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最終話 ただいまの向こう側

帰る場所があると、人は強くなる。


だが――

その場所へ辿り着くまで、何も起きないとは限らない。


最後の一歩。

それは、案外いちばん試される。


そしてその先に待つのは、

ただ一言。


「おかえり」

森の匂いが濃くなってきた。


廃村はもう近い。

丘を越えれば、蒼月亭の屋根が見えるはずだ。


「あと少しだ」


レンが低く言う。


その瞬間だった。


茂みが大きく揺れる。


「来るぞ!」


飛び出してきたのは中型の魔物――牙を持つ獣型が二体、さらに後ろに一体。


「数、三!」


フィオが即座に弓を引く。


矢が一本、先頭の肩を射抜く。


だが止まらない。


レオンが前に出る。


「馬、下げろ!」


レンとセラが手綱を引き、荷馬を後方へ。


香辛料、武具、土産――落とすわけにはいかない。


獣が横から回り込もうとする。


レンが短剣で軌道をずらすが、もう一体が迫る。


「くそ、守りながらはきつい!」


レオンが剣を振るう。


だが足場が悪い。

荷馬を庇いながらでは踏み込みが甘い。


フィオの矢が二体目を削る。


セラが詠唱に入る。


「――ウインドカッター!」


だが一体が馬へ向かう。


「させるか!」


レオンが割って入り、牙を受け止める。


衝撃が腕に走る。


「レオン!」


レンが叫ぶ。


三体目が背後へ回る。


一瞬、陣形が崩れる。


その時――


「おかえり!」


澄んだ声。


前方の林から、影が駆ける。


「……リディアさん!?」


青白く光る細身の剣が閃く。


一体の足を正確に断ち、勢いを殺す。


「魔物の気配があったから来てみたら、いるなんて!」


余裕のある声。


レオンが笑う。


「助かった!」


リディアが横に並ぶ。


「馬、守るよ」


「頼む!」


陣形が一気に整う。


フィオの矢が急所を射抜く。


レンが足を崩す。


レオンが踏み込み、獣の首を断つ。


最後の一体が飛びかかる。


リディアが受け流し、セラのウインドカッターが追撃。


静寂。


魔物は倒れ、森は再び静かになった。


レオンは大きく息を吐く。


「……ギリギリだったな」


リディアが剣を払う。


「荷物いっぱいだもんね」


フィオが笑う。


「落としたら怒られる」


レンが短く言う。


セラがリディアを見つめる。


「来てくれて、ありがとう」


リディアは少し照れたように笑う。


「帰ってくる頃かなって思って」


その言葉に、四人は顔を見合わせる。


レオンが言う。


「リディアさん」


一拍。


「ただいま」


フィオも。


「ただいま」


レンも。


「戻った」


セラが小さく。


「……ただいま」


リディアの顔が、ぱっと明るくなる。


「うん。おかえり!」


そのまま五人で歩き出す。


丘を越えると、蒼月亭が見えた。


屋根から細い煙。


庭先には人影。


「おーい!」


ミレーヌの声。


カイが少し離れて立っている。


アリアが大きく手を振る。


「おかえり〜!」


声が重なる。


レオンは荷馬を止め、振り返る。


仲間たちの顔。


守り抜いた荷物。


戻ってきた道。


そして、目の前の宿。


「ただいま!」


四人の声が揃う。


ミレーヌが笑う。


「遅かったね」


「いろいろ買いすぎた」


フィオが言う。


カイが荷物を見る。


「……なにこれ?」


レオンがにやりとする。


「直してくれ」


カイは盛大にため息をつく。「まったく……」


アリアはセラの包みを見て首を傾げる。


セラが差し出す。


「これ、アリアに」


小さな銀の髪飾り。


アリアの目が輝く。「……ありがとう!」


廃村だった場所は、もう廃村ではない。


笑い声があり、灯りがあり、

「おかえり」と言ってくれる人がいる。


レオンは空を見上げる。


遠回りしても、ここへ戻る。


それが、今の自分たちだ。

最後の一歩で試されることは多い。


だが守るものが増えた時、

人は踏みとどまれる。


荷物も、仲間も、約束も。


そして何より――帰る場所。


「おかえり」と言われること。


「ただいま」と返せること。


それだけで、旅は報われる。


蒼月亭は再び灯った。


そして物語は、ここからまた広がっていく。

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