この本は——
すべての質問に答える。
愚か者の質問にさえ——答える。
嘘をつかない。
隠さない。
ただ——真実を語る。
**謎で。パズルで。エニグマで。**
解読できれば——真実が手に入る。
解読できなければ——
答えは永遠に封印される。
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そして——
ヒナタ・ホノカは
その夜から——
マスター・ヴィカスを
もっとよく観察し始めた。
答えを——
自分の目で見つけるために。
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「それは私が答える質問ではない。
——自分で解読せよ。」
——無限真理
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真実はいつもそこにある……
解読されるのを待ちながら。
——マスター・ヴィカス
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毎日19:00更新中。
お楽しみに!
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